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お優しいネロ様は、クラウディオ殿下とは違ってわたしのことを見捨てはしないでしょう? わたしを拾った責任を果たしてください。
しおりを挟む「それにしても・・・」
「なんでしょうか?」
「シエロ王子といい、ネロ王子といい、王族としてはかなり口が悪いと思うのですが? 一体、どこであのような汚い言葉を覚えて来るのですか? 教育を見直した方が宜しいかと」
「まあ、シエロ兄上のことはわかり兼ねますが……」
十中八九、シエロたんは『蒼』を思い出したからでしょうけどね!
「ネロたんに関しては、以前にも言ったように、城内を散策して時間を潰すことが多かったので。洗濯場や厩舎、騎士の訓練所なんかの裏側をふらふら歩いていると、なかなか面白い話が聞けるもので」
情報収集&イケメンウォッチングに持って来いの場所なのよ♪
「王子がなんて場所を歩いているんですかっ!? よもや、治験の話などもその辺りから聞いたのではないでしょうね?」
ありゃ、怒られちゃった。
「では……シュアンさんはミレンナのあの喚き散らされる罵詈雑言と、使用人達の噂話とでは、どちらが教育に宜しくないと思いますか?」
まあ、両方共確実にお子様の教育には悪いけどね!
「そ、それはっ……ああもう、わかりましたっ!? あなたは、あなたを守ってくれる大人がいない状況で、ずっとご自分と妹君を、更には使用人達の命までをも守って来た。だから、まだこんなにもお小さいというのに……あなたは、そんなにも子供らしくないのですね」
キッとあたしを見据え、次いで悲しそうな顔に変わったシュアンがあたしを見下ろす。
まあ、子供らしくないのは仕方ないわねー。だってあたし、前世の年齢含めたらとっくにアラサー越してるもん。まあ、ネロたんも元々あんまり子供らしくない子だったけど。環境のせいと言えば環境のせい。元の資質のせいでもあると思うけどねー?
知能の高い子って、結構おませさんになる傾向があるのよ。前世の茜も含めて、ね。
「道理でミリーシャ嬢や他の方々が、あなたとネレイシア姫を放ってはおけない筈です」
ミリーシャ嬢ねぇ? そう言えば、シュアンは戦闘侍女とよく話していたわね。
「はぁ・・・全く、あなたはそんな小さい身体で気を張って、策謀を巡らせて周囲の人を守ってばかりでいて。一体、誰があなた自身を子供扱いして守ってくれるというのです?」
「? わたしは、守られていますよ? 護衛の人も付いていますし、アストレイヤ様の庇護も受けています。ご存知ないかもしれませんが、アストレイヤ様は案外わたしに甘いんですよ?」
そして、お子様扱いは結構されてると思うんだけどにゃー? だって、あんまり自由に動けないし? 大人が危険だと思ったことはさせてもらえないし? うん、十分お子様扱いされてるわ。
「あなたは、ご自身の護衛も、そして王妃殿下のことも、ライカ王子のことも、シエロ王子のことも守っているではありませんか。それも、全く子供らしくない手段で。今回の、ミレンナ様との対峙だって、彼らを守る為なのでしょう? あなたは、全く傷付いていないと笑っていますが……通常は、子供が母親にあのような酷いことを、それも面と向かって言われたらとても傷付くと思います」
「ああ、それはきっと、わたしが普通の子供より断然メンタルが強いからでしょうね☆」
オタクや腐女子って、割と強メンタルの人が多いと思うの!
「ご自分でそれを仰りますか……」
やれやれという表情。うん? シュアンがなにを言いたいのか、今一わからないわね?
「?」
「ネロ王子」
と、真剣な顔で立ち上がったシュアンがあたしの手を取って跪いた。
「わたしには物理的なあなたの剣となれる程の腕は無く、闘いではお役に立てませんが。これからは、わたしがあなたの盾となりましょう。あなたを助け、あなたの敵を排除します。わたしの忠誠をあなたへ。ネロ様」
「へ?」
右手へ、シュアンの額が押し付けられる。
「え? え~? あれ? シュアンさん? わたしのところに嫌気が差したら、シエロ兄上かライカ兄上のところに行く予定では? わたしに忠誠を誓ったら、他に行けませんよ?」
「ククッ、初めてあなたを驚かせられましたね? シュアンで結構です。さんは要りません」
ニヤリと、あたしを見上げる瞳。
「え~? えっと、保留で。ほら? シュアンさんにも将来があるでしょう?」
「嫌です」
「は? ちょっ、シュアンさん?」
「返品も保留も受け付けません。嫌なら、わたしを放り出せば宜しい」
「そんな……」
「お優しいネロ様は、クラウディオ殿下とは違ってわたしのことを見捨てはしないでしょう? わたしを拾った責任を果たしてください」
にっこりと、なんだかとっても勝ち誇った顔で忠誠の押し売り!
「・・・シュアンさんも」
「シュアンで結構です」
「シュアンさ」
「シュアンで結構です」
「・・・シュアンもまだ、ギリギリまだ未成年だから子供扱いされて然るべきだと思いますが?」
「わたしよりも十も年下で、尚且つ誰よりも率先して働いているネロ様がなにを言っているのですか。それに、わたしはそろそろ成人なので。わたしが成人すれば、ネロ様の憂いも無くなりますね?」
「クラウディオ殿下に忠誠を誓っていたのでは?」
「ご冗談を。あのようなクズに、わたしの忠誠は勿体ない。そう思いませんか?」
おおう、クラウディオをクズと言い切ったっ!?
「まあ、確かに。彼に……いえ、あの国にあなたが勿体ないのはその通りですね」
「それに、わたしのことを信用しているのでしょう? 仰りましたよね、ネロ様」
「・・・言いました、ね」
「はい。仰りました」
にこにこと笑うシュアンに・・・なんか押し負けたっ!!
そして、シュアンが正式にあたしの側近となった。というか、自分で側近の地位をあたしから捥ぎ取りやがったっ! ぐぬぬ……このあたしが、年下青少年に口論で負けるとはなんたる不覚っ!?
ミレンナのヒスを間近で見て、メンタルやられるどころか強く逞しくなっちゃったのかしら?
今回はちょっと負けちゃった感じだし、後でシュアンのネロたん専属という雇用契約を確り詰めることになったけど・・・そう簡単にあたしの腹心になれるとは思わないことね!
こうなったら、お菓子でも食べて気分転換しよう。
「シュアンも食べます? お好きな物をどうぞ」
小腹が空いたときの為にと、お菓子を大量に用意して来た。クッキー、ビスケット、パウンドケーキ、マフィン、クラッカー、ナッツ、パイ、タルト。プレーンにチョコ、ココア、ジャム入り、ドライフルーツ入りなどに加え、塩味やチーズ味、スパイス風味といったしょっぱい系の味もある。
昨日、「明日は帰りの馬車の中でお菓子がいっぱい食べたいのですが、ダメですか?」と、きゅるるんおめめで使用人達におねだりした甲斐あって、気合の入った山盛り沢山のお菓子の量ね♪
取り出して、まずはしょっぱい系をむぐむぐ頬張る。
「え? こんなに沢山……」
「沢山あるので、お裾分けしてあげます」
「え~っと、では……頂きます」
「はい、召し上がれ」
むぐむぐと食べる。むぐむぐとあれこれ口に入れていると・・・
「ネロ様? やけ食いだったりします?」
おそるおそるという風に声を掛けられた。
「んむ? ああ、いえ? 普通にお腹空いただけです」
「それにしては……よく召し上がっているようなので」
「ああ、わたし、結構食べる方なんですよ。ほら、チェスの名手や研究職の人が見掛けの割に大食いなのと、多分一緒です。食べないと頭働かないんで」
「そうですか」
「ええ」
と、途中の休憩時間にみんなにお菓子を勧めながら、ガタゴト馬車に揺られてお城へ帰り――――
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