105 / 158
お優しいネロ様は、クラウディオ殿下とは違ってわたしのことを見捨てはしないでしょう? わたしを拾った責任を果たしてください。
しおりを挟む「それにしても・・・」
「なんでしょうか?」
「シエロ王子といい、ネロ王子といい、王族としてはかなり口が悪いと思うのですが? 一体、どこであのような汚い言葉を覚えて来るのですか? 教育を見直した方が宜しいかと」
「まあ、シエロ兄上のことはわかり兼ねますが……」
十中八九、シエロたんは『蒼』を思い出したからでしょうけどね!
「ネロたんに関しては、以前にも言ったように、城内を散策して時間を潰すことが多かったので。洗濯場や厩舎、騎士の訓練所なんかの裏側をふらふら歩いていると、なかなか面白い話が聞けるもので」
情報収集&イケメンウォッチングに持って来いの場所なのよ♪
「王子がなんて場所を歩いているんですかっ!? よもや、治験の話などもその辺りから聞いたのではないでしょうね?」
ありゃ、怒られちゃった。
「では……シュアンさんはミレンナのあの喚き散らされる罵詈雑言と、使用人達の噂話とでは、どちらが教育に宜しくないと思いますか?」
まあ、両方共確実にお子様の教育には悪いけどね!
「そ、それはっ……ああもう、わかりましたっ!? あなたは、あなたを守ってくれる大人がいない状況で、ずっとご自分と妹君を、更には使用人達の命までをも守って来た。だから、まだこんなにもお小さいというのに……あなたは、そんなにも子供らしくないのですね」
キッとあたしを見据え、次いで悲しそうな顔に変わったシュアンがあたしを見下ろす。
まあ、子供らしくないのは仕方ないわねー。だってあたし、前世の年齢含めたらとっくにアラサー越してるもん。まあ、ネロたんも元々あんまり子供らしくない子だったけど。環境のせいと言えば環境のせい。元の資質のせいでもあると思うけどねー?
知能の高い子って、結構おませさんになる傾向があるのよ。前世の茜も含めて、ね。
「道理でミリーシャ嬢や他の方々が、あなたとネレイシア姫を放ってはおけない筈です」
ミリーシャ嬢ねぇ? そう言えば、シュアンは戦闘侍女とよく話していたわね。
「はぁ・・・全く、あなたはそんな小さい身体で気を張って、策謀を巡らせて周囲の人を守ってばかりでいて。一体、誰があなた自身を子供扱いして守ってくれるというのです?」
「? わたしは、守られていますよ? 護衛の人も付いていますし、アストレイヤ様の庇護も受けています。ご存知ないかもしれませんが、アストレイヤ様は案外わたしに甘いんですよ?」
そして、お子様扱いは結構されてると思うんだけどにゃー? だって、あんまり自由に動けないし? 大人が危険だと思ったことはさせてもらえないし? うん、十分お子様扱いされてるわ。
「あなたは、ご自身の護衛も、そして王妃殿下のことも、ライカ王子のことも、シエロ王子のことも守っているではありませんか。それも、全く子供らしくない手段で。今回の、ミレンナ様との対峙だって、彼らを守る為なのでしょう? あなたは、全く傷付いていないと笑っていますが……通常は、子供が母親にあのような酷いことを、それも面と向かって言われたらとても傷付くと思います」
「ああ、それはきっと、わたしが普通の子供より断然メンタルが強いからでしょうね☆」
オタクや腐女子って、割と強メンタルの人が多いと思うの!
「ご自分でそれを仰りますか……」
やれやれという表情。うん? シュアンがなにを言いたいのか、今一わからないわね?
「?」
「ネロ王子」
と、真剣な顔で立ち上がったシュアンがあたしの手を取って跪いた。
「わたしには物理的なあなたの剣となれる程の腕は無く、闘いではお役に立てませんが。これからは、わたしがあなたの盾となりましょう。あなたを助け、あなたの敵を排除します。わたしの忠誠をあなたへ。ネロ様」
「へ?」
右手へ、シュアンの額が押し付けられる。
「え? え~? あれ? シュアンさん? わたしのところに嫌気が差したら、シエロ兄上かライカ兄上のところに行く予定では? わたしに忠誠を誓ったら、他に行けませんよ?」
「ククッ、初めてあなたを驚かせられましたね? シュアンで結構です。さんは要りません」
ニヤリと、あたしを見上げる瞳。
「え~? えっと、保留で。ほら? シュアンさんにも将来があるでしょう?」
「嫌です」
「は? ちょっ、シュアンさん?」
「返品も保留も受け付けません。嫌なら、わたしを放り出せば宜しい」
「そんな……」
「お優しいネロ様は、クラウディオ殿下とは違ってわたしのことを見捨てはしないでしょう? わたしを拾った責任を果たしてください」
にっこりと、なんだかとっても勝ち誇った顔で忠誠の押し売り!
「・・・シュアンさんも」
「シュアンで結構です」
「シュアンさ」
「シュアンで結構です」
「・・・シュアンもまだ、ギリギリまだ未成年だから子供扱いされて然るべきだと思いますが?」
「わたしよりも十も年下で、尚且つ誰よりも率先して働いているネロ様がなにを言っているのですか。それに、わたしはそろそろ成人なので。わたしが成人すれば、ネロ様の憂いも無くなりますね?」
「クラウディオ殿下に忠誠を誓っていたのでは?」
「ご冗談を。あのようなクズに、わたしの忠誠は勿体ない。そう思いませんか?」
おおう、クラウディオをクズと言い切ったっ!?
「まあ、確かに。彼に……いえ、あの国にあなたが勿体ないのはその通りですね」
「それに、わたしのことを信用しているのでしょう? 仰りましたよね、ネロ様」
「・・・言いました、ね」
「はい。仰りました」
にこにこと笑うシュアンに・・・なんか押し負けたっ!!
そして、シュアンが正式にあたしの側近となった。というか、自分で側近の地位をあたしから捥ぎ取りやがったっ! ぐぬぬ……このあたしが、年下青少年に口論で負けるとはなんたる不覚っ!?
ミレンナのヒスを間近で見て、メンタルやられるどころか強く逞しくなっちゃったのかしら?
今回はちょっと負けちゃった感じだし、後でシュアンのネロたん専属という雇用契約を確り詰めることになったけど・・・そう簡単にあたしの腹心になれるとは思わないことね!
こうなったら、お菓子でも食べて気分転換しよう。
「シュアンも食べます? お好きな物をどうぞ」
小腹が空いたときの為にと、お菓子を大量に用意して来た。クッキー、ビスケット、パウンドケーキ、マフィン、クラッカー、ナッツ、パイ、タルト。プレーンにチョコ、ココア、ジャム入り、ドライフルーツ入りなどに加え、塩味やチーズ味、スパイス風味といったしょっぱい系の味もある。
昨日、「明日は帰りの馬車の中でお菓子がいっぱい食べたいのですが、ダメですか?」と、きゅるるんおめめで使用人達におねだりした甲斐あって、気合の入った山盛り沢山のお菓子の量ね♪
取り出して、まずはしょっぱい系をむぐむぐ頬張る。
「え? こんなに沢山……」
「沢山あるので、お裾分けしてあげます」
「え~っと、では……頂きます」
「はい、召し上がれ」
むぐむぐと食べる。むぐむぐとあれこれ口に入れていると・・・
「ネロ様? やけ食いだったりします?」
おそるおそるという風に声を掛けられた。
「んむ? ああ、いえ? 普通にお腹空いただけです」
「それにしては……よく召し上がっているようなので」
「ああ、わたし、結構食べる方なんですよ。ほら、チェスの名手や研究職の人が見掛けの割に大食いなのと、多分一緒です。食べないと頭働かないんで」
「そうですか」
「ええ」
と、途中の休憩時間にみんなにお菓子を勧めながら、ガタゴト馬車に揺られてお城へ帰り――――
47
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ウワサの重来者 どうか、心振るえる一生を。(中辛)
おいなり新九郎
ファンタジー
最新情報:幼いサヤを背負い少女は炎と化け物の中を潜り抜ける。一途にこの娘を地獄から逃がすために。
ーあらすじー
侍の家に生まれたユウジは16歳の少年。
家族がいろいろあって、家を継ぐことに。
ある日、特別な力を与えてくれるという「宝」を引ける催しに参加する。
そこで、彼が引いてしまったハズレとしか思えない「宝」とは?
宝のせいなのか、問答無用にふりかかる災難。
個性豊かな、お宝美少女達に振り回され、ユウジは冒険を続ける。
そこには思わぬこの世界の因縁と謎があった。
作者より
タイトルにある「重来者」はリターナーと読みます。
途中、主人公交代を検討しております。
お一人でも多くの方が楽しんでくだされば幸いです。
理不尽な世の中で、どうか心振るえるひと時を・・・。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

彼女は予想の斜め上を行く
ケポリ星人
ファンタジー
仕事人間な女性医師、結城 慶は自宅で患者のカルテを書いている途中、疲れて寝ってしまう。
彼女が次に目を覚ますと、そこは……
現代医学の申し子がいきなり剣と魔法の世界に!
ゲーム?ファンタジー?なにそれ美味しいの?な彼女は、果たして異世界で無事生き抜くことが出来るのか?!
「Oh……マホーデスカナルホドネ……」
〈筆者より、以下若干のネタバレ注意〉
魔法あり、ドラゴンあり、冒険あり、恋愛あり、妖精あり、頭脳戦あり、シリアスあり、コメディーあり、ほのぼのあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる