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え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡
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――――――――――――
「それで、公爵令嬢はどんな方だったの?」
帰って来たばかりのねーちゃんに、にこりと作り笑いを浮かべたライカが聞いた。
「そうですね……前評判通りの、清楚系美少女でした♪」
「僕はそういうことを聞いているんじゃないんだけど?」
作り笑いから、少し不貞腐れたように不満げな口調。
「? どうしました? ライカ兄上」
「……別に」
「ああ、なんか、お前がお嬢さんに会いに行く前に俺には声掛けたのに、自分は誘いもしなかったって。若干拗ねてる感じ?」
「なっ、なに言ってるのシエロっ!? ぼ、僕はそんなこと、全然気にしてないんだからね!」
おお、なんかめっちゃツンデレっぽいセリフだな。
「ハッ!? もしや、ライカ兄上も可愛い女の子の格好をしてみたかったんですか? ライカ兄上なら、きっと可愛いと思います! それじゃあ、今から一緒にドレスの着せ替えごっこして遊びます? ネリー用のドレスはサイズがちょっと合わなそうだけど……既製品を調達すればイケるかな?」
「違うからっ!? っていうか、どうしてそうなるのっ!?」
本当にドレスが用意されては敵わないと、ライカは必死に否定する。
「え? 違うんですか? シエロ兄上に、『女装しません?』って聞いたのに、ライカ兄上には女装するかを聞かなかったから拗ねてるものだと」
「違うってばっ!? 全くもう、ネロはどうしていつも発想がそう斜め上なのっ?」
「そりゃ、コイツが変人だからに決まってるでしょうに」
「は? 変、人?」
「そうそう。つか、コイツは明らかに賢いバカを地で行く残念な奴ですよ。な、ネロ」
「ふっ、そんなに誉められると照れるじゃないですか♪」
ふふんと胸を張るネロをぽかんと見詰めるライカ。まあ、なんだ。ぶっちゃけ、ねーちゃんの中身は腐女子だし。しかも、それを自分で誇ってるし。明確に変人の部類だろう。
「いえ、全く誉められていないと思うのですが? ネロ様」
呆れたように見下ろすのはシュアン。
「え~? 賢いって誉められてるからOKです!」
「残念だと、シエロ王子には思われているようですが?」
「全く、シュアンはわかっていませんね? 人間誰しも、欠点の一つや二つや三つや五十個、百個くらいは余裕であるものです。欠点の無い完璧な人間なんていませんよ」
「三つからいきなり五十個、百個は飛び過ぎじゃね?」
「え? だって、長所と短所は紙一重。見る人によっては、他人の長所は短所で欠点です。故に、長所が沢山ある人は、誰かに取っては短所だらけの人ということになるのです!」
「うっわ、屁理屈」
「ほら、こんなにラブリーでプリティー極まりないシエロ兄上のことを嫌う人がいるのと同じことです。こ~んなに可愛らしいのに……」
「俺に可愛い言うなアホ!」
「えっと、その、ネロのことを悪く言う人がいるの? 僕は見たことないけど」
「ああ、普通にいますよ? ほら、『頭良過ぎて気持ち悪い』とか『小賢しい』『悪知恵が働く』『偽善者』『甘ちゃん』『現実の見えていない理想主義のお子様』とか? あとは……『天才様と言っても、どうせ大人になれば普通になるに違いない』とか?」
「おー、ある意味間違ってねぇ悪口ばっか」
「ちょっ、シエロっ!? そんなこと言っちゃ駄目でしょ!」
俺を窘めるライカの後に、
「……誰です? ネロ様にそのような暴言を吐いたのは」
ヒヤリとするような低温の声が降って来た。なんだかんだ、シュアンは随分とねーちゃんに入れ込んでるらしい。
「誰、というか……ほら、わたし、色々なところを散歩してますからねー。それに、シエロ兄上が言う通り。わたしが小賢しくて悪知恵が働くのは事実でしょう? ね、シュアン?」
「っ!? そ、それは……」
にっこりとした慈愛の中に、どこか意地悪さが混じる微笑み。シュアンは言葉を詰まらせる。つかコイツ、自分が諸にその悪知恵の餌食になったって自覚が薄くね? コイツがクラウディオに切り捨てられたのは、ほぼねーちゃんのせいだぞ? まあ、その後の飴がめっちゃ効いてんのかもだけど。あと、クラウディオんとこよか待遇がいいからってのもあんのか? 普通の神経してたら、絶対ストレスフルな職場っぽいもんなぁ。常識人には、かなりキツかったのかも。
「一部では、シエロ兄上共々悪魔呼ばわりもされてますからね!」
ふふんとドヤ顔で胸を張るねーちゃん。
「ですから、それは全く誉め言葉ではありませんっ!」
「で、おふざけはこのくらいにして。首尾は? お嬢さんとどんな話したん?」
「え~? 女の子同士の会話を知りたいだなんてもうっ、シエロお兄様ったら無粋ですわ」
「いや、えっと、ネロは男の子……だよね? シエロ」
と、なぜか俺に問うように確認するライカ。
その質問にはノーコメントだ。なんせ、ねーちゃんの前世は女。『妖艶美ショタのネロたんになろうとも、お姉ちゃんは立派な腐女子! 心は乙女よ!』とか、言ってたし。ネロの身体の性別は男らしいが……ネロのキャラ設定は男の娘。うん、深く突っ込むのはやめておこう。
「まあ、そんなにお知りになりたいのでしたら、ちょびっとだけ。清楚系美少女なサファイラお姉様を愛でながら、一緒にお茶とお菓子を食べてキャッキャウフフして来ましたわ♡」
「それ、な~んも大事な話してなくね?」
つか、その光景めっちゃ見たいんだけどっ!?
「どこぞのクズな元王太子とその側近や使用人達に嫌がらせを年単位で受けて来て、男性不信気味になっているお嬢さんですよ? まずは女装とは言え、わたしとお話できたことを喜ぶべきでは?」
「ぁ~……まあ、そうだったな。思春期に男達からそんなクソ待遇受けりゃ、下手したら一生男嫌いになるくらいのトラウマ背負うことになるもんなぁ。そういう意味では、アストレイヤ様が男嫌いになってないのも不思議なくらいだぜ」
「あ、そっか……母上、も……だから、ネロは公爵令嬢のことを気にしてるの?」
「ん~……まあ、クソ野郎共につらい目に遭わされてる女性を、間近で嫌という程見て来ているので。そういう意味では、サファイラ嬢に親近感が湧きますね。アストレイヤ様と同様に、応援したくなります。今回は……ちょっとでも気持ちが楽になってくれれば、もうそれでいいかな? と」
ちょっとだけ、心配そうな顔で困ったように笑うねーちゃん。これは多分……言葉通りに、菓子食ってキャッキャウフフしてただけじゃなさそうだな? まあ、さっきねーちゃんが言ってたもんな。年単位でクソ野郎共から嫌がらせを受けていたんだ。メンタルやられてても、不思議じゃない。
「それで、ですね。シエロ兄上」
「んあ? なんだ?」
「明日、一緒にサファイラ嬢とお会いしませんか?」
「……女装は断るっつった筈だぞ?」
「ああ、それについては……シエロ兄上の女装姿が見られそうなまたとないチャンスでしたが、サファイラ嬢はわたしくらいの男の子なら大丈夫そうとのことなので、非常に、至極残念ではありますが。普通の格好でいいみたいです」
「欲望丸出しだな」
「えへ♡」
「まあ、女装しなくていいってんなら……行ってもいい。俺と会うことで、お嬢さんのリハビリになるかもだしな」
「……また、僕だけお留守番?」
溜め息混じりに返事をすると、実は先程から地味にイジケていたライカがじっとりとした視線を向けて来る。あ~あ、ここでそんなこと言うと……
「ハッ!? ライカ兄上も女装で行きますっ?」
ワクテカな顔でねーちゃんがライカを見詰める。目ぇめっちゃきらきらさせてんな。
「だから、なんでそうなるのっ!?」
「やー、コイツが変人だから? つか、ライカ兄上がお嬢さんに会いに行くなら、どっちみち変装は必要じゃないですか。なんせ、ライカ兄上が俺らに同行してることは極秘なんですから」
「! そ、それは、そうだけど……」
「ライナちゃんとライラちゃん、どっちのお名前が可愛いですか♪」
「ぼ、僕は女装しないからっ!?」
「え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡」
きゅるんと上目遣いでライカを見上げ、あざとくおねだり。
「っ……シエロっ、ネロをどうにかしてっ!?」
「え? ここで俺に助け求めんの?」
「ネロ様。ライカ王子を困らせてどうするのですか」
呆れ顔で割って入るシュアン。
「仕方ないですね。全く……では、女装が嫌なら女性騎士見習いというのはどうです? 男装ということで、女性騎士の中に紛れて行くのは如何でしょう? 騎士の中に囲まれているなら、ライカ兄上の安全確保もできますし。帯剣していても咎められません。会話に加わらなくても、護衛見習いだから、という言い訳もできます」
ねーちゃんは若干面白くなさそうに妥協案を出す。
「あ、お名前はライナちゃんかライラちゃんになります。まあ、ライカ兄上がもっと可愛い別のお名前で呼ばれたいのであれば、そちらを採用しますけどねー?」
「……ちょっと、考えさせて」
ライカはお留守番が嫌なのか、女装? というか女性騎士見習いに扮するのと葛藤して――――結局、女性騎士見習いとして同行することに決めたようだ。
そんなにお留守番は嫌なのか……ライカって、実はなにげにさみしんぼか?
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
ネロ(茜)「え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡」(*´艸`*)
ライカ「っ……シエロっ、ネロをどうにかしてっ!?」!Σ( ̄□ ̄;)
シエロ(蒼)「え? ここで俺に助け求めんの?」(´・ω・`)?
シュアン「ネロ様。ライカ王子を困らせてどうするのですか」(꒪꒫꒪)
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