虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
2 / 673

しおりを挟む
 わたしには身体の弱い兄がいてね。

 三つ年上のセディー…セディック兄上は特定の病気などではないけど、よく体調を崩して寝込んでしまうような虚弱体質で、あまり外へは出られなかった。

 一応、わたしとセディーは正真正銘同母間の実の兄弟で、同じ家に住んでいたんだけど、小さい頃には毎日顔を合わせることはなかったよ。
 彼の体調が良いときにだけ会える、ベッドの上の友人。わたしは兄上のことを、そんな風に認識していたように思う。

 ベッドの上の友人セディーのことを兄なのだとわたしが認識したのは、四歳くらいの頃かもしれないね。
 ちなみにそれまでは、兄上は『ベッドの上の友人』で、母はその『友人の面倒を見ている心配性な女の人』、父のことは偶に疲れた顔で、『心配性な人を慰めに来るおじさん』という認識だった。

 わたしも大概だよね。

 まぁ……そんな風に思うくらい、わたしと彼らとの接触は薄かったんだけど。聞いた話に拠ると、わたしは生まれて数ヵ月で祖父母に預けられて、二歳半で両親の下に戻ったんだって。それも関係していたのかな?

 それで、母は兄上が心配だと、ずっと付きっきりで看病していてね。いつも疲れた顔をしていた。

 兄上は母が常に側にいることで気疲れするらしく、「偶には一人になりたいんだけどね」と苦笑しながらひっそりとわたしに零していたのだけど……

 母がね、「セディーのことが心配なの」と言って側から離れようとしない。
 無理に兄上から離すと、「丈夫な身体に産んであげられなくてごめんなさい」と泣き出して、情緒が酷く不安定になるんだ。

 父は忙しい仕事の合間に、そんな母の相手をして、宥めたりと大変そうだった。

 よく体調を崩して顔色の優れない兄上も、兄上を心配して情緒不安定になる母も、その母を宥める父も、みんなそれぞれにいつも、色々と大変そうで、とても疲れていそうだったから。

 そんなわたし達は、家族ではあるのだけれど、毎日顔を合わせるということがなかった。数日に一度。下手をすると、月に数度程度の接触かな?

 そして、みんな自分達のことで手一杯でね。跡取りの長男じゃなくて、滅多に風邪もひかないくらい健康で、特に問題の無かったわたしのことには、あまり手が回らなかったらしい。

 兄上は具合が悪くないときにはわたしに構ってくれて……ああ、わたしは兄上を友人だと思っていたけど、兄上はちゃんとわたしを弟だと認識していたよ?

 けど、母が少々……ね。「ネイトは走り回れる程に健康でいいわね。ネイトの健康を、少しでもセディーに分けてあげられたらいいのに」と、兄上を不憫がってしきりとそう零していてね。

 病弱な兄上と健康なわたしをなにかと比べて、兄上が可哀想だと、わたしを恨めしそうな目で見る。

 わたしはあまり母に懐いてなくて……いや、『友人・・に付いている心配性な疲れた女の人』だと思っていたくらいだ。自分の母親だとは認識しなかった、かな?
 だから母は、そんなわたしを可愛いとはあまり思えなかったのかもしれないね。

 母自身にはそんな自覚は無かったのかもしれないけど、そういった母の態度に、兄上がわたしへ申し訳なさそうな顔をするんだ。
 そして、兄上の元気がないと、母の情緒が不安定になるという悪循環に陥ってしまう。

 それでわたしは、母がいるときにはあまり、兄上の部屋には近付かなくなった。まぁ、母が兄上の側にいない時間はとても短いんだけどね。
 夜に母の目を盗んでこっそりと遊ぶというのも、なかなか楽しかったよ。

 そんなこんなで、わたしは両親というより、祖父母や乳母、わたし付きの使用人、そして家庭教師達に育てられたと言っても過言ではないかもしれない。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...