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さ、サファイラから汚物を見るような、軽蔑と嫌悪の混じった視線を向けられてしまうだとっ!?
しおりを挟む「い、いえ、そういうことではなく……そ、その、他国の王子殿下に、我が娘の為にそこまでして頂くワケには……」
どうにか穏便にネロ王子殿下のご提案をお断りしようとしたら、
「公爵様? 公爵様はなにを言っているのですか? 今は、公爵のお嬢さん……サファイラ嬢が、男性を心底から嫌いになるかどうかの瀬戸際。言わば、ここが分水嶺なのですよ? 今、このときに少しでも……自分に嫌がらせをしていない男性にまで嫌悪感を抱いてしまうと、これから一生サファイラ嬢は男性嫌いになってしまうのかもしれないのですよ? いいですか、心の傷というものは目には見えません。見えないからこそ、深くなってからでは遅いのです。取り返しが付かない状態まで悪化してからでは、悔やんでも悔やみ切れませんよ」
キリっとした顔で言い募られた。
「このままサファイラ嬢の男性嫌いが進行してしまえば、最悪。父親である公爵様も近いうちに、軽蔑と嫌悪の視線を向けられるようになりますよ? 娘さんから、汚物を見るような視線を投げ掛けられてもいいのですか?」
さ、サファイラから汚物を見るような、軽蔑と嫌悪の混じった視線を向けられてしまうだとっ!?
「い、いや、サファイラに限ってそのようなことは……」
一瞬、ほんの一瞬サファイラに汚物を見るような視線を向けられるところが頭に浮かんでしまい、慌ててそれを打ち消す。可愛いサファイラにそんな目で見られるなど、耐えられる筈がないっ!! 心臓が凍り付くような感覚に襲われたぞ。恐ろしい……
「その、うちの娘に限って……という思考で、どこぞの元王太子シンパのクズ連中共に、お嬢さんが無駄に虐げられる結果になったのでは? お嬢さんの我慢強さでそのことに気付かなかったにしても……おそらく、このままでは公爵様はいずれお嬢さんに恨まれることになると思いますよ?」
「なぜだっ!?」
「『お父様も、他の皆さんも……苦しんでいるわたくしのことを助けてはくれなかった。気付いてもくれなかった』と。その思いが日々の暮らしの中で段々と積み重なって行き、やがては『助けてくれなかった人が憎い!』という風な逆恨みになる可能性もありますし。また逆恨みにはならずとも、『所詮は、お父様もわたくしを虐げていたあの男共と同じ』という風に嫌悪感を抱かれることもあり得ます」
見上げる紫紺の瞳が、恨みがましい口調でスッと嫌悪と軽蔑の表情で酷く昏い色を宿し……また、元のにこやかな笑顔へと戻った。
さ、サファイラが今のネロ殿下のような病んだような昏い目になってしまうというのかっ!?
「そ、そんなっ!? ど、どうすればいいのですかっ!?」
「そういうことにならない為にも、まずはお嬢さんの男性不審の範囲を調べてみようかと。まずは、わたしが女装してお嬢さんへお会いしましょう。子供で、女装していればほぼ女の子の見た目ですからね」
確かに、ネロ王子殿下は……少女と見紛うような可愛らしい容姿をされている。ドレスを着てしまえば、性別など自己申告されても判らないだろう。
「ネロ王子殿下……なぜ、殿下は娘の……サファイラの為にここまでしてくれるのですか?」
「わたしにも妹がいるので。それに、クソ野郎のせいで不幸な目に遭っている女性を見るのが心底嫌なんです。そういう女性が、少しでも明るい気分になれるなら嬉しいですから。というワケで、善は急げです。早速お嬢さんに聞いて来て頂けますか?」
「わかりました! ネロ王子殿下のお心遣い、有難く思います!」
と、宿へ戻ったわたしは町へ出掛けているというサファイラを探させることにした。
いきなり隣国の王子殿下と茶会をすることになったサファイラは大慌てで、『わたくしもドレスに着替えて参ります』と言っていたので、その返答をネロ王子殿下の使いにお伝えした。
これはやはり……小さな王子殿下とは言え、ドレス姿でお会いしてもらいたいと思う程、それ程にサファイラが追い詰められていたことに気付けなかったとは……親として、とても情けない限りだ。
侍女達と大慌てで準備するサファイラを横目に、危険人物がこの周辺に来てはいないかを確認し、ネロ王子殿下の茶会へとサファイラを送り出した。
心配しながら待つこと数時間。
少し赤くなった目許で帰って来たサファイラを見て思わず……先程のわたしのように、ネロ王子殿下にキツいことを言われて泣かされてしまったのかと疑ってしまった。
それを即座に否定され、ネロ王子殿下によくして頂いたのだと涙を零すサファイラを見て、ネロ王子殿下の危惧が正しかったと知り……心からサファイラに申し訳なくなった。疑ってしまったネロ王子殿下にも少々。
あのように泣くサファイラなど、本当に小さな子供の頃以来。どれ程の我慢をサファイラへ強いていたのかを思い知らされた。
サファイラは、どうやらネロ王子殿下のことを気に入った様子。また明日お会いしたいと言って、部屋へ戻って行った。
疲れただろうから、今日はもう早く眠ってしまうことだろう。
そして、わたしは『もし宜しければ、お嬢さんをわたしの離宮へ招待しようと思うのですが。お嬢さんのご意思を確認した後、ご検討をお願いします』という手紙にどう返事をしたものかと頭を悩ませることになる。
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