虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 雨に濡れて生乾きの服で、少し寒いと思いながら、暗くなって行く道を乳母と二人で延々と歩いた。
 忘れるくらいなら、最初から連れて来なきゃよかったのに……そう思いながら。

 完全に日が落ちて真っ暗になったときには、「大丈夫ですよネイト様。わたくしが付いていますからね」と言った乳母の手が、少し震えていたなぁ。

 行きに馬車の中で軽食を食べたきり。お腹を空かせながら何時間も歩いて、足が痛くてくたくたになった頃か、うちの馬車が凄い勢いで走って来てね。わたしと乳母は、その馬車に拾われて、無事家に着いたよ。

 それからが大変だったんだけどね。

 どうやらわたしは、ピクニック中断に拗ねて、わざと馬車に乗らないで、両親に心配を掛けたことになっていたらしい。

 家に帰ると、「こんなみっともない真似をして楽しいか」と怒鳴った父に殴られたよ。

 わざとではないにしろ、忘れて行ったのは、自分達のクセにね。しかも、わたしがいないことに気付いたのは、夜になってからだって言うのがなんとも言えないよ。全く。

 更には、夕食時にわたしがいないことを不審に思った兄上が、わたしを置き去りにしたかもしれないと慌てたことと、乳母がいないことで、やっとわたしがいないことに気付いたんだって。

 兄上が言わなければ、わたしを忘れて置き去りにしたことに、いつ気付いたんだろうね?

 それでいて、わたしがわざとそんなことをしたのだと一方的に決め付けて、殴ったんだ。

 初夏とは言え雨に打たれた後、お腹を空かせながら暗い夜道を何時間も歩いて、疲れて馬車で寝ていたのを無理矢理叩き起こされて、引き摺り出されてさ。挙げ句、いきなり怒鳴られて殴られて、本当に意味がわからなかった。

 なんなんだろう、この人は? って思ったよ。

 これには、さすがにわたしが可哀想だと、「ネイト様とわたくしを置き去りにして行ってしまわれたのは、旦那様方です。ご自分達がネイト様をお忘れになられたのではありませんか」と、乳母が父に抗議した。

 結果、わたしのせいで乳母は解雇された。
 監督不行き届きという名目でね。ホント、どっちが? って感じだけどね。

 まぁ、わたしは翌日から熱を出して寝込んでしまって……知らされたのは回復してからだったけど。

 ちなみに、母はわたしの看病はしてくれなかったよ。「あんな悪ふざけをしてみんなを困らせるようなことをするから、バチが当たるのよ。治るまで反省しなさい」とは、言われたけどね。

 わたしがすべき反省って、なんなんだろうね?
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