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わたしには身体の弱い兄がいてね。
三つ年上のセディー…セディック兄上は特定の病気などではないけど、よく体調を崩して寝込んでしまうような虚弱体質で、あまり外へは出られなかった。
一応、わたしとセディーは正真正銘同母間の実の兄弟で、同じ家に住んでいたんだけど、小さい頃には毎日顔を合わせることはなかったよ。
彼の体調が良いときにだけ会える、ベッドの上の友人。わたしは兄上のことを、そんな風に認識していたように思う。
ベッドの上の友人のことを兄なのだとわたしが認識したのは、四歳くらいの頃かもしれないね。
ちなみにそれまでは、兄上は『ベッドの上の友人』で、母はその『友人の面倒を見ている心配性な女の人』、父のことは偶に疲れた顔で、『心配性な人を慰めに来るおじさん』という認識だった。
わたしも大概だよね。
まぁ……そんな風に思うくらい、わたしと彼らとの接触は薄かったんだけど。聞いた話に拠ると、わたしは生まれて数ヵ月で祖父母に預けられて、二歳半で両親の下に戻ったんだって。それも関係していたのかな?
それで、母は兄上が心配だと、ずっと付きっきりで看病していてね。いつも疲れた顔をしていた。
兄上は母が常に側にいることで気疲れするらしく、「偶には一人になりたいんだけどね」と苦笑しながらひっそりとわたしに零していたのだけど……
母がね、「セディーのことが心配なの」と言って側から離れようとしない。
無理に兄上から離すと、「丈夫な身体に産んであげられなくてごめんなさい」と泣き出して、情緒が酷く不安定になるんだ。
父は忙しい仕事の合間に、そんな母の相手をして、宥めたりと大変そうだった。
よく体調を崩して顔色の優れない兄上も、兄上を心配して情緒不安定になる母も、その母を宥める父も、みんなそれぞれにいつも、色々と大変そうで、とても疲れていそうだったから。
そんなわたし達は、家族ではあるのだけれど、毎日顔を合わせるということがなかった。数日に一度。下手をすると、月に数度程度の接触かな?
そして、みんな自分達のことで手一杯でね。跡取りの長男じゃなくて、滅多に風邪もひかないくらい健康で、特に問題の無かったわたしのことには、あまり手が回らなかったらしい。
兄上は具合が悪くないときにはわたしに構ってくれて……ああ、わたしは兄上を友人だと思っていたけど、兄上はちゃんとわたしを弟だと認識していたよ?
けど、母が少々……ね。「ネイトは走り回れる程に健康でいいわね。ネイトの健康を、少しでもセディーに分けてあげられたらいいのに」と、兄上を不憫がってしきりとそう零していてね。
病弱な兄上と健康なわたしをなにかと比べて、兄上が可哀想だと、わたしを恨めしそうな目で見る。
わたしはあまり母に懐いてなくて……いや、『友人に付いている心配性な疲れた女の人』だと思っていたくらいだ。自分の母親だとは認識しなかった、かな?
だから母は、そんなわたしを可愛いとはあまり思えなかったのかもしれないね。
母自身にはそんな自覚は無かったのかもしれないけど、そういった母の態度に、兄上がわたしへ申し訳なさそうな顔をするんだ。
そして、兄上の元気がないと、母の情緒が不安定になるという悪循環に陥ってしまう。
それでわたしは、母がいるときにはあまり、兄上の部屋には近付かなくなった。まぁ、母が兄上の側にいない時間はとても短いんだけどね。
夜に母の目を盗んでこっそりと遊ぶというのも、なかなか楽しかったよ。
そんなこんなで、わたしは両親というより、祖父母や乳母、わたし付きの使用人、そして家庭教師達に育てられたと言っても過言ではないかもしれない。
三つ年上のセディー…セディック兄上は特定の病気などではないけど、よく体調を崩して寝込んでしまうような虚弱体質で、あまり外へは出られなかった。
一応、わたしとセディーは正真正銘同母間の実の兄弟で、同じ家に住んでいたんだけど、小さい頃には毎日顔を合わせることはなかったよ。
彼の体調が良いときにだけ会える、ベッドの上の友人。わたしは兄上のことを、そんな風に認識していたように思う。
ベッドの上の友人のことを兄なのだとわたしが認識したのは、四歳くらいの頃かもしれないね。
ちなみにそれまでは、兄上は『ベッドの上の友人』で、母はその『友人の面倒を見ている心配性な女の人』、父のことは偶に疲れた顔で、『心配性な人を慰めに来るおじさん』という認識だった。
わたしも大概だよね。
まぁ……そんな風に思うくらい、わたしと彼らとの接触は薄かったんだけど。聞いた話に拠ると、わたしは生まれて数ヵ月で祖父母に預けられて、二歳半で両親の下に戻ったんだって。それも関係していたのかな?
それで、母は兄上が心配だと、ずっと付きっきりで看病していてね。いつも疲れた顔をしていた。
兄上は母が常に側にいることで気疲れするらしく、「偶には一人になりたいんだけどね」と苦笑しながらひっそりとわたしに零していたのだけど……
母がね、「セディーのことが心配なの」と言って側から離れようとしない。
無理に兄上から離すと、「丈夫な身体に産んであげられなくてごめんなさい」と泣き出して、情緒が酷く不安定になるんだ。
父は忙しい仕事の合間に、そんな母の相手をして、宥めたりと大変そうだった。
よく体調を崩して顔色の優れない兄上も、兄上を心配して情緒不安定になる母も、その母を宥める父も、みんなそれぞれにいつも、色々と大変そうで、とても疲れていそうだったから。
そんなわたし達は、家族ではあるのだけれど、毎日顔を合わせるということがなかった。数日に一度。下手をすると、月に数度程度の接触かな?
そして、みんな自分達のことで手一杯でね。跡取りの長男じゃなくて、滅多に風邪もひかないくらい健康で、特に問題の無かったわたしのことには、あまり手が回らなかったらしい。
兄上は具合が悪くないときにはわたしに構ってくれて……ああ、わたしは兄上を友人だと思っていたけど、兄上はちゃんとわたしを弟だと認識していたよ?
けど、母が少々……ね。「ネイトは走り回れる程に健康でいいわね。ネイトの健康を、少しでもセディーに分けてあげられたらいいのに」と、兄上を不憫がってしきりとそう零していてね。
病弱な兄上と健康なわたしをなにかと比べて、兄上が可哀想だと、わたしを恨めしそうな目で見る。
わたしはあまり母に懐いてなくて……いや、『友人に付いている心配性な疲れた女の人』だと思っていたくらいだ。自分の母親だとは認識しなかった、かな?
だから母は、そんなわたしを可愛いとはあまり思えなかったのかもしれないね。
母自身にはそんな自覚は無かったのかもしれないけど、そういった母の態度に、兄上がわたしへ申し訳なさそうな顔をするんだ。
そして、兄上の元気がないと、母の情緒が不安定になるという悪循環に陥ってしまう。
それでわたしは、母がいるときにはあまり、兄上の部屋には近付かなくなった。まぁ、母が兄上の側にいない時間はとても短いんだけどね。
夜に母の目を盗んでこっそりと遊ぶというのも、なかなか楽しかったよ。
そんなこんなで、わたしは両親というより、祖父母や乳母、わたし付きの使用人、そして家庭教師達に育てられたと言っても過言ではないかもしれない。
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