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我が娘を、領民の血税を、公爵家やその派閥の傘下貴族の献身を、王都の彼らへと捧げずとも善いという結論に至った。
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――――――――――――
隣国の王妃殿下から返信が届いた。
『こちらとしても、貴家と貿易を結ぶのは吝かではない』とのこと。
更に手紙を読み進めて行くと、会談を望むのであれば、都合の良い日時を指定して頂きたいという一文。記された日付と場所が幾つかあり、その日程に近い日時の二日前後ならば融通が可能。
暫し熟考し、都合がいい日付と土地を選ぶ。
会談場所に選ばれた地域は、明光風靡な観光地となっているらしい。
「『宜しければ、ご息女も共に参られよ』……か」
アストレイヤ王妃殿下は、一体どこまで知っていることやら?
もたげる警戒心と、それだけではない感謝の念。
そして、手紙の最後の追伸部分に驚かされることになった。
『貴殿と文通をしていたのはわたしではない。
会談の場には、貴殿の文通相手を向かわせる。ご息女のことを大層気に掛けて心砕いていた様子だったので、無理にとは言わぬがご息女が臥せっていなければ顔を見せてやってほしい。
現在のシュアン・ウェイバーの主となっている者と言えば、少々安心できるだろうか?
会談にはシュアン・ウェイバーも同席させる。また、移動が間に合えばその父のウェイバー元伯爵も居合わせることができるだろう。
では、良い返事を期待している』
と、幾重にも驚かされる内容となっていた。
まさか、わたしと文通をしていたのがアストレイヤ王妃殿下ではなかったとは……では、わたしは一体誰と手紙を交わし合っていたのだろうか? 王族に嫁いだ別の女性……という可能性が高いのかもしれん。
それにしても、ウェイバー元伯爵とも既に繋がりを持っていたとは。ウェイバー卿が……ご子息の葬儀(実は生きているとのことだが)を終えた後。爵位を辞して療養の為に国を出る決断を下すのがやたら早いと思ったら、そういうことだったのか。
まあ、確かに。娘を無理矢理婚約者にしておきながら蔑ろにされた父親でさえ、現王家には腹立たしく思っているというのに。ご子息を他国で死んだことにされ、遺体も無しに葬儀までクラウディオ殿下に主導されては……その怒りは、国を捨てる決断をさせる程だったということだろう。
我が国への利敵行為とも取れるが、ウェイバー卿は既に爵位を返上した身。もしかしたら、ご子息共々あちらの国へと亡命されるのかもしれない。
このようなことを知ったなら、公爵であるわたしは……本来であれば国へ報告し、なんらかの対処をしなければいけないのだろうが。その辺りのことも、わたしは文通相手とアストレイヤ王妃殿下へそのようなことをしない、と信用されていると考えるべきだろうか?
……どうやらわたしは、現王家よりも自分の家族や領民の方が大事なようだ。
というか、クラウディオ殿下のなさりようと、それを諫めもしない陛下達。これから混迷するであろう宮廷や王都。そんな彼らを……我が身や公爵家の身代を削り、これからも支え続けたいとは思えない。
娘が嫁ぐのであれば、どんなに辛酸苦渋を舐めようとクラウディオ殿下と現王家を支えなければ……という思いもあっただろうが。サファイラは無事、クラウディオ殿下との婚約を白紙にできた。
なれば、我が娘を、領民の血税を、公爵家やその派閥の傘下貴族の献身を、王都の彼らへと捧げずとも善いという結論に至った。
まあ、一刻も早く縁切りすべく、慰謝料やその他諸々……王子妃教育に掛かった費用の請求も諦めたが。代わりに、向こう数年分の公爵領の税金をかなり融通させることには成功した。
この状態で向こうの国と交易を行えば……サファイラへの慰謝料分もすぐに稼げることだろう。
さて、サファイラにはこのことをどう話すべきだろうか?
とりあえずは、隣国へ旅行へ行ってみないかと水を向けてみるとしよう。
わたしの留守中は、領地や家のことを妻に頼まなければ。
この状況で自分だけを置いて旅行へ行くつもりかと、憤慨されなければいいのだが……
妻には、どこまでの事情を話して了承を得るべきか。
目下のところ、これが一番頭の痛い問題かもしれん。
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