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公爵令嬢へ国外脱出をお勧めがてら、ちょっくら公爵のおじさまに営業掛けてみましたっ☆
しおりを挟む今はお説教一歩手前の状況だったわね!
「それは、我が国の公爵家が使用している封蝋です」
あれ? あたしのとこに来た手紙には、封蝋がされてるものは無かった筈だけど……? それとも、封蝋がされてる手紙が来たからバレちゃったのかしら?
封蝋や紋章入りの封筒、お手紙はその家からの正式な文書という意味になるものねー。まあ、あの手紙はまだ読んでないけど。
「ちょっと気になったことがあったもので、それを調査がてらにお知り合いになった推定おじさまと文通をしてみました」
「ほう……ちょっと気になった。で、隣国の公爵家を調査か。その上、調査対象の公爵本人と直接文通を? わたしに黙ってか?」
「あ、いえ。わたしが依頼した調査対象は、公爵家令嬢の娘さんの方ですね」
「ネロ様がお調べになっていたのは、サファイラ様ということですか?」
じっとりとした視線があたしを見下ろす。
「なぜ、サファイラ様の調査を? そして、なぜそのことをわたしにお話してくださらなかったのですか。サファイラ様のことは、わたしも存じております」
あら、ちょっぴり怒ってる感じ?
「シュアン・ウェイバーの協力を得て調査していたワケではないのか」
意外だという風にアストレイヤ様の片眉が上がる。
「ネロ。なぜ、隣国の公爵令嬢の調査を? そして、その父である公爵と文通していた理由はなんだ?」
「……隣国のクラウディオ殿下には婚約者がいたと聞いたもので。わたしが彼を貶めたことで、クラウディオ殿下は王太子位を返上したようなものでしょう? 公爵令嬢には悪いことをしたと思いました。もし、隣国に居づらいのであれば、なにかしらの理由を付けて公爵令嬢には留学や遊学をお勧めしようと思いまして。それで、公爵令嬢の周辺調査をしてみると……彼女はクラウディオ殿下の婚約者となったことで、かなり肩身の狭い思いをしているようでした。状況は少々違いますが、なんだか彼女がミレンナのようになってしまうかもしれないような気がして、放ってはおけませんでした」
と、顔を上げてキリっとした表情で言ってみた。
まあ、ちょっと脚色はしているし、大分いいように言ったけど。大体間違っていない。クラウディオが男遊びばっかりして、フィーラちゃんは城の若い愛人(男)達から冷遇されてたみたいだし。
こう、割とマニアックな腐女子じゃないと、サファイラちゃんの立場で楽しめる女の子はなかなかいないでしょ。心折れちゃってたり、病んじゃったり、壊れちゃったりしても全然おかしくないと思う。
「ネロ……」
「ネロ様……」
あたしの言葉に、渋い顔をする二人。
「というワケで、公爵令嬢へ国外脱出をお勧めがてら、ちょっくら公爵のおじさまに営業掛けてみましたっ☆」
「は?」
「え? 営業? ネロ様? どういうことですか?」
「? そのままの意味ですよ? 公爵令嬢の国外脱出をお勧めがてら、『宜しければわたしと交易してみませんか?』ってガチお誘いしてます」
「お前は、国の上層部すっ飛ばして他国と貿易の約束なんかしていいと思っているのかっ!?」
ガっ! と頭を掴まれて怒鳴られました。
「あぅっ、ちょっ、痛いっ! アストレイヤ様っ、痛いですよっ?」
「痛くしてるんだ!」
「え~っと、大丈夫です。まだお誘いしている段階で、約束や具体的な契約の話はしてませんからね!」
頭を掴まれながらふふんと胸を張ると、
「そういう問題じゃない!」
更に怒られた。次いで、呆れたような溜め息が落ちて頭から手が離された。ぽんと乱れた髪も直される。
「全く……それで、わたしのところに隣国公爵から内密に貿易がしたい。もし可能であれば、秘密裡に面会を願うという話が来ていたということか。心当たりが無くて驚いたぞ」
「? アストレイヤ様のところに……? って、もしかして、公爵のおじさまは文通相手をアストレイヤ様だと勘違いしてお手紙を?」
ということは、あたしの行動やネロリン信者経由でバレたワケじゃなくて、フィーラちゃんパパ経由でバレたってことね! そっかそっかー。
「ふっ、公爵のおじさまも相手を間違えるとは詰めが甘いですねぇ」
こういうところが、隣国王家やクラウディオにいいように使われちゃう所以じゃないかしら?
「お言葉ですが、ネロ様。サファイラ様のお父上も、まさか交渉相手が王妃殿下ではなく、まだお子様のネロ様だとは夢にも思わないのではありませんか。むしろ、王妃殿下にまで辿り着いた公爵閣下は優秀だと思われます」
じっとりと、なんだか根に持ってそうな視線が向けられる。
「さもありなんと言ったところだな。それで、お前は公爵令嬢をどうするつもりなんだ?」
「そうですねぇ……とりあえずは、国外脱出をさせてあげたいです。その後は……顔を合わせる機会があるなら、是非ともスカウトしたいですね」
「スカウト? サファイラ様を、ですか?」
「ええ。王子妃教育を受けて、数ヵ国語を話せる上、おそらくは周辺諸国の風俗や文化などもある程度は詳しいと思いますし。控えめに言っても才女じゃないですか。そういう人材が憂き目に遭って、本来の実力が発揮できない環境に置かれるのは至極勿体ないです」
優秀な人材ゲットのチャンスだもの!
「シュアン・ウェイバーを拾ったように、公爵令嬢も拾う気か?」
「サファイラ嬢にその気があるなら、ですけどね? ほら、クラウディオ殿下が王太子位を下ろされたので、あちらはそろそろ王位継承権争いが起きそうじゃないですか。貴族の派閥割れに伴い、都市部の治安悪化は想定されますし。その次は、食糧や燃料の高騰も時間の問題です。隣国状勢に詳しい人がいたら、こちら側の余波も最小限で済みそうだとは思いませんか?」
「……それで、父親の公爵と文通の上、貿易の営業か?」
「ええ。それに……」
「それに、なんだ?」
「いい機会なので、この際に隣国に報復をと思いまして」
「は?」
「え? ね、ネロ様っ? クラウディオ殿下の似顔絵を、国際的な指名手配犯としてバラ撒いたのが報復ではないのですかっ!?」
ぎょっとしたような表情を浮かべる大人達。
「もう、なに言ってるんですか。いいですか、シュアン? あれは、あの場でクラウディオ殿下一行を追い出す為にした対処と周辺諸国へ対する親切な忠告であって、わたし的には報復ではありませんよ?」
「あ、あの恐ろしく屈辱的な国際手配が報復ではないとっ!?」
サッとシュアンの顔が一気に青ざめた。
「ええ」
「……お前の考える報復とは? ネロ」
「そうですねぇ。目には目を歯には歯を、ということで……謀略には謀略を! 殴っていいのは、殴られる覚悟を持つ者のみ! 故に、『手前ぇら、覚悟ありと見做して思いっ切りぶん殴ってやるから覚悟しやがれっ!!』ですかね? とは言え、徒に一般市民に被害を与えるのは全く好みではありません。市民への被害は最小限に。然れど、狙った連中には最大限の痛手を与えたいところではありますね♪」
「本当に君は年にも、顔にも似合わず過激で苛烈なことを……」
「・・・ネロ様には、それが可能だと仰るのですか?」
「ええ。食糧、燃料が高騰することは大体推測できますし。やり様によっては可能。むしろ、高値で物資を売り付けてボロ儲けのチャンスです! 公爵のおじさまの協力も取り付けることができれば、更に容易いかと♪」
げっへっへ、弱みに付け込んで国力をガンガン下げることができるぜ! やられたらやり返される! うちの国の国力を下げた分、思い知らせてやるわ!
「……先に仕掛けて来たのは向こうとは言え、えげつないことを考え付く」
「というワケで、隣国との貿易の許可をくださいな♪」
きゅるるんおめめでかわゆく見上げると、
「……はぁ、いいだろう。但し、黙って勝手なことをすることは許さん。君はまだ、保護者が必要な年だということを忘れるな。シュアン・ウェイバー」
仕方なく? 許可を出し、シュアンに向き直るアストレイヤ様。
「この件については、やりたくなければネロの補佐をせずともいい。故国への謀略だ。君がつらいのであれば、別の者をネロの補佐に付ける」
「いえ、わたしはネロ様の側近です。この立場は、誰にも譲りません」
「そうか。では、無理をせず励むといい」
「ご配慮、ありがとうございます」
「いや、君の回復早々これだ。先が思いやられるが……胃腸は大事にしろ」
あら、シュアンの胃が弱いことはアストレイヤ様にも知られてるのね!
「はい……」
と、しょっぱい顔での返事。
こうしてアーリーたんが来る前に、フィーラちゃんのパパ公爵と貿易の許可を無事ゲットした。
毒花系美女が花開く前の、清楚系美少女姿が楽しみだわ♪
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
茜「ふぅ、お説教回避成功♪」(/∀≦\)てへっ♪
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