152 / 158
え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡
しおりを挟む視点変更。
――――――――――――
「それで、公爵令嬢はどんな方だったの?」
帰って来たばかりのねーちゃんに、にこりと作り笑いを浮かべたライカが聞いた。
「そうですね……前評判通りの、清楚系美少女でした♪」
「僕はそういうことを聞いているんじゃないんだけど?」
作り笑いから、少し不貞腐れたように不満げな口調。
「? どうしました? ライカ兄上」
「……別に」
「ああ、なんか、お前がお嬢さんに会いに行く前に俺には声掛けたのに、自分は誘いもしなかったって。若干拗ねてる感じ?」
「なっ、なに言ってるのシエロっ!? ぼ、僕はそんなこと、全然気にしてないんだからね!」
おお、なんかめっちゃツンデレっぽいセリフだな。
「ハッ!? もしや、ライカ兄上も可愛い女の子の格好をしてみたかったんですか? ライカ兄上なら、きっと可愛いと思います! それじゃあ、今から一緒にドレスの着せ替えごっこして遊びます? ネリー用のドレスはサイズがちょっと合わなそうだけど……既製品を調達すればイケるかな?」
「違うからっ!? っていうか、どうしてそうなるのっ!?」
本当にドレスが用意されては敵わないと、ライカは必死に否定する。
「え? 違うんですか? シエロ兄上に、『女装しません?』って聞いたのに、ライカ兄上には女装するかを聞かなかったから拗ねてるものだと」
「違うってばっ!? 全くもう、ネロはどうしていつも発想がそう斜め上なのっ?」
「そりゃ、コイツが変人だからに決まってるでしょうに」
「は? 変、人?」
「そうそう。つか、コイツは明らかに賢いバカを地で行く残念な奴ですよ。な、ネロ」
「ふっ、そんなに誉められると照れるじゃないですか♪」
ふふんと胸を張るネロをぽかんと見詰めるライカ。まあ、なんだ。ぶっちゃけ、ねーちゃんの中身は腐女子だし。しかも、それを自分で誇ってるし。明確に変人の部類だろう。
「いえ、全く誉められていないと思うのですが? ネロ様」
呆れたように見下ろすのはシュアン。
「え~? 賢いって誉められてるからOKです!」
「残念だと、シエロ王子には思われているようですが?」
「全く、シュアンはわかっていませんね? 人間誰しも、欠点の一つや二つや三つや五十個、百個くらいは余裕であるものです。欠点の無い完璧な人間なんていませんよ」
「三つからいきなり五十個、百個は飛び過ぎじゃね?」
「え? だって、長所と短所は紙一重。見る人によっては、他人の長所は短所で欠点です。故に、長所が沢山ある人は、誰かに取っては短所だらけの人ということになるのです!」
「うっわ、屁理屈」
「ほら、こんなにラブリーでプリティー極まりないシエロ兄上のことを嫌う人がいるのと同じことです。こ~んなに可愛らしいのに……」
「俺に可愛い言うなアホ!」
「えっと、その、ネロのことを悪く言う人がいるの? 僕は見たことないけど」
「ああ、普通にいますよ? ほら、『頭良過ぎて気持ち悪い』とか『小賢しい』『悪知恵が働く』『偽善者』『甘ちゃん』『現実の見えていない理想主義のお子様』とか? あとは……『天才様と言っても、どうせ大人になれば普通になるに違いない』とか?」
「おー、ある意味間違ってねぇ悪口ばっか」
「ちょっ、シエロっ!? そんなこと言っちゃ駄目でしょ!」
俺を窘めるライカの後に、
「……誰です? ネロ様にそのような暴言を吐いたのは」
ヒヤリとするような低温の声が降って来た。なんだかんだ、シュアンは随分とねーちゃんに入れ込んでるらしい。
「誰、というか……ほら、わたし、色々なところを散歩してますからねー。それに、シエロ兄上が言う通り。わたしが小賢しくて悪知恵が働くのは事実でしょう? ね、シュアン?」
「っ!? そ、それは……」
にっこりとした慈愛の中に、どこか意地悪さが混じる微笑み。シュアンは言葉を詰まらせる。つかコイツ、自分が諸にその悪知恵の餌食になったって自覚が薄くね? コイツがクラウディオに切り捨てられたのは、ほぼねーちゃんのせいだぞ? まあ、その後の飴がめっちゃ効いてんのかもだけど。あと、クラウディオんとこよか待遇がいいからってのもあんのか? 普通の神経してたら、絶対ストレスフルな職場っぽいもんなぁ。常識人には、かなりキツかったのかも。
「一部では、シエロ兄上共々悪魔呼ばわりもされてますからね!」
ふふんとドヤ顔で胸を張るねーちゃん。
「ですから、それは全く誉め言葉ではありませんっ!」
「で、おふざけはこのくらいにして。首尾は? お嬢さんとどんな話したん?」
「え~? 女の子同士の会話を知りたいだなんてもうっ、シエロお兄様ったら無粋ですわ」
「いや、えっと、ネロは男の子……だよね? シエロ」
と、なぜか俺に問うように確認するライカ。
その質問にはノーコメントだ。なんせ、ねーちゃんの前世は女。『妖艶美ショタのネロたんになろうとも、お姉ちゃんは立派な腐女子! 心は乙女よ!』とか、言ってたし。ネロの身体の性別は男らしいが……ネロのキャラ設定は男の娘。うん、深く突っ込むのはやめておこう。
「まあ、そんなにお知りになりたいのでしたら、ちょびっとだけ。清楚系美少女なサファイラお姉様を愛でながら、一緒にお茶とお菓子を食べてキャッキャウフフして来ましたわ♡」
「それ、な~んも大事な話してなくね?」
つか、その光景めっちゃ見たいんだけどっ!?
「どこぞのクズな元王太子とその側近や使用人達に嫌がらせを年単位で受けて来て、男性不信気味になっているお嬢さんですよ? まずは女装とは言え、わたしとお話できたことを喜ぶべきでは?」
「ぁ~……まあ、そうだったな。思春期に男達からそんなクソ待遇受けりゃ、下手したら一生男嫌いになるくらいのトラウマ背負うことになるもんなぁ。そういう意味では、アストレイヤ様が男嫌いになってないのも不思議なくらいだぜ」
「あ、そっか……母上、も……だから、ネロは公爵令嬢のことを気にしてるの?」
「ん~……まあ、クソ野郎共につらい目に遭わされてる女性を、間近で嫌という程見て来ているので。そういう意味では、サファイラ嬢に親近感が湧きますね。アストレイヤ様と同様に、応援したくなります。今回は……ちょっとでも気持ちが楽になってくれれば、もうそれでいいかな? と」
ちょっとだけ、心配そうな顔で困ったように笑うねーちゃん。これは多分……言葉通りに、菓子食ってキャッキャウフフしてただけじゃなさそうだな? まあ、さっきねーちゃんが言ってたもんな。年単位でクソ野郎共から嫌がらせを受けていたんだ。メンタルやられてても、不思議じゃない。
「それで、ですね。シエロ兄上」
「んあ? なんだ?」
「明日、一緒にサファイラ嬢とお会いしませんか?」
「……女装は断るっつった筈だぞ?」
「ああ、それについては……シエロ兄上の女装姿が見られそうなまたとないチャンスでしたが、サファイラ嬢はわたしくらいの男の子なら大丈夫そうとのことなので、非常に、至極残念ではありますが。普通の格好でいいみたいです」
「欲望丸出しだな」
「えへ♡」
「まあ、女装しなくていいってんなら……行ってもいい。俺と会うことで、お嬢さんのリハビリになるかもだしな」
「……また、僕だけお留守番?」
溜め息混じりに返事をすると、実は先程から地味にイジケていたライカがじっとりとした視線を向けて来る。あ~あ、ここでそんなこと言うと……
「ハッ!? ライカ兄上も女装で行きますっ?」
ワクテカな顔でねーちゃんがライカを見詰める。目ぇめっちゃきらきらさせてんな。
「だから、なんでそうなるのっ!?」
「やー、コイツが変人だから? つか、ライカ兄上がお嬢さんに会いに行くなら、どっちみち変装は必要じゃないですか。なんせ、ライカ兄上が俺らに同行してることは極秘なんですから」
「! そ、それは、そうだけど……」
「ライナちゃんとライラちゃん、どっちのお名前が可愛いですか♪」
「ぼ、僕は女装しないからっ!?」
「え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡」
きゅるんと上目遣いでライカを見上げ、あざとくおねだり。
「っ……シエロっ、ネロをどうにかしてっ!?」
「え? ここで俺に助け求めんの?」
「ネロ様。ライカ王子を困らせてどうするのですか」
呆れ顔で割って入るシュアン。
「仕方ないですね。全く……では、女装が嫌なら女性騎士見習いというのはどうです? 男装ということで、女性騎士の中に紛れて行くのは如何でしょう? 騎士の中に囲まれているなら、ライカ兄上の安全確保もできますし。帯剣していても咎められません。会話に加わらなくても、護衛見習いだから、という言い訳もできます」
ねーちゃんは若干面白くなさそうに妥協案を出す。
「あ、お名前はライナちゃんかライラちゃんになります。まあ、ライカ兄上がもっと可愛い別のお名前で呼ばれたいのであれば、そちらを採用しますけどねー?」
「……ちょっと、考えさせて」
ライカはお留守番が嫌なのか、女装? というか女性騎士見習いに扮するのと葛藤して――――結局、女性騎士見習いとして同行することに決めたようだ。
そんなにお留守番は嫌なのか……ライカって、実はなにげにさみしんぼか?
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
ネロ(茜)「え~? つまんないつまんな~い! 一緒に可愛い格好しましょうよ? ね? ライカお兄様♡」(*´艸`*)
ライカ「っ……シエロっ、ネロをどうにかしてっ!?」!Σ( ̄□ ̄;)
シエロ(蒼)「え? ここで俺に助け求めんの?」(´・ω・`)?
シュアン「ネロ様。ライカ王子を困らせてどうするのですか」(꒪꒫꒪)
40
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

『奇跡の王女』と呼ばないで
ルーシャオ
恋愛
サンレイ伯爵嫡子セレネは、婚約の話が持ち上がっている相手のジャンが他の伯爵令嬢と一緒にいるところを目撃して鬱々していた。そこで、気持ちを晴らすべく古馴染みのいる大兵営へと向かう。実家のような安心感、知人たちとおしゃべりしてリフレッシュできる……はずだったのだが、どうにもジャンは婚約の話を断るつもりだと耳にしてしまう。すると、古馴染みたちは自分たちにとっては『奇跡の王女』であるセレネのためにと怒り狂いはじめた。
元王女セレネが伯爵家に養子に出されたのは訳があって——。
老舗カフェ「R」〜モノクロの料理が色づくまで〜
yolu
ファンタジー
café Rの『if』ストーリー───
現代は、エルフが治める『フィールヴ』という異世界と繋がって40年になる。
今はエルフと人が、少なからず行き来をし、お互いの世界で会社を立ち上げ、共存共栄している。
莉子が一人で切り盛りする、老舗カフェ「R」にも、エルフの来店が増えてきたこの頃。
なんと、 エルフの製薬会社・ラハ製薬によって立退き勧告!
4週間後には店を畳んで出ていかなくてはならない状況に……!
そこで立ち上がったのは、常連になると決めたイリオ製薬に勤めるエルフ4人。
イリオ製薬社長のトゥーマ、通訳である人間とエルフのハーフ・アキラ、彼の上司に当たるトップ営業マンのケレヴ、そしてケレヴの同僚の調剤師・イウォールだ。
カフェの料理によって、古典的エルフと言われるほどのイウォールが、莉子に一目惚れ!
イウォールの猛烈アタックに振り回されながらも、『異文化コミュニケーション』を重ねながら、美味しい料理はもちろん、恋愛も挟みつつ、この危機を乗り越えていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる