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・・・ネロ様。あなたは昨日、ミレンナ様に散々『愚か』だと仰いましたが。あなたも、相当に愚か者です。
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なんか濃かったわー……な一日を過ごした翌朝。
よく寝てスッキリお目覚めしたら、部屋の前にまだ見張りが立っていた。
もう、やぁね? 今はまだそのときじゃないから、側妃宮抜け出してどこぞの汚物を蹴りになんか行かないってばっ★とりあえず、ご苦労さんなことで。確り休んでくださいね? と労ってあげた。
ああ、そうだわ。お針子さん達にもボーナスを用意しなきゃねー?
さてさて、今日はどうしようかしら?
シュアン情報の、裏切り領主達の監査準備か……ああ、いえ。その前に、生ける屍軍団受け入れ体制や療養施設を整える方が先ね! 受け皿が無いのに、人数増やしても困るだけだもの。まあ、準備だけは並行して進めても問題無いかしら? 入れる建物は先に造っとかなきゃだし。
あとは……そうね。ここも人が増えた(アストレイヤ様の手先とかね!)ことだし、あたしの優先順位を明確に告げておいた方がいいかしらねー。
で、それが受け入れられない人とは、少々距離を置くことにしよう。
というワケで朝食の後、側妃宮の使用人達を集めてもらった。
ネロ様からのお言葉、としてなんだかやたら有難がっている人。ネロたんをライカのスペアとして見ている人。ネロたんの監視員としてここにいる人などなど。
「それで、ネロ様。お話したいこととはなんでしょうか?」
シュアンが口を開く。
「側妃宮も人が増えて来ましたからね。この辺りで、わたしの優先順位のことを話しておこうと思いまして」
にこりと応えると、
「ネロ様の優先順位、ですか?」
怪訝そうな顔をされた。
「ええ。既にご存知の方も、またはアストレイヤ様から聞かされている方もいると思いますが……この場で、明確に宣言しておきます。わたしの中の最優先事項は、シエロ兄上の身の安全です」
「え? ネロ様? なにを……?」
シュアン同様、あたしがなにを言ったのか理解できていない人も複数。
「わたしは、その為に動いています。それ以外のことは大体その為の副産物か派生とでも思っていてください。わたしの一番大事なものは、シエロ兄上です。わたしは、愛するシエロ兄上を守る為ならば、どのような手段も厭わず使うことでしょう。シエロ兄上を害す者は、仮令それが誰であろうと赦しません。アストレイヤ様とライカ兄上に与するのも、レーゲンを引き摺り下ろすのも、全てはシエロ兄上の身を守る為の手段でしかありません。それを念頭に置いてください。ちなみに、反論は一切受け付けませんので」
「ネロ様の御心のままに」
と、真っ先に跪いたのはミリーシャ。それに続いて、侍女長やネロリン信者が続々と跪く。立っているのは、アストレイヤ様の手先と納得が行っていない人や困惑している人など。
「ああ、アストレイヤ様は、わたしがシエロ兄上を守る為にアストレイヤ様とライカ兄上を支持していることは、既にご存知です。というか、わたしがシエロ兄上を最優先させることについての了承は、アストレイヤ様から頂いておりますので」
「なぜ、ネロ様はそこまでシエロ王子のことを……?」
「シュアンさんも、昨日見たでしょう? アレがわたし達の日常でした。母はあの、ヒステリックに喚き散らす状態のミレンナ。父とは顔を合わせたことすらなく、いないものとして存在を無視されています。そんな中で、唯一わたし達のことを家族だと言ってくれたのがシエロ兄上だけだったからです。わたしのことを弟だと、ネリーのことを妹だと言い切って仲良くしてくれた家族が、シエロ兄上だけだったので。故に、わたしはわたしの全力を以てしてシエロ兄上を守ろうと決意したまでのこと。家族を守るのは、当然のことでしょう? それが仮令、情の無い実の母親が相手だとしても、ね?」
「昨日の、ミレンナ様とご友人になられるというのは、シエロ王子を守る為の手段だと?」
顔を歪めるシュアン。なんだか、ショックを受けたような顔ねー?
「ふふっ、手段の一環にはなりますね。言ったでしょう? ミレンナとお友達になったのは、計算外のことです。今のミレンナとなら、仲良くなれそうな気がしますから」
「そう、ですか……」
「ええ。失望させてしまいましたか?」
「いえ、そんなことは……」
「別に構いませんよ? でも、そうですね。今のわたしの宣言に納得行かない人は、納得して頂かなくても結構。但し、わたしのことを主と仰ぐのであれば、わたしの大切にしているものも含めて大切に扱いなさい。勝手な判断で、わたしが大切にしているものを傷付けることは絶対に赦さない。そんな真似をする人など不要です。余計なことをする前に、今直ぐこの側妃宮から出て行きなさい。紹介状は用意して差し上げます」
ネロリン信者は跪いたまま身動ぎ一つもしないが、アストレイヤ様の手先や入って日の浅い使用人達がざわりと狼狽える。昨日の護衛騎士をしてくれた侍女さんなんか、顔面蒼白だ。執事さんも硬い表情をしている。
「わたしの行動は、全てシエロ兄上の幸せの為。それを覚えていてください」
「シエロ王子は、ご存知で?」
「ふふっ、シエロ兄上とは、互いに生き残る為に協定を結んでいますからね」
「つまり、ネロ様がここまで深くシエロ王子のことを想っていらっしゃることはご存知ない、と? 失礼ですが、ネロ様はもしシエロ王子に裏切られたらどうするのです?」
「どうもしませんよ? シエロ兄上がわたしを裏切ることは、限りなく低いと思います。まあ、可能性はゼロではありませんが。けれど、それのなにが問題ですか? わたしが勝手にシエロ兄上を愛して、勝手にシエロ兄上を守ろうとしているだけです。シエロ兄上には、わたしを信じる義務はありません」
なにせ、シエロたんは推しで、蒼は茜の弟だもの! ある意味一蓮托生! この世界ではきっと、一番のあたしの理解者よ? 蒼があたしを裏切る可能性は、相当低い。もし蒼があたしを裏切ることがあるなら、それには絶対になにか事情がある。むしろ、死を覚悟している可能性すらある……かもしれない。
「・・・ネロ様。あなたは昨日、ミレンナ様に散々『愚か』だと仰いましたが。あなたも、相当に愚か者です」
「だから言ったんですよ? 早まらないように保留で、と」
「本当に、あなたは子供らしくない。愚かではありますが……ミレンナ様との違いは、そのお覚悟の差でしょうか。まあ、愚かしさを子供らしいと言うのであれば、その一途さも、家族を求める姿も、子供らしいと言えるかもしれませんね?」
と、呆れたような、どこか寂しげな顔でシュアンがあたしの側に寄って来た。
「言ったでしょう? 返品も保留も受け付けません」
目の前で跪かれ、
「わたしは、あなたをお守りします、と。ネロ様、あなたが子供らしくいられる時間を、わたしが守ります」
強い瞳があたしを見据える。
「わたしを拾った責任を果たしてください」
「わたしが失脚すれば、道連れですよ?」
「それを回避させるのがわたしの仕事では?」
「……仕方ありませんね。そこまで覚悟があるなら、わたしの傍へ控えることを許します」
「御意に」
「では、話は以上です。解散し、銘々各自の仕事に戻ってください。ああ、この場で側妃宮を去ると言い出せなかった方は後程、執事長か侍女長へ相談してください。約束通り、紹介状は用意します。退職金も出しますので、遠慮は無用です。手切れ金だと思って受け取ってくださいね」
と、解散させた。
「ネロ様……」
じっとりとした視線を向けるシュアン。
「はい、なんでしょうか?」
「あのように、わざわざ敵を作るような仰り方をせずとも宜しかったのではありませんか?」
「獅子身中の虫よりマシです。どうにも、シュアンさんには甘いところがありますね」
「わたしが、甘いと? ネロ様には言われたくありませんが」
「そうですか? クラウディオ殿下が正妃の第一王子で、そのまま王太子であることが確定していたからでしょうかね?」
この辺りは、クラウディオがやたら傲慢に育った理由かもねー? 脅威らしい脅威が無く、よっぽど危機感が薄かったのだろう。シュアンの諫言を無視し、シュアンを置いてさっさか逃げる程には馬鹿だし。
その一強状態のクラウディオに付いていたシュアンも、ある意味……
「どうもシュアンさんは、この国の王位継承争いを甘く見ている気がします」
「……それは、否定できません」
「元々クソ親父がやらかしていた上、それを利用してどこぞの国が更に我が国を引っ掻き回そうとしていましたからね。割と面倒なことになっているんですよ」
基盤がグラ付いてるところを、余計に揺るがそうとして。本当に迷惑なのよ。
「っ……」
「なので、潜在敵は早目に判っていた方が楽なので」
「理解は、しました。けれど……」
「けれど?」
「次から憎まれ役は、わたしがやります。なので、その為にネロ様の意向を確りと、わたしへお話しください」
あらあら、シュアンは本当にあたしに仕えてくれちゃう気満々なのね。
「それと、シュアンとお呼びください。ネロ様」
「ふふっ、シュアンは真面目ですねぇ?」
「……ネロ様は、偶に悪魔みたいですね」
「なぜか最近、よく言われる気がしますねぇ?」
「本当に、どこが天使なんでしょうか? 目的の為に、これ程手段を選ばない恐ろしい方が……まさか、王妃殿下に与することが手段であると、ご本人へ許可を取っているとは」
「ふふっ、アストレイヤ様はお優しい方ですからね。というワケで、今日はアストレイヤ様とお話しに行きますか」
「本当にネロ様は……」
はぁぁ~と、深い溜め息が落ちる。
「シエロ兄上のお顔を見に♪あ、ちゃ~んとアストレイヤ様のお顔も、ライカ兄上のお顔も好きですよ♪」
「・・・そう言えば、ネロ様は自他共に認める面食いでしたか」
「はい♪」
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