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クラウディオ殿下付きになったときは、大した出世だと思ったんだがな……
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茜が女装姿でサファイラをよしよししてキャッキャウフフ♪していた頃――――
坂道を転がり落ちるが如く、続々と急転直下に転落して行く貴族令息達が幾人もいた。
ある者は「なんで? どうして俺がこんな目に……?」と呆然とし、ある者は「俺はただ、クラウディオ殿下の命令に従っただけなんだっ!?」と理不尽だと憤り、ある者は「ああ、終わった……」と深く絶望した。
「クラウディオ殿下付きになったときは、大した出世だと思ったんだがな……」
行く行くはクラウディオが国王になったら、国王の側近や近衛、側付きの使用人へ成れると、家族や周囲の人達も喜んでくれていた。無論、嫉妬してどうにか足を引っ張ってやろうとしていた者達もいたが、それも自身が優秀な証だと鼻高々だった。
クラウディオは正妃の産んだ第一王子で、なんでも卒なくこなして優秀という評判。王太子に就任し、このまま何事も無ければ、国王になって国を治める筈……だった。
それが狂ったのは、いつからだったのだろう? と、令息達は失意の中考える。
側近の中には、自身よりも優秀な年下の……シュアン・ウェイバーがクラウディオの側近候補として学園を二学年スキップしてクラウディオの同級生として通うことが決まったときに焦り、年下のシュアンへ脅しを掛け、それを教師へ見咎められて側近候補を外された者もいた。
焦って余計なことをし、自身の人生を棒に振った奴がいたものだと笑い種になった。または、判り易い嫌がらせをするからだと、シュアンへとより陰湿な嫌がらせをする者もいた。
シュアンは年下のクセに、クラウディオへ諫言をよくした。それがまた間違っていないことばかりだった為、クラウディオは次第にシュアンを疎ましく思うようになって行った。
シュアンより、自分の言うことをよく聞く者を重宝した。やがてシュアンは側近候補の中で一番下に見られ、軽く扱われることが多くなった。
そんな中、クラウディオの婚約者が決まる。クラウディオが指定したのは、四つ年下の公爵令嬢だった。
高等部に上がる前に閨教育を受け、思春期の色欲を手近なところで発散させていたクラウディオの愛人となった者達は、年下の公爵令嬢へと些細な嫌がらせを始めた。
クラウディオの婚約者になった小娘が困ればいい、と始めた些細な嫌がらせは……最初は使用人達のミスや不備だとしてサファイラは指摘しなかった。しかしそれが段々と多くなって行き、次第に不備やミスではなく嫌がらせを受けているのでは? と、思い至った。
その頃から、サファイラは嫌がらせと思えることをして来る城内勤務の男達へ容赦無く不備やミスと思われることを指摘して行く。一度の軽いミス程度は見逃したが……幾度も繰り返す者や重要な場面での失態を繰り返す者へは、「準王族であるわたくしへこの対応、ですか。一度ならまだしも、なぜ何度も同じミスを繰り返すのですか? ハッキリ申しますが、あなたには王城勤務は荷が重いようですわね。別のお仕事をした方が宜しいのではなくて? このことは、王妃様へご報告させて頂きます」と。
辞職する者。左遷させられる者。王城から追い出された者もいた。このサファイラの対応がまた気に食わないと、静かにクラウディオの愛人達は憎悪を募らせて行ったのだが――――
無論、ひっそりとサファイラの味方をする者だっていた。良識的な城内勤務の男達は王太子の婚約者であるサファイラの名誉の為、近付くことを躊躇って手をこまねいていた。しかし、クラウディオの愛人達のサファイラへの態度を問題視し、いつか上へ訴えてやろうと記録を取っている者もいた。中には、クラウディオの男遊びの激しさに国の将来を憂う者もいた。
かと言って、男遊び以外は取り立てて問題の無かった……ように見えていたクラウディオを、王太子位から引き摺り降ろしてまで国を荒立てる覚悟のある者はいなかった。
そんな中。クラウディオが極秘の視察旅行中に襲撃を受け、怪我を負って療養中であるとの報せが城内を駆け抜けた。
クラウディオの内密の隣国への破壊工作へ付いて行った者達はまず、クラウディオが襲撃され怪我(股間へ大ダメージ)を負ったことの責任を問われた。
いつもなら、報告書をまとめて提出するのはシュアン・ウェイバーがやっていた。しかしシュアンは、クラウディオに隣国へ置き去りにされている。故に、詳しい……それでいて、クラウディオがあまり不利になることのないように配慮された報告書が作成されることは無い。
その為、正確な調査がなされた。シュアンとクラウディオ本人以外の聞き取り調査から出来上がった報告書に、国王は頭を痛めた。
隣国で破壊工作中に男娼を求めて未成年をホテルへ連れ込み、側近や近衛達を使って手配をさせていた。あまつさえ、隣国の王族一行と知っていながらちょっかいを掛け、隣国国王のお気に入りとされている第二王子を、その使用人の前で侮辱。挙げ句、使用人へ手を出そうとしての返り討ち。
使用人……侍女見習いと思しき女児に局部を蹴られ、股間を負傷。隣国第二王子の使用人に誰何され、『我が国の王子を侮辱したこと、国の上層部へ報告する』という脅しを受け、退散して帰国。
更に、周辺諸国へ『クラウディオ似の犯罪者一行』の手配書が出回る始末。
手配書を周辺諸国へバラ撒いた隣国へ苦情を言おうにも、「王族と似た顔の男が犯罪を犯して逃亡しているそうですね。一刻も早く捕まるよう、我が国もご協力致します」と返答されてしまえば、隣国へ破壊工作を仕掛けていた痛い腹を探られては堪らんと、「ご協力に感謝します」と返すより他ない。
実質的に、隣国へ苦情も文句も付けるワケには行かなくなった。
クラウディオのお目付け役にと付けていたシュアン・ウェイバー伯爵子息を隣国へ置き去りにしたことも頭が痛い。シュアン・ウェイバー伯爵子息は優秀で、将来クラウディオが国王になった際には支えてもらう予定であった。
シュアン・ウェイバーが無事でいるとは考え難い。そのままクラウディオがシュアン・ウェイバー伯爵子息の葬儀を執り行い……結果、優秀な文官家系だったウェイバー伯爵が、息子が亡くなったという失意にて爵位を返上。息子の思い出ばかり残る国にいるのがつらいと、一家で国外へ出てしまった。
国王としても、息子の失態でウェイバー家の子息を……それも、優秀だからと無理を言って息子の側近候補にしたのに。結局は失わせてしまった手前、ウェイバー元伯爵から憎悪の眼差しを受けてでも国に残ってほしいとは頼めなかった。
クラウディオの傷の具合は医師から報告を受けている。ギリギリ、子作りに支障が出る程の怪我ではなかったそうだ。蹴った相手が年端も行かぬ女児だったからだろう、とのこと。但し、遅れてなんらかの障害が残る可能性もある為、定期的な検診が必要だという。
一先ずは、治る見込みがあることへ安堵したが……それも束の間。クラウディオ似の犯罪者一行の手配書が周辺国へバラ撒かれている。
犯罪者と似た顔の王子を国の代表にしておくワケにも行かず、国王はクラウディオを王太子位から降ろすことを決断した。ほぼほぼ次期国王はクラウディオで決まり掛けていた時期に、このような事態を起こしてしまった。
クラウディオ以下の第二、第三王子に関しては、できとしてはトントン。というか、クラウディオ程には後継教育に力を入れていなかった。第二王子がクラウディオのスペアとして教育を受けていた分、少々有利と言ったところ。しかし、それも多少の誤差に過ぎない。故に、どちらが次期王太子……ひいては国王となるか、派閥争いが激化することは必至。
国王は、下手に女性を孕ませるよりはマシかとクラウディオの男遊びを黙認して放っておいたことを心底後悔した。クラウディオが男色のみしか受け付けないのであれば問題視していたが、クラウディオが両刀なことは知っていた。
自身が選んだ公爵令嬢と結婚すれば、男遊びも落ち着くと思っていた。
まあ、落ち着くどころか波乱を撒き散らすだけ撒き散らし、本人は療養中なのだが。
ここまで来て漸く、国王は重い腰を上げてクラウディオの愛人達を排除することを決めた。かなり遅い決断だったが――――
――――――――
隣国の、貴族子息ざまぁ回な感じ。
三人称難しいですね。φ(・ω・`)
この話を思い付いてから、書いてる奴は驚愕した……ここ二月程、クソ暑くなってから、めっちゃぼんやりしながら『腐ったお姉ちゃん~』を書いてたことに気付いたから。頭回ってなかったことにマジびっくり……(ノω・`|||)
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