137 / 158
宜しいですか、ウェイバー様。ネロ様は、ご自身の目的の為ならば、その御身を餌にすることも厭わないお方です。
しおりを挟む「ソフィーネ侍女長。失礼ですが、その事件の最中はミリーシャ嬢やあなた方は一体なにをしていたのですか?」
先程の話に……ネロ様とネレイシア姫様の信奉者であるミリーシャ嬢(過激派)やこの離宮の使用人の人達が一切出て来ていない気がします。
まあ、考えられることとすれば……最悪、秘密裡に処理などをしていてもおかしくはないのですが。
「……当時のわたくし共の主は、側妃様でしたので。ミリーシャも、本来の護衛対象は側妃様でした。なのでネロ様に、側妃様から絶対に目を離さないようにとの厳命を受けておりました」
「・・・そう、でしたか」
わたしが来る前にはもう、この離宮には側妃……ミレンナ様はいらっしゃらなかったので、失念していました。現在、ネロ様とネレイシア姫様はアストレイヤ王妃殿下の養子となられているとのことですが、当時はまだ側妃であったミレンナ様の庇護下(ほぼ育児放棄状態だったそうですが)にいたのでしょう。というか、普通に考えると現状の……まだたった七歳のネロ様が離宮の指揮を執り行っていることこそが、異常そのもの。
ネロ様との話し合いをする前の、非常にヒステリックで攻撃的なミレンナ様はなにをするか判らないので、監視しろという意味合いでしょうか。
そして、事件のとき。ネロ様のお顔さえ知らなかったわたしでさえ、件の元司祭には多少の殺意が湧くというのに……ネロ様とネレイシア姫様の信奉者の方々(過激派含む)は、どれ程悔しい思いを押し殺したことでしょう。
・・・一瞬、厭な考えが頭を過ぎりましたが、この方達。ネロ様に対する数々の無礼を、秘密裡に報復していたりはしませんよね?
と、なんとも言えない考えが過ぎったものの、ソフィーネ侍女長の薬品講座は進んで行きました。
「では、本日の講座はここまでとなります。お二人共、お疲れ様でした。ああ、ウェイバー様は少々残って頂いて宜しいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「では、俺は先に失礼しますね」
アーリー君が出て行ってから、ソフィーネ侍女長が口を開きました。
「ネロ様が神殿へ赴いたのは、おそらくはシエロ様の為だと推測されます」
「え?」
「現在は兎も角。シエロ様は以前、ときどき神殿に出掛けておりましたので。シエロ様が、外道な元司祭や他のクズ共の餌食になる前にと、ネロ様が神殿の外道共を駆逐したのでしょう」
「ネロ様は、神殿にそのような輩がいると判っていて出向いたということですかっ!?」
驚愕するわたしへ、怜悧な表情で頷き返すソフィーネ侍女長。
「ネロ様ご本人へ問い質してもはぐらかされてしまいますが。おそらくは、全て判った上での確信犯的な行動だと思われます。神殿へ赴く前に、護身用の薬品類を入念に準備されていましたので」
「っ!?」
口を開こうとしたわたしに鋭い視線を向け、
「宜しいですか、ウェイバー様。ネロ様は、ご自身の目的の為ならば、その御身を餌にすることも厭わないお方です。ウェイバー様も、ご覧になっていたでしょう? シエロ様の護衛見習いであるグレンを守る為、クラウディオ殿下に勇ましく立ち向かったネロ様のお姿を。ネロ様は、そのようなお方です」
グレン君へとちょっかいを掛けたクラウディオ殿下の股間を思い切り蹴飛ばして、我々へ名を名乗れと強く啖呵を切ったときのことですか……確かに、勇ましい姿でした。
見習い侍女服を着た女装姿ではありましたが。
「これは、わたくし共の罪でもあります。当時、まだ三つにもならなかったネロ様が、わたくし共へ無体を働くミレンナお嬢様との間へ入って、お嬢様をお止めしました。ネロ様は、そのときから……庇護される側ではなく、誰かを庇護する立場。守る立場へとなってしまったのです」
ああ、そうか。だから、ネロ様は自然にご自身の身を盾とすることを厭わないのか。
「ネロ様は、ご自身の懐へ入れた方を守る為なら、多少……いえ、かなりの無茶をいとも簡単にやってのける方です。故に、ウェイバー様。努々、ご自身で危機へ陥ってネロ様へ危険なことをさせないよう、ご自愛してお気を付けくださいませ」
鋭い視線が、わたしを強く射貫く。
「肝に銘じます」
シエロ王子やライカ王子、アストレイヤ王妃殿下は勿論のこと。おそらくは、わたしやアーリー君、グレン君が危機に陥っても、ネロ様は無茶をしてでも助けようとしてくださる、と。
故に、そもそも危機に陥るような事態になるな、と釘を刺されていますね。
わたしは文官で……以前なら、『主(クラウディオ殿下)の為に身体を鍛えるなどあり得ません。護衛に任せておけばいいことでしょう』と、鼻で嗤っていたことでしょう。
けれど、ネロ様がわたしの為に身体を張ってくださるというのなら。その前に、自ら危機に陥らないよう、自助努力をすべきですね。
身体を動かすのは得意ではありませんが……ネロ様の為なら、頑張りましょう。
まだあんなにお小さいというのに。誰かを守る為なら、その身を餌や盾として使用することも厭わない、危なっかしい主をお守りする為に。
♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘
侍女長「最悪、神殿の井戸や水源に睡眠薬と幻覚剤を投げ込んで、その間に処理するという計画もありましたが……アストレイヤ正妃様のお陰で計画は中止になってしまいましたわ」( ◜◡◝ )
シュアン「なんて恐ろしい計画を立てているのですかっ!? 無関係の方々も無差別に巻き込まれてしまうではないですかっ!?」( º言º; )"
侍女長「あら、本気にされてしまいましたか? わたくしとて、偶に冗談くらいは言いますわ」( ◜◡◝ )
シュアン「全く冗談に聞こえませんでしたからねっ!?」(*`Д´)ノ!!
16
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

『奇跡の王女』と呼ばないで
ルーシャオ
恋愛
サンレイ伯爵嫡子セレネは、婚約の話が持ち上がっている相手のジャンが他の伯爵令嬢と一緒にいるところを目撃して鬱々していた。そこで、気持ちを晴らすべく古馴染みのいる大兵営へと向かう。実家のような安心感、知人たちとおしゃべりしてリフレッシュできる……はずだったのだが、どうにもジャンは婚約の話を断るつもりだと耳にしてしまう。すると、古馴染みたちは自分たちにとっては『奇跡の王女』であるセレネのためにと怒り狂いはじめた。
元王女セレネが伯爵家に養子に出されたのは訳があって——。

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる