136 / 158
成る程。クラウディオ殿下よりも遥かに卑劣で鬼畜な輩が存在していたようです。腹立たしい。
しおりを挟む「ええっ? あんな小さいネロ様達にも持たせているんですかっ!?」
驚きの声を上げるアーリー君。
「ええ。ネロ様とネレイシア様は王族であらせられます。いつ何時、誰に狙われるかわからない尊いお方です。故に、護身用の薬品類は常に身に付けておられます。ですが、ネロ様がご自身でそれらをご使用される状況に追い込まれないようにすることこそ、ネロ様にお仕えする我らが肝要な務めでございます」
「わかりました! 俺、ネロ様と王女様が危険な目に遭ったりしないよう、お守りしますっ!!」
「宜しい。ではまず、アーリーさんとウェイバー様はご自身が危険な目に遭って、ネロ様とネレイシア様へご心配をお掛けしないようにしましょう」
「はい!」
と、ソフィーネ侍女長の毒物……ではなく、薬品講座が淡々と行われました。
「麻痺薬は使用する際、用量を間違えると相手を死に至らしめてしまうことがありますので。効果を麻痺で留めておきたいのであれば、一掛けか二掛けまでにしておいてください。それ以上使用すると循環器系に異常を来たし、呼吸困難や心臓麻痺などを起こして死亡してしまう可能性があります」
・・・目の前に並べられているこの薬品、実はかなり取り扱いに注意が必要なのでは?
「麻酔薬も同様。この麻酔薬で相手の身体の自由や意識を奪うことができますが、使用量を間違えると相手が永遠に目覚めなくなってしまう可能性があります。その場では意識を失って寝ているだけに見えても、ずっと昏睡状態が続き、二度と目覚めることが無い、所謂植物状態に陥ることや、最悪呼吸すら止まって死亡してしまうこともあります」
「なんてものをネロ様とネレイシア姫様へ持たせているのですか……」
思わず落ちた呟きに、ソフィーネ侍女長がわたしを見据える。
「……調べればわかることですが。実は、ネロ様はわたくしの調合した麻痺薬を一度、ご自身で暴漢へ向けて使用されたことがあります」
「え?」
「どういうことですかソフィーネ侍女長っ!?」
「殿下方が提携事業を始めた理由は聞き及びかと思われます」
「? ええ、はい。神殿の腐敗が酷くて、国が一斉摘発をしたら、神殿の運営していた孤児院や救貧院が大変なことになって、ネロ様や他の王子様方が救済措置として慈善事業を興したと聞いています」
ソフィーネ侍女長の質問にアーリー君が答える。
「ええ。実は、神殿の腐敗、不正、犯罪行為を暴くきっかけとなったのはネロ様なのです。当時、病気療養なさっていたネロ様とネレイシア様の実のお母上であらせられる側妃様の病気平癒を祈願する為、お忍びで神殿に参拝をしたのですが……」
ソフィーネ侍女長の説明に、『以前のネロ様とミレンナ様は不仲だったのでは?』と、過ぎる疑問。しかし、今は口を挟むべきではないと思い、黙って続きを聞くことにします。
「ネロ様を案内した当時の司祭が、こともあろうにネロ様へ不埒な行いを迫ったそうで。ネロ様は自衛の為に、すぐさま麻痺薬を使用。その際、元司祭は『自分にこのようなことをしてただで済むと思っているのか、貴様の一族郎党を破門にしてやる』『貴様などいつでも殺せる』などと、身の程知らずにも、ネロ様のことを脅迫なさったそうです」
「王族へ対する暴行未遂に加え、脅迫、殺害予告、ですか。相当腐っていたようですね」
年端も行かぬ子供になんてことを……
「はい。当時、アストレイヤ正妃様がネロ様へお付けしていた護衛が現場へ押し入り、現行犯としてその元司祭を捕縛致しました。神殿には、その場で厳粛な調査が入ることが決定し、続々と逮捕者が続出。神殿が携わっていた業務が大量に支障を来たした為、それを心苦しくお思いになられたネロ様が中心となり、殿下方の事業提携が進められることとなりました」
「……その、ネロ様を襲おうとした元司祭とやらはどうなったのですか?」
自分で思ったよりも、低い……怒りを押し殺したような声が出た。どうやらわたしは、かなり怒っているようだ。この話は、ネロ様がわたしと出会う以前の出来事だというのに。
「死刑が確定しております。但し、余罪が大量にある為、それらを全て暴くまでは牢の中から出ることは叶わないでしょう」
つまり、楽には殺さないということですか。おそらく、拷問そのものの激しい責め苦と訊問を、身を以て味わっていることでしょう。
「件の元司祭は、見目が良ければ男女の別や、年齢を問わずに……下は一桁の幼児や少年少女、上は三十代の女性までと。神殿の権威や破門をチラ付かせた脅迫で気に入った方を無理矢理手籠めにしていたという、正真正銘の鬼畜です」
成る程。クラウディオ殿下よりも遥かに卑劣で鬼畜な輩が存在していたようです。腹立たしい。
「というワケですので、アーリーさん」
「はい」
「世の中には男女や年齢の別、自らの分なども弁えず、相手の意志や尊厳を躊躇いもせずに踏み躙るような非道な輩が存在するのです。ネロ様があなたを保護したのも、ある意味他人事ではなかったからでしょう。これからはより一層、自身の身を守ることに注力してください。あなた方が自身の身を守れるようになることで、ネロ様とネレイシア様への危機が減るのですから」
「わかりました」
と、神妙な顔で頷くアーリー君。
確かに、アーリー君やネロ様、シエロ王子などの美貌を持つ方々は……ある種、人の理性を惑わせ、狂わせると言っても過言ではありませんからね。そのことに無自覚でいるよりは、気を付けるに越したことはないでしょう。
けれどソフィーネ侍女長の話の中で、非常に疑問に思うことがあります。
「ソフィーネ侍女長。失礼ですが、その事件の最中はミリーシャ嬢やあなた方は一体なにをしていたのですか?」
27
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。

『奇跡の王女』と呼ばないで
ルーシャオ
恋愛
サンレイ伯爵嫡子セレネは、婚約の話が持ち上がっている相手のジャンが他の伯爵令嬢と一緒にいるところを目撃して鬱々していた。そこで、気持ちを晴らすべく古馴染みのいる大兵営へと向かう。実家のような安心感、知人たちとおしゃべりしてリフレッシュできる……はずだったのだが、どうにもジャンは婚約の話を断るつもりだと耳にしてしまう。すると、古馴染みたちは自分たちにとっては『奇跡の王女』であるセレネのためにと怒り狂いはじめた。
元王女セレネが伯爵家に養子に出されたのは訳があって——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる