虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
22 / 673

21※ちょいシリアス。

しおりを挟む

 毎日が、とても楽しかった。

 トルナードさんもミモザさんも優しくて、ロイとスピカがいて、そこにわたしが入ってもみんな笑顔で、家族みたいに過ごせて――――

 でも、そんな楽しい日々は終わりを告げた。

 『ネイサンはこちらの学校に通わせるので、迎えを遣ります。長期に渡りネイサンをお預かりくださり、感謝します。お世話になりました』という、両親からの手紙で。

 嫌だった。

 帰りたくなんてなかった。

 スピカと、ロイと、ミモザさんと、トルナードさん達と、離れるのが酷く寂しかった。

 ロイは、またわたしのために怒ってくれた。

 ミモザさんもトルナードさんも難しい顔をして、

「辛かったら、お祖父様とおばあ様を頼るんだよ」

 とわたしに約束させた。

 そして、帰るまであと何日と指折り数えて、クロシェン一家と過ごして――――

**********

 その日。

 わたしは朝早く起きて、

「ごめんね。帰らないと、いけないんだって」

 と、まだ眠っているスピカのおでこにキスを落とした。そっと亜麻色の髪を撫でて……

 それから、クロシェン家を出た。

 スピカの泣く顔は、見たくなかったから。

 ロイはすごくふてくされた顔で、

「元気でな、ネイサン。絶対また来いよ!」

 そう言ってくれた。

 けど、わたしは頷けなくて……

 ミモザさんとトルナードさんは、心配そうな顔でわたしを見送ってくれた。

 迎えに来た馬車の座席は、やっぱり空っぽ。

 荷物とお土産を積み込んでもらって、こちらへ来るとき同様。わたし一人で座席に乗った。

 実家を出るときには、あんまり寂しいとは思わなかったのになぁ。

 まさか実家へ帰るときになって、こんなにも寂しい思いをするだなんて――――

 全然、思いもしなかった。

 スピカ、泣いてないといいんだけど……と思いながら、持たされたサンドウィッチを噛った。わたしの好きな物ばかりが入っていて、美味しい筈なのに、どこか味気なく感じる。

 久々の一人の時間が、なんだかとても長く感じた。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?

月白ヤトヒコ
恋愛
わたしには小さい頃、大好きな大好きなねえ様がいた。そんなねえ様と過ごす愛しい日々が、ずっと続くと思っていた。けれどねえ様は、ある日突然いなくなってしまった。 ねえ様がいなくなって、めそめそ泣いていた幼いわたしに、お父様が婚約者を決めた。 その婚約者様は隣国に住んでおり、一度も会ったことが無い。そして、わたしの十五歳の誕生日。婚約者様と初めて顔合わせをする。 設定はふわっと。 ※百合ではありません。 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...