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神殿に顔を出してしまったアーリーたんが、シエロたんの身代わり……人身御供にされてしまったのではないか、という疑念だ。
しおりを挟むその間に――――アーリーたんの受け入れ体制を整えて、シュアンのお見舞いでも行きますか。
アーリーたんは、そりゃあもう天の御使いかと紛う程のとんでもない美形だ。その色香に惑ったりしないで、間違ってもアーリーたんを邪な目的で襲ったりしないような、男女共に確りした人じゃないと近くに置けないと思うのよねー。
側妃宮に入ったら、基本はあたしからあんまり離さないようにしなきゃいけないかしら? 多分、二十四時間体制での護衛も必須ね! 一応、アーリーたんの城内滞在の名目は侍従見習いだし、あたしの部屋には更に使用人が控える為の部屋が付いてるから、そこに入ってもらいましょう。
多分、あたしの近くが一番安全地帯な筈。
ああ……そういう意味ではやっぱり蒼のとこじゃなくて、あたしの言うことを無条件に近く聞いてくれる側妃宮で引き取って正解なのかしら?
あっちはあっちで……レーゲンの息が掛かってる人達が多いだろうし。保護する目的の場所で、危険な目に遭わせちゃうなんてこと、言語道断だものね!
というか、そもそも――――本来のストーリーに対し、あたしは一つの疑念を抱いている。隠しキャラとしてアーリーたんが登場しても、登場しなくても・・・
蒼を思い出す以前のシエロたんは、偶に神殿にお祈りに行っていた。蒼であることを思い出してからは、『こんな腐った世界の神なんぞに祈ってられっかっ!?』と、神殿に行くどころか貴腐神様への信仰を捨てたらしい。
まあ、信仰は個人の自由だし? 無神論者でもアニミズムでも、鰯の頭を拝むなり、好きにしたらいいと思う。
けど、問題はそこじゃない。
偶にとは言え、シエロたんは、クソ外道神官のいた神殿に通っていたのだ。儚げで見目麗しい、天使のような美貌を持つあどけないシエロたんが、クソ外道神官に目を付けられていないワケがないっ!?
ただ、シエロたんには護衛がいた筈、王家の近衛が付いて守られていた筈。
高位の神官とは言え、さすがに王族に、それも私生児なのに第二王子という身分を与えられている国王のお気に入りのシエロたんには手を出せないだろう。
それで――――もしかしたら、偶々王都に立ち寄って、神殿に顔を出してしまったアーリーたんが、シエロたんの身代わり……人身御供にされてしまったのではないか、という疑念だ。
その疑念を抱いてから……いえ、抱く前から。この世界でネロたんとして前世の茜が目覚めたときから、アーリーたんが変態クソ外道共に穢されちゃうだなんて言語道断、絶対赦してなるものかっ!! フィクションでなら許せても、やっぱりリアルでなんの罪も無いロリっ子やショタっ子、一般人達が酷い目に遭うのは絶対駄目っ!! というスタンスは変わってないけどね!
蒼にアーリーたんのことを気にし過ぎだとか、過保護じゃね? とか言われようが、これはもうあれでしょ! 是非ともアーリーたんを囲い込……じゃなくて、保護して、その天の御使いの如く神々しくて麗しいご尊顔を毎日舐め回すようにガン見して、『ありがたやありがたや~』って拝まなきゃっ♡
というワケで、アーリーたんに簡単に欲情したり劣情を抱いたりしない人の選抜を急がなきゃ! もう、いっそのこと、『アセクシャル』の人とかいないかしら? 『性欲を持ってない人』なら身近に置いても、アーリーたんの貞操の危機は守られる筈!
とは言え、この世界にアセクシャルなんて概念が浸透してるワケもなし。禁欲的な人と、生れ付き性欲を持たない人とでは、全く違う。
片や、『性欲を我慢している人』。片や、『生まれたときから他人へ欲情しない人』。持つ者と持たざる者……1と0では、天と地程も違う。どちらが安全かなんて、比べるべくもないというもの。
『性欲が無い人』は、身体的接触を好まない人が多いし。人によって、他人との接触はハグまでなら許容できるけど、キスは駄目という人だっている。または身体的接触を一切好まず、他人とは握手することすら嫌だという人もいるから、そういう人には相手に苦痛を与えない距離感が大事だ。
ちなみに、そういう人は恋愛感情を持たないだけで、愛情が理解できないワケじゃない。家族愛や友情はちゃんと理解できるから、愛や慈しみという感情自体はわかる。むしろ、そういう人の方が無償の愛という概念を感覚的に体得していそうだ。
そして、『恋愛感情は理解できるし、本人も持っているけど、性欲が無い』というパターンの人もいる。こっちはプラトニックな愛情で、身体的な接触を好まない場合が多い。自分が相手を愛するだけで満足できちゃう人ね。
まあ、全く逆に、『恋愛感情を理解できないで性欲はある』というパターンの『アロマンティック』と称される人もいるけど。そういう人は、男女共にワンナイトラブを繰り返し、相手を取っ変え引っ変えしてるイメージよねー。恋愛感情が理解できないから、他人に恋愛的に嫉妬される意味が理解らない。
いつか、誰かに刺されちゃいそうな爛れた危うい生活を送っている人は、本人は無自覚でこの、性欲はあるのに恋愛感情が無いというアロマンティックの人がいたりする。個人的に、こういう人と結婚しちゃうと割と地獄だと思うわ。
あたしの偏見だけど、相手の恋愛的な好きという気持ちは全くわからないのに、身体の関係だけは要求するんだもの。ぶっちゃけ、求められるのは性欲を満たす為にだけと言える。それを拒否すると、すぐにパートナー以外と関係を持つ人も少なくない。そんな人と恋人、夫婦として付き合えるのは同類の人か、割り切った関係だと達観できる人くらいなもんでしょ。
BL作品や、数多ある恋愛を取り扱った作品で、最低なクズにこういう傾向があるのよ。
それはおいといて。
あたしの予測では……修道士や修道女など、神へ遣えることを選んだ人の中には、性欲を理解できなくて、もしくは性欲が皆無でその道を選んだ人が一定数いる気がするのよねー?
ほら? 不犯の誓いを立てて一生涯独身という境遇は、恋愛感情を理解できない人や性欲が無い人に取ってはある意味すっごく楽で、ある種の救いでもあると思うの。
結婚するのが当然で、結婚しない人にはなんらかの瑕疵があるのでは? と邪推されるような価値観の世の中じゃ、恋愛感情を理解できず、性欲が無くて異性や同性にも全く興味が無いという人は、至極生き難いと思うのよねー。
だから、そういう煩わしいことが無い神門へ入ったという人だっている筈だという予測なワケなのです!
やっぱり、価値観が多種多様な世界の方がマイノリティの人達が生き易いわよね!
嗚呼……多種多様なBL作品が懐かしいわ♡
国や時代が違えば、同性愛者なんて精神病扱いならまだマシな方。最悪、悪魔や魔女扱いされて処刑されちゃってたことだってあるもの。
マイノリティの排斥は、いつ、どこだって、どの時代でも、誰にだって起こり得ること。
あたし自身の、BLやヤンデレが好きという趣味嗜好が少数派なだけに、そう言ったマイノリティの人達を切り捨てる世の中には、ちょっと思うところがあるのよね。
別に、そういうマイノリティな趣味嗜好を普通の人に好きになれとは言わないけど。気持ち悪いとか、偏見で排斥や排除しないでほしいと思う。
できるなら、多種多様な価値観を……理解しろとまでは言わないから、ちょっとずつ黙認や容認して、存在を許容してくれる世の中になってほしいものだわ。
そうしたら、いがみ合いや諍いが少しは減ると思うのよね。
だって、大抵の争い事は無理解や不理解から来る恐れ、拒絶、断絶、決裂から生み出されると思うから。
相手を知って、怖くないということを理解すれば仲良くできると思うのよねー。
ま、さすがにそういうのは全~部理想論だってことは知ってるけどねっ☆
でもでも、理想を夢見るのは個人の自由だもの。
人間、誰しも絶対に理解できない相手というのは存在する。そういう相手がいないという人は、まだ出逢っていないだけ。相性が最低最悪で、なにがなんでも対立しかできない相手。けれど、そういう相手にだって『死ね』や『消えろ』とかじゃなくて、存在自体の黙認はできちゃうと思うの。
まあ、そういう壮大な社会目的は兎も角。アーリーたんを任せられるような、性欲の無いアセクシャル且つ、屈強で護衛に長けている人……どこかに落ちてたりしないかしらねー?
そんな都合の良過ぎる優良物件いたら、即行で雇うのになぁ……
ひとまずは、侍女長とアストレイヤ様の手先の執事さんに相談かしら。
アーリーたんの貞操と身の安全を図る為に!
――――――――――――
茜「嗚呼……多種多様なBL作品が懐かしいわ♡」(*´﹃`*)ジュルリ…
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