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 結局、わたしが家に帰って、「ネイトが無事で良かった。置き去りにしてごめんね」と言って謝ってくれたのは、兄上だけだった。

 それで、元々わたしの待遇に不満を持っていた乳母が、祖父母にこのことを報告してね。

 兄上セディーと比べて健康だからと、あまりにもわたしネイトのことを蔑ろにしている。と祖父母が両親を叱って、わたしは祖父母の家に連れて行かれた。

 ああ、乳母は祖父が雇ってくれることになったよ? 元々は祖父母が雇っていたのを、わたしが親許に戻るとき、そのままわたしの乳母として雇用主を両親に切り替えたという話だから、再雇用という感じになるかな。

 それから、あれよあれよという間に、わたしの留学・・が決まってしまってね。

✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰

「なかなかの話だろう? そういうワケで、わたしは君の家ここにいる。さて、わたしはなにをしたんだろうね?」

 にっこりと笑って問い掛けると、同い年の少しヤンチャそうな少年はぐっと唇を噛み、

「なんだよそれっ! なんで笑ってるっ!? お前は別になんにも悪くねぇじゃないかっ!?」

 顔を真っ赤にして、怒鳴った。

「なにが、家族にも懐かない上、甘やかすと付け上がるから厳しくしろだよ! なんでうちにそんな手紙送って来んだよっ!? お前の親、頭おかしいんじゃねっ!?」

 どうやら、両親から手紙が来ていたらしい。

 わたしは両親に、『甘やかすと付け上がるような子供』として見られていたというワケか。
 まぁ、見ように拠っては、わたしは両親に懐かない可愛くない子供で、祖父母に甘やかされているとも取れるかもしれない。
 両親に甘やかされた覚えは、特に無いけど。

 家を出るときも、「元気でね、ネイト」と言って寂しそうに、けれど笑顔で見送ってくれたのは、兄上と祖父母で……
 両親はずっと怒ったような顔で、結局わたしになにも言わないまま別れた。

 様々な事情があったのはちゃんとわかってる。でも、自分達が祖父母にわたしを預けて遠ざけたクセに、とも思う。

 両親と同じ家に住むようになっても、わたしとの接触も、会話すること自体も少なかったのに。
 出掛けたり、余所の家のお茶会に参加したりも、ずっと祖父母が一緒だったし。

 数年前まで、家族だとさえも認識していなかったというのに。それで懐かないから可愛くない?

 挙げ句、自分達がわたしを忘れて置き去りにしたクセに? なのに、悪いのはわたし。

 両親にとっては、わたしは扱い難くて、厳しくしないとすぐに付け上がるような悪い子だった、というワケか。

 ホントもう、勝手過ぎて呆れるよなぁ。

 わたしを厄介者だというなら、そう思った時点で、また祖父母に預ければよかったのに。

 ああ、いや、だから・・・わざわざ隣国まで来たのか。留学という体で。兄上と違って『健康なわたし』を、祖父母にずっと預けっ放しというのは、外聞がよくないから留学、なのかな?

 それで彼は、わたしを見定めようとしたようだ。

 けれど……なんで彼が、初対面のわたしの事情を聞いて怒るのかが、よくわからない。

「ねえ、なんで君が怒ってるの?」
「……別にいいだろ」

 よくわからないけど――――家を出る前に、「心配しなくて大丈夫ですよ、ネイト。わたしが選んだ家です。きっとあなたによくしてくれます」と、おばあ様が微笑んだことを思い出した。

 そして、ヤンチャそうな彼は――――

「俺は、ロイだ。お前の名前は?」

 ムッとした顔でわたしに手を差し出した。

「わたしはネイサン」

__________

 次の話からほのぼのして来ます。
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