虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
11 / 673

11

しおりを挟む

「なぁ、ネイサン。俺さ、ずっと気になってたんだけどよ~」
「なに?」

 家庭教師からの宿題を二人でやっていたときのこと。飽きて来たのか、ロイが絡んで来る。

「なんでお前、そんな髪長いの? なんで女の子みたいに髪伸ばしてんの?」

 つんと、首の後ろで簡単に括った髪が軽く引っ張られた。

「え?」

 ロイに聞かれたことの意味がわからなくて、首を傾げる。

 そう聞いたロイの髪は、普通に短い。

 というか、わたしくらいに髪の毛の長い男の子は、見たことが無い気もする。

「? いや、だってお前、しょっちゅうスピカに髪引っ張られて迷惑そうな顔してんじゃん。痛そうだしさ。なのになんで切らねぇの? って思ってさ」

 ロイはとても不思議そうだ。

「ぁ~……いや、これは別に伸ばしてるワケじゃない、と思う」
「は? そんな長くてか? 腰くらいまであって? なに言ってんのお前」
「前髪は目に入ると困るからって、乳母が切ってくれてたけど……後ろは、切ったことない」

 確かに、わたしの髪は男にしては長い。結んでない状態で、腰くらいまでの長さがある。
 今嫌なことに気付いたけど、丁度スピカが立ったときに掴み易い位置にあるのかもしれない。

 まぁ、それはかく、実は物心付いてから、前髪以外切った覚えがない。だから、腰の位置くらいここまで伸びた……のだろう。

「? なんで?」

 ……多分だが、わたしの髪を切っていいのかわからなかったから、なのかもしれない。
 父も母も、わたしのことはあまり関心がないから。わたしの乳母は……母にあまり好かれてなくて、避けられていたみたいだし。髪を切っていいのか聞く機会がなく、ずるずるとここまで来たのだろう。

 祖父母も、特になにも言わなかったから……父か母の趣味で、わたしの髪を伸ばしているのだと思っていたのかも。

 兄上の髪は長めではあるけど、こんなに長くはないから……わたしのこの腰まである長い髪は、わたしへの関心の無さなんだろうけど。

「誰も切ってくれなかったから……?」
「マジかよっ?」
「うん」

 目をまるくして驚くロイに頷く。

「じゃあさ、お前が切ってもいいって思うんなら、切ってもいいんじゃね? そしたらさ、立ってるとき後ろから髪引っ張られなくて済むぜ」
「! そうだね! じゃあ、切ろうかな」

―-✃―――-✃―――-✃―-―-

 早速、ロイが散髪が得意だという侍女を呼んで来て、髪を切ってもらった。

 腰まであった髪の毛をバッサリと、肩の辺りまでの長さにしてもらった。

 もっと短くてもよかったけど、ずっと長かったのをいきなり短くすると、風邪をひいたり体調を崩すかもしれないからと、この長さに落ち着いた。

 確かに背中が涼しくなって、頭もなかなか軽くなった気がする。ずっと長かったから意識してなかったけど、髪の毛って意外と重さがあるらしい。

 そして、なにより一番嬉しいのは……これでもう、歩いているときにいきなり後ろからスピカに髪を引っ張られなくて済むということっ!!

 まぁ、抱っこしたり座っているときには、変わらず引っ張られそうな気はするけど……
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

処理中です...