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み、ミリィちゃんっ? アハハハハハハハハハハハハっ!? 全く、君はいつもこちらの予想の斜め上を行くなっ!?
しおりを挟む夕方。離宮の前で馬車が停まり、ドアが開くと……
「無事に帰って来たか」
安堵したような声で、アストレイヤ様が手を差し出した。
「ただいま帰りました。お出迎えありがとうございま、すぅっ!?」
手を取ろうとしたら、ひょいとそのまま抱き上げられながら、慎重に上下左右に振られたり、背中や頭をぺたぺた触られて、あちこちチェックされた。どうやら怪我がないか調べられているようだ。
はっはっは、全く信用無ぇな、ミレンナ!
「ふむ、見たところ怪我は無さそうだが……見えない場所などは傷めてないか? 我慢せず、正直に言いなさい。下手に隠すと、脱がせて調べるぞ」
わお、ゴージャス美女のどアップっ!?
「大丈夫です。怪我はしてませんよ。事前に物を投げる癖があると伝えていたお陰か、鉄格子の中には投げられるような物は置かれていなかったようなので」
「そうか。しかし・・・酷いことを言われたり、怖い思いはしなかったか?」
心配そうなお顔があたしを見詰める。
「まあ、いつもの……聞き慣れた暴言しか言って来なかったので、『聞き飽きましたわ。もっと違うバリエーションはありませんの?』って言ってやりました」
「・・・君は。本当にミレンナに喧嘩を売りに行ったのだな? そして、よく見るとその格好は・・・さぞやミレンナを刺激したことだろう。本当に大丈夫だったのか?」
「勿論です。ガツン! と言って、ギャン泣きさせてやりましたとも! あ、勿論殴ったりはしていませんよ?」
「まあ、鉄格子の向こうにいる相手は殴れまい。ギャン、泣き? というのは、なんだ」
「主に、子供の癇癪や大泣き状態の、かなり酷いありさまを示す俗語ですね」
「……そうか。ミレンナを酷く泣かしたのか」
と、なにやら複雑そうな表情のアストレイヤ様。
まあ、そりゃ二十代も半ばを越した女が、女装した息子にギャン泣きさせられたら呆れもするわよねー? あら、字面にするとなんだかとってもカオスな状況ね!
「はい。それでですね、クソ親父への離縁を願うミレンナの手紙を預かって来たのですが」
「は? リエン? ……もしかして、離縁のことか? 本当に? あんなに執着していたミレンナが? レーゲンと? 冗談ではなく? いや、まさか……脅して書かせたのか? どうやってあの女を脅迫した?」
あら、人聞きの悪い。
「いえいえ、クソ親父がどれ程クズで男として最低なのか、ミレンナにどれだけ酷いことをしたのかと、奴はクソ野郎だとボロカスに貶しながら説明して、ミレンナを慰めつつ離縁を猛プッシュで勧めたら、自分から書いてくれましたよ? どんなやり取りだったかの委細は、後で護衛騎士さんに聞いてください」
あの女性騎士さん(普段は側妃宮で侍女をしている)はアストレイヤ様の手先だもの。
「ぁ~……いや、まあ、うん。そうだな。レーゲンは確かに、クズだな。ミレンナに酷いことをしたというのも、なにも間違ってはない。釈然とはしないが」
「はい。自分から結婚迫った相手が、クズ中のクズ。ドクズ野郎です。平民の間でも、あれ程酷いクソ野郎はなかなかいないと教えてあげました♪本っ当に、呆れるくらい男を見る目が無いですよね」
まあ、割とリアルでも高嶺の花と称される女の人が、なんでこんなクズに引っ掛かったっ!? って、思われるような相手とお付き合いしたり、結婚しちゃうこともあるけど。
そういう意味で言うなら、ミレンナは性格はキツいけど、割とチョロインの素質がある感じなのよねー? 判ってて付け込んだあたしが言うのもなんだけど、やれやれだわ。次は、さすがにクズを選ばないといいんだけどね?
「・・・一瞬、目を白黒させるミレンナの顔が浮かんだぞ」
「確かに。わたしがレーゲンをクソやクズと連呼する度、びっくりしてましたね」
「それは・・・びっくりするだろうな」
ぱちぱちと瞬く瞳。美人さんは、ぽかん顔も綺麗ねー? 可愛らしいわ♪
「あ、ついでに、アストレイヤ様のご実家とライカ兄上。それからシエロ兄上とそのご実家。あとは、わたしとネリーには手出しをしないとミレンナの確約を取り付けて、血判状を頂いて来ました」
「は? いや、わたしとライカはまだ判るが、シエロにまで? どんな手を使ったのだ?」
「えっと、普通に……『わたしの大事な家族に手出しするなら、殲滅や族滅を覚悟して掛かって来るように』と宣言しただけです」
「普通に脅迫の文言なのだが?」
「あと、ミレンナとは家族として縁切りして……お友達になって来ましたっ☆」
「はあっ? ミレンナと縁切りして友達に? 意味がわからな過ぎるぞっ!?」
「だって、縁切りして親子じゃなくなりますし。ミレンナの実家ともお付き合いする気は全く無いので。わたし達とミレンナは完璧他人になるでしょう? それを、ミレンナが寂しがって……なんか、それがちょっと可愛かったので。だったら、他人でもなれる関係性として、『ミレンナが寂しいというのであれば、お友達になってあげてもいいですよ?』って言っただけです。『お前もお友達がいなさそうだから、わたくしがお友達になってやるわ』って高飛車なお返事でしたけどね? それで、『お前に手紙を出してやってもいいわ』って言うので、文通することになりました。宛名は、側妃宮の侍女見習いリーちゃんへ。宛先はお友達のミリィちゃんです」
「ククッ……み、ミリィちゃんっ? アハハハハハハハハハハハハっ!? 全く、君はいつもこちらの予想の斜め上を行くなっ!?」
愉快そうな笑い声が響く。
「お誉めに与り光栄です。ところで、アストレイヤ様」
「ん? なんだ?」
「重くないです? いい加減、降ろしてくださいな」
「いや、これくらいは平気だ。というか、君は少し軽くないか? ライカはもうちょっと重かったぞ? 食事は確り食べないと駄目じゃないか」
「やー、わたし今、ドレス着てるんで、いつもより重い筈なんですけどね? あと、わたしは同年代の子達より、結構食べる方だと思いますよ」
「そうか?」
「ええ。降ろしてください」
「わかった」
と、やっと地面に足が着いた。
「ありがとうございます。そして、これがミレンナからクソ親父への離縁申請の手紙。こちらが、血判状となります」
手紙と、便箋に書かれた血判状をアストレイヤ様へ差し出す。
「よくやった。ご苦労だったな」
にこりと優しい笑みで受け取ると、ぽんと頭が撫でられた。
「ふふっ」
「疲れただろう? 今日はもう休むといい」
ふっ、こんなチャンスそうそう無いわね。逃してなるものか!
「いえ、あの……今日は、アストレイヤ様に……お願いがありまして」
「なんだ? 言ってみろ。今回の褒美として、できることなら聞いてやるぞ」
「本当ですか? ありがとうございます! それじゃあ……そのお手紙、クソ野郎……じゃなくて、わたしから父上に直接お渡ししたいのですが、ダメでしょうか?」
きゅるるんおめめの上目使いで、アストレイヤ様を見上げてかわゆくおねだり♡
「その、父上とは、一度も顔を合わせたことがないので……」
「・・・いや、今君。思いっ切りクソ野郎って言い掛けたよな? レーゲンに会ってなにをするつもりだ? というか、なんだか危険な気がするので却下する」
「え~? お願い聞いてくれるんじゃなかったんですか?」
「できることなら、と断っただろうが? それで、君はレーゲンに会ってどうするつもりだったんだ? 怒らないから、正直に言いなさい」
なんだか、お説教をする前の前振りみたいなセリフねぇ?
「そうですねぇ……お手紙渡すついでに、ちょっくらクソ野郎の股ぐら蹴り潰して来ようかと思いましてっ★」
「却下だ却下っ!! 君は一体なにを考えてるっ!?」
「え? そりゃ勿論、『あのクソ野郎の股間蹴り潰してぇっ!!』って、滅茶苦茶思ってます!」
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