141 / 158
我が娘を、領民の血税を、公爵家やその派閥の傘下貴族の献身を、王都の彼らへと捧げずとも善いという結論に至った。
しおりを挟む視点変更。
――――――――――――
隣国の王妃殿下から返信が届いた。
『こちらとしても、貴家と貿易を結ぶのは吝かではない』とのこと。
更に手紙を読み進めて行くと、会談を望むのであれば、都合の良い日時を指定して頂きたいという一文。記された日付と場所が幾つかあり、その日程に近い日時の二日前後ならば融通が可能。
暫し熟考し、都合がいい日付と土地を選ぶ。
会談場所に選ばれた地域は、明光風靡な観光地となっているらしい。
「『宜しければ、ご息女も共に参られよ』……か」
アストレイヤ王妃殿下は、一体どこまで知っていることやら?
もたげる警戒心と、それだけではない感謝の念。
そして、手紙の最後の追伸部分に驚かされることになった。
『貴殿と文通をしていたのはわたしではない。
会談の場には、貴殿の文通相手を向かわせる。ご息女のことを大層気に掛けて心砕いていた様子だったので、無理にとは言わぬがご息女が臥せっていなければ顔を見せてやってほしい。
現在のシュアン・ウェイバーの主となっている者と言えば、少々安心できるだろうか?
会談にはシュアン・ウェイバーも同席させる。また、移動が間に合えばその父のウェイバー元伯爵も居合わせることができるだろう。
では、良い返事を期待している』
と、幾重にも驚かされる内容となっていた。
まさか、わたしと文通をしていたのがアストレイヤ王妃殿下ではなかったとは……では、わたしは一体誰と手紙を交わし合っていたのだろうか? 王族に嫁いだ別の女性……という可能性が高いのかもしれん。
それにしても、ウェイバー元伯爵とも既に繋がりを持っていたとは。ウェイバー卿が……ご子息の葬儀(実は生きているとのことだが)を終えた後。爵位を辞して療養の為に国を出る決断を下すのがやたら早いと思ったら、そういうことだったのか。
まあ、確かに。娘を無理矢理婚約者にしておきながら蔑ろにされた父親でさえ、現王家には腹立たしく思っているというのに。ご子息を他国で死んだことにされ、遺体も無しに葬儀までクラウディオ殿下に主導されては……その怒りは、国を捨てる決断をさせる程だったということだろう。
我が国への利敵行為とも取れるが、ウェイバー卿は既に爵位を返上した身。もしかしたら、ご子息共々あちらの国へと亡命されるのかもしれない。
このようなことを知ったなら、公爵であるわたしは……本来であれば国へ報告し、なんらかの対処をしなければいけないのだろうが。その辺りのことも、わたしは文通相手とアストレイヤ王妃殿下へそのようなことをしない、と信用されていると考えるべきだろうか?
……どうやらわたしは、現王家よりも自分の家族や領民の方が大事なようだ。
というか、クラウディオ殿下のなさりようと、それを諫めもしない陛下達。これから混迷するであろう宮廷や王都。そんな彼らを……我が身や公爵家の身代を削り、これからも支え続けたいとは思えない。
娘が嫁ぐのであれば、どんなに辛酸苦渋を舐めようとクラウディオ殿下と現王家を支えなければ……という思いもあっただろうが。サファイラは無事、クラウディオ殿下との婚約を白紙にできた。
なれば、我が娘を、領民の血税を、公爵家やその派閥の傘下貴族の献身を、王都の彼らへと捧げずとも善いという結論に至った。
まあ、一刻も早く縁切りすべく、慰謝料やその他諸々……王子妃教育に掛かった費用の請求も諦めたが。代わりに、向こう数年分の公爵領の税金をかなり融通させることには成功した。
この状態で向こうの国と交易を行えば……サファイラへの慰謝料分もすぐに稼げることだろう。
さて、サファイラにはこのことをどう話すべきだろうか?
とりあえずは、隣国へ旅行へ行ってみないかと水を向けてみるとしよう。
わたしの留守中は、領地や家のことを妻に頼まなければ。
この状況で自分だけを置いて旅行へ行くつもりかと、憤慨されなければいいのだが……
妻には、どこまでの事情を話して了承を得るべきか。
目下のところ、これが一番頭の痛い問題かもしれん。
❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅
30
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

彼女は予想の斜め上を行く
ケポリ星人
ファンタジー
仕事人間な女性医師、結城 慶は自宅で患者のカルテを書いている途中、疲れて寝ってしまう。
彼女が次に目を覚ますと、そこは……
現代医学の申し子がいきなり剣と魔法の世界に!
ゲーム?ファンタジー?なにそれ美味しいの?な彼女は、果たして異世界で無事生き抜くことが出来るのか?!
「Oh……マホーデスカナルホドネ……」
〈筆者より、以下若干のネタバレ注意〉
魔法あり、ドラゴンあり、冒険あり、恋愛あり、妖精あり、頭脳戦あり、シリアスあり、コメディーあり、ほのぼのあり。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ウワサの重来者 どうか、心振るえる一生を。(中辛)
おいなり新九郎
ファンタジー
最新情報:幼いサヤを背負い少女は炎と化け物の中を潜り抜ける。一途にこの娘を地獄から逃がすために。
ーあらすじー
侍の家に生まれたユウジは16歳の少年。
家族がいろいろあって、家を継ぐことに。
ある日、特別な力を与えてくれるという「宝」を引ける催しに参加する。
そこで、彼が引いてしまったハズレとしか思えない「宝」とは?
宝のせいなのか、問答無用にふりかかる災難。
個性豊かな、お宝美少女達に振り回され、ユウジは冒険を続ける。
そこには思わぬこの世界の因縁と謎があった。
作者より
タイトルにある「重来者」はリターナーと読みます。
途中、主人公交代を検討しております。
お一人でも多くの方が楽しんでくだされば幸いです。
理不尽な世の中で、どうか心振るえるひと時を・・・。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる