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今日はあのクズと縁切りできたお祝いよ!
しおりを挟む彼の顔が、青を通り越して一瞬で真っ白になった。
「あなた、妹さんがいますでしょう? 妹さんはまだ若いですもの。今から当主教育をしても、きっと間に合いますから大丈夫ですわ! あなた方は、その愛を貫いてくださいな」
にっこりと、笑顔で言い募る。
数年先の未来を見通すのは、おバカさんには難しかったのかもしれないが・・・
「こんな風に当事者だけで呆気無く、簡単に白紙になるような婚約の確認の手間すら惜しんで。愛しているという相手の、たった数か月後の健康や、命すら脅かし兼ねないという、その危険性すら知らなかった、愛すらあればそれでいい、と。本当に、恐ろしい程に一途で無謀な愛情ですこと」
こんな、相手のことを考えないのが『愛』ねぇ?
「では、もう一度改めてお聞きますが・・・相手の健康どころか命すらも顧みない、一時の興味や盛り上がった感情に因る自分本位な慾望や快楽って、本当に愛なのかしら? ねえ、あなた方お二人はご自分達の仰っている『その愛』があれば、お相手やご自分の死すらも厭わないの?」
二人はわたくしの質問に答えることなく、蒼白な顔で俯いたまま。
「わたくしは、そんな風に自分の命や未来すらも惜しまない『愛』だなんて怖くて、とてもとても真似できそうにありませんわ。真似したいとは、全く思っておりませんけれど」
わたくしが考える『愛し合う』というのは、お互いのことを思い遣りながら尊重し、慈しみ合う関係のことだ。そう思うわたくしが、ロマンチストなだけなのかしら?
二人を見やると、先程までの自信や希望、優越感に満ちた表情などが、微塵も感じられない。漂っているのは……絶望や悲愴感かしら?
「では、お客様のお帰りよ」
パンと手を打ち、使用人に二人を追い出させる。
「お嬢様、玄関先に塩を撒いておきました!」
と、ずっとあの二人の後ろで般若の如き顔をしていた使顔用人がやっと笑顔を見せて報告。
「そう、それじゃあ、今日はあのクズと縁切りできたお祝いよ!」
「「「お任せください!」」」
使用人達が一斉に動き、この日は本当にパーティーになった。
どうやら彼は、さっきの『愛の話』ですこぶる使用人達に嫌われていたようだ。
。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・✽
こうして、『愛が無い結婚は不幸だ』と言ってわたくしに婚約を破棄(そもそも婚約自体してなかったというのに)するよう突撃して来た二人だったけど――――
彼女の方は、数日もしないうちに家庭の事情で学園を退学。
彼の方も、病気療養の為に休学。おそらく、もう学園に戻ることはない。
二人共、学園からいなくなってしまった。
そして、彼の家からはお詫びの品がわたくしの家に届きました。
お詫び、というには過剰な贈り物な気がしますが・・・おそらくは、口止め料なのだろう。
彼女が妊娠していた、ということへの。
事実の有無はどうあれ、彼らはやり方を間違えた。
わたくしと『婚約の約束』をしていた人が――――いなくなっちゃった。
これから、どうしようかしらねぇ?
うちはお兄様がいるから、後継ぎには困っていないし・・・
まぁ、暫くのんびり考えればいいかしら。
とりあえず、どこぞの愚かなお花畑の二人のように、相手のことを思い遣ることのできない人間のクズはお断りと言ったところか。
自由恋愛を否定する気はないけど、やっぱりある程度の順序って大事よね。
特に女性は。男は自分のお腹で子供を育てないからわからないだろうけど、なにかあったら心身共に傷付くことになるのは女の方なんだから。身体も心も、男よりずっと深く・・・
あんな、相手のことを全く考えないクズ男なんて願い下げだ。
だからわたくしは、ちゃんとわたくしのことを真剣に考えて思い遣ってくれる人がいい。
そういう人が・・・どこかにいないかしら?
まぁ、焦らずにそういう誠実な殿方をさがしましょう! そして、一人でも生きて行ける準備をしなきゃ!
わたくしはもう、フリーになったのだから♪
――おしまい――
__________
ある意味、普遍的な話ではあるかと……
女性の皆様、自分の心身や健康を守りましょう。そのための自衛は大事です。
男性の皆様。責任は大事です。呉々も責任が取れない事態に陥らぬよう、自重と自制心を忘れずに。お気を付けください。
皆様、ちゃんとご自愛なさってくださいませ。
ある意味、この『『それ』って愛なのかしら?』は、
『俺の暗殺を企んでいる(と思しき)婚約者に婚約破棄を叩き付けたら、社会的に抹殺されたっ!?』と通じるものがあると思います。
『俺の暗殺を~』の方はブラックコメディータッチですが、気になった方は『月白ヤトヒコ』の作品リンクから覗いてやってください。(*´∇`*)
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NOGAMIさん。感想をありがとうございます♪
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