腐ったお姉ちゃん、【ヤンデレBLゲームの世界】で本気を出すことにした!

月白ヤトヒコ

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あの、毒花が咲き初めた夢の果てでは……ゲーム本編の、クラウディオルートで不幸確定。

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 視点変更。

――――――――


 ああ、また……今日が始まるのね……

 朝はいつも憂鬱な気分で目を覚ます。特に、王城へ向かわなければならない日には。

 わたくしが一体、なにをしたというのでしょうか?

 別にわたくしとて、どうしてもクラウディオ殿下と結婚したいと、婚約者になったワケではありません。

 それを、さもわたくしが公爵家の権力を悪用してクラウディオ王太子殿下の婚約者に収まったかのような悪評を立てられています。

 できるのであれば、初対面で『俺は側妃を複数持つ。お前がそれに意を唱えることは許さんが、王妃としての責務を確りと果たせ』などと、十二の女の子であったわたくしへそんなことをハッキリ仰る方との婚約なんぞ、お断りしたかったです。

 王城で王妃教育が始まるまでに会う人々に遠回りなイヤミを言われ、王城勤務の若い殿方達からは意味不明な敵意を向けられて、判り難く、ときには判り易い明確な嫌がらせを受けます。

 クラウディオ殿下のことを好きではなく、義務で王妃教育を受け、時間に追われ、大勢の人間の悪意や敵意、ときには害意に晒され、下手をしたら命を狙われる……このようなストレス多大な生活、代われるものなら誰かに代わってほしいですわ。

 しかも、王妃になったとてクラウディオ殿下は側妃を持ち、堂々と浮気や火遊びをなさるそうですわ。待っているのは、王妃としての責務と時代の王族を産むという義務を課せられること。

 これが、わたくしの未来。

 ただでさえ、現在クラウディオ殿下より少し年上だったり、同学年の貴族令嬢のお姉様方……クラウディオ殿下の婚約者に選ばれなかった方々から敵視されているというのに。王妃として、貴族婦人を取りまとめなくてはならないと言われておりますが……割と難題ではありませんこと?

 わたくしに王妃教育を施してくれる教師の方の中には、そういう選ばれなかった貴族令嬢の親族の方もいて、イヤミと大量の課題をわたくしへ出してくれる方もおりますし。

 正妃様は正妃様で、「このくらいのこと、あなた一人で対処できなくてどうするのです」と、冷たくわたくしを突き放します。

 わたくしが安らげるのは、我が家の中だけ。

 一歩外へ出ると、敵だらけ。そして、数年後には敵だらけで息が詰まるような王城へ嫁がなくてはなりません。現在、わたくしの味方をしてはくれず、むしろ敵を増やして行くばかりのクラウディオ殿下へと。

 これが憂鬱でなくて、なんだというのでしょう?

 沈んだ気分で、王城へ向かう支度をして――――

 また、今日も今日とて若い殿方へ嫌がらせを受けました。

「クラウディオ様に愛されてなどいないクセに!」

 擦れ違い様に蔑むように、けれどどこか苛立つような低い囁きが落とされました。その表情は、見覚えのある表情で……そう、わたくしによく向けられる顔ですわ。

 嫉妬、と称するのが相応しい、敵意を隠さない表情。

 貴族令嬢なら兎も角、若い殿方が、なぜそのような剥き出しの嫉妬をわたくしへ向けるのか……そのときには、わかりませんでした。ある日、王妃教育の為に王城へ向かい、クラウディオ殿下へ用事ができて――――王太子の執務室へ向かうまでは。

 執務室の中で抱き合う、クラウディオ殿下と侍従と見られる若い男性を見てしまいました。親愛のハグとは違った……随分と熱っぽい抱擁。そして、見詰め合う二人は顔を近付け――――

 と、わたくしは居た堪れずに、クラウディオ殿下への用事を他の方へ言い付けて帰ることにしました。

「……その、申し訳ございません。サファイラ様」

 心底気まずいという表情で、いたましそうにわたくしを見下ろすウェイバー様や他の年配の護衛、侍従の方々。中には、ニヤニヤとわたくしを嘲笑っている若い方もおりました。

 ああ、皆さん知っていらしたのね。クラウディオ殿下の火遊び相手が……女性ではなく、男性だったということを。

 知らなかったのは、わたくしだけ。

 ああ、だからわたくしは城の若い殿方達から嫌われていたのね。おそらくは、クラウディオ殿下と関係を持つ若い男性から。

 嫉妬、されていたのかもしれませんわ。

 本当に……心底くだらないわ。

 誰が、好き好んであんな方の婚約者に収まっているものですか!

 なれるものなら、ご自分がなれば宜しいでしょうに!

 今までの理不尽な嫌がらせ、敵意、悪意、害意を向けられることの理由が判ったけれど……余計に、それが理不尽だという感情が増しただけでしたわ。

 沸々と、沸騰するような……急激に冷めて凍て付くような……怒りが込み上げて来ます。

 そんなぐちゃぐちゃした感情で、嫌がらせを受けました。瞬間、

「お嬢様を誰だと思っているのですっ!?」

 いつも、わたくしの為に怒ってくれる侍女が言いました。

 その言葉が、ストンと胸に落ちた。

 そう、そうだ。わたくしは、公爵家の娘であり、不本意ながらもクラウディオ王太子殿下の婚約者。いずれ王妃となる準王族だ。

 こんな、王城の使用人如きに舐められていい存在な筈はない。

 正妃様もわたくしに言っていた。「あなたが自分でなんとかしなさい。舐められるあなたにも問題があるのではなくて?」と。

 そうですね、そう思います。今までのわたくしは甘かった。

 嫌われるわたくしにも問題があるのだと、ぐだぐだ悩んでいたのが馬鹿らしい。

 理由なんて、ただの嫉妬。クラウディオ殿下へ好意を寄せる馬鹿な若い男共が、クラウディオ殿下の婚約者であるわたくしへ嫉妬で嫌がらせをしていただけ。

 わたくしに瑕疵なんて、非なんて無かった。

 ならば……判らせてやるわ。

 お前達が誰に、なにをしたのかを。

「そうね、お前。わたくしを誰だと思っているのかしら? わたくしは、クラウディオ殿下の婚約者よ」

 単なる事実を口にしたら、若い男の顔が悔しげに歪んだ。ああ、いい貌ね。わたくしへ嫌がらせをして、わたくしの行動を影で嗤っていた男の顔が歪むのは、いい光景だわ。

「準王族であるわたくしに対して、不敬だとは思わないの? まあ、謝罪どころかそのような醜い顔でわたくしを睨むくらいだもの。お前、不敬罪ね。鞭打ち五回よ、連れて行きなさい」
「ハッ!」

 年配の近衛が動き、男の肩を捕らえて逃がさないようにする。

「え?」

 ぽかんとした顔でわたくしを見やる男の顔が、

「牢へ連れて行け」

 との言葉で縄を掛けられた途端、蒼白に変わる。

「鞭打ちは、運が悪ければ死ぬこともあると聞いたけれど……準王族であるわたくしへ、このような態度を、嫌がらせを幾度も続けていたのだから。いずれは王族相手にも、このようなことを仕出かすかもしれないもの」

 不敬だから、仕方ないわ♪

「お、お許しを! お許しくださいっ!! 申し訳ありませんでしたっ!! ……っ!?」

 必死の形相でわたくしへ許しを乞い、引き摺られて行く様は……久々に胸がスッとした。

「ふ、ふふふふふふふふふふふふっ……うふふっ、ふふふふふふふふっ……」

 ああ、もっと早くにこうすればよかったっ!!

 我慢していたのが馬鹿みたい。

 もう我慢なんて、する必要無いわっ!!

 ああ、そうだ。なら、いっそのこと――――壊してしまいましょうか。

 わたくしを縛る、全てのものを。

 ふふっ、いつもわたくしをいたましいというお顔で見詰めるウェイバー様。

 わたくしを、クラウディオ殿下の婚約者に据えた国王陛下やお父様。

 わたくしを助けてくれなかった人達。

 わたくしを妬んで見下して、蔑んで来た年上のお姉様方や、その親族の婦人。正妃様。

 わたくしを侮り、虐げても構わないと見下すクラウディオ殿下。

 壊しましょう、壊しましょう。全てを。全部を。これからの未来を。

 いずれ、クラウディオ殿下が陛下になったときには――――

 ああ、今から愉しみだわぁ……

「うふふふふふふふふっ……」

 それまでの退屈凌ぎに……わたくしへ歯向かう、愚かなクラウディオ殿下の愛人達へ罰をくださなきゃ♪

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

『という、毒花が咲きめた瞬間な感じの夢を見たの。どう思う?』

 小さく蒼に聞くと、

『ぅっわ……それ、実際のお嬢さんに会う前の俺に言うかよ?』

 すっごく嫌そうな顔をされた。そして、

「ネロ様、シエロ王子となにを話されているのですか?」

 蒼の答えを聞く前にシュアンに声を掛けられた。

「ん~……内緒です。さて、今日はどのドレスにしますかねぇ?」
「また女装ですか……」

 と、若干白い目を向けるシュアンは――――

 あの、毒花が咲き初めた夢の果てでは……ゲーム本編の、クラウディオルートで不幸確定。シエロたんの選択によっては、首チョンパだもの。

 まあ、サファイラ王妃が全てを壊したいと思っていたのなら……国政を疎かにするクラウディオを宥めたり、自分が肩代わりするどころか、シュアンに丸投げして使い潰すような真似をしていたことにも納得ね。

 なんなら、シュアンが耐え切れなくて逃げ出せばいいとか思ってたのかも? まあ、不幸なことにシュアンは国王夫妻の無茶振り丸投げをどうにかこうにかして国政回せちゃうくらいに有能で、責任感が強くて逃げなかったワケだけど。

 とりあえず、シュアンは死亡フラグ回避成功おめでとう! と言ったところかしら?

 まあ、口には出さないけどね。

 さてさて、今日はどうしようかしら?

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