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成る程。クラウディオ殿下よりも遥かに卑劣で鬼畜な輩が存在していたようです。腹立たしい。
しおりを挟む「ええっ? あんな小さいネロ様達にも持たせているんですかっ!?」
驚きの声を上げるアーリー君。
「ええ。ネロ様とネレイシア様は王族であらせられます。いつ何時、誰に狙われるかわからない尊いお方です。故に、護身用の薬品類は常に身に付けておられます。ですが、ネロ様がご自身でそれらをご使用される状況に追い込まれないようにすることこそ、ネロ様にお仕えする我らが肝要な務めでございます」
「わかりました! 俺、ネロ様と王女様が危険な目に遭ったりしないよう、お守りしますっ!!」
「宜しい。ではまず、アーリーさんとウェイバー様はご自身が危険な目に遭って、ネロ様とネレイシア様へご心配をお掛けしないようにしましょう」
「はい!」
と、ソフィーネ侍女長の毒物……ではなく、薬品講座が淡々と行われました。
「麻痺薬は使用する際、用量を間違えると相手を死に至らしめてしまうことがありますので。効果を麻痺で留めておきたいのであれば、一掛けか二掛けまでにしておいてください。それ以上使用すると循環器系に異常を来たし、呼吸困難や心臓麻痺などを起こして死亡してしまう可能性があります」
・・・目の前に並べられているこの薬品、実はかなり取り扱いに注意が必要なのでは?
「麻酔薬も同様。この麻酔薬で相手の身体の自由や意識を奪うことができますが、使用量を間違えると相手が永遠に目覚めなくなってしまう可能性があります。その場では意識を失って寝ているだけに見えても、ずっと昏睡状態が続き、二度と目覚めることが無い、所謂植物状態に陥ることや、最悪呼吸すら止まって死亡してしまうこともあります」
「なんてものをネロ様とネレイシア姫様へ持たせているのですか……」
思わず落ちた呟きに、ソフィーネ侍女長がわたしを見据える。
「……調べればわかることですが。実は、ネロ様はわたくしの調合した麻痺薬を一度、ご自身で暴漢へ向けて使用されたことがあります」
「え?」
「どういうことですかソフィーネ侍女長っ!?」
「殿下方が提携事業を始めた理由は聞き及びかと思われます」
「? ええ、はい。神殿の腐敗が酷くて、国が一斉摘発をしたら、神殿の運営していた孤児院や救貧院が大変なことになって、ネロ様や他の王子様方が救済措置として慈善事業を興したと聞いています」
ソフィーネ侍女長の質問にアーリー君が答える。
「ええ。実は、神殿の腐敗、不正、犯罪行為を暴くきっかけとなったのはネロ様なのです。当時、病気療養なさっていたネロ様とネレイシア様の実のお母上であらせられる側妃様の病気平癒を祈願する為、お忍びで神殿に参拝をしたのですが……」
ソフィーネ侍女長の説明に、『以前のネロ様とミレンナ様は不仲だったのでは?』と、過ぎる疑問。しかし、今は口を挟むべきではないと思い、黙って続きを聞くことにします。
「ネロ様を案内した当時の司祭が、こともあろうにネロ様へ不埒な行いを迫ったそうで。ネロ様は自衛の為に、すぐさま麻痺薬を使用。その際、元司祭は『自分にこのようなことをしてただで済むと思っているのか、貴様の一族郎党を破門にしてやる』『貴様などいつでも殺せる』などと、身の程知らずにも、ネロ様のことを脅迫なさったそうです」
「王族へ対する暴行未遂に加え、脅迫、殺害予告、ですか。相当腐っていたようですね」
年端も行かぬ子供になんてことを……
「はい。当時、アストレイヤ正妃様がネロ様へお付けしていた護衛が現場へ押し入り、現行犯としてその元司祭を捕縛致しました。神殿には、その場で厳粛な調査が入ることが決定し、続々と逮捕者が続出。神殿が携わっていた業務が大量に支障を来たした為、それを心苦しくお思いになられたネロ様が中心となり、殿下方の事業提携が進められることとなりました」
「……その、ネロ様を襲おうとした元司祭とやらはどうなったのですか?」
自分で思ったよりも、低い……怒りを押し殺したような声が出た。どうやらわたしは、かなり怒っているようだ。この話は、ネロ様がわたしと出会う以前の出来事だというのに。
「死刑が確定しております。但し、余罪が大量にある為、それらを全て暴くまでは牢の中から出ることは叶わないでしょう」
つまり、楽には殺さないということですか。おそらく、拷問そのものの激しい責め苦と訊問を、身を以て味わっていることでしょう。
「件の元司祭は、見目が良ければ男女の別や、年齢を問わずに……下は一桁の幼児や少年少女、上は三十代の女性までと。神殿の権威や破門をチラ付かせた脅迫で気に入った方を無理矢理手籠めにしていたという、正真正銘の鬼畜です」
成る程。クラウディオ殿下よりも遥かに卑劣で鬼畜な輩が存在していたようです。腹立たしい。
「というワケですので、アーリーさん」
「はい」
「世の中には男女や年齢の別、自らの分なども弁えず、相手の意志や尊厳を躊躇いもせずに踏み躙るような非道な輩が存在するのです。ネロ様があなたを保護したのも、ある意味他人事ではなかったからでしょう。これからはより一層、自身の身を守ることに注力してください。あなた方が自身の身を守れるようになることで、ネロ様とネレイシア様への危機が減るのですから」
「わかりました」
と、神妙な顔で頷くアーリー君。
確かに、アーリー君やネロ様、シエロ王子などの美貌を持つ方々は……ある種、人の理性を惑わせ、狂わせると言っても過言ではありませんからね。そのことに無自覚でいるよりは、気を付けるに越したことはないでしょう。
けれどソフィーネ侍女長の話の中で、非常に疑問に思うことがあります。
「ソフィーネ侍女長。失礼ですが、その事件の最中はミリーシャ嬢やあなた方は一体なにをしていたのですか?」
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