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っ!? ……ネロ王子は、卑怯です……
しおりを挟む「・・・ネロ王子、わたしを嵌めましたね? どこまでがあなたの計算ですか?」
苦々しいという顔であたしを見やるシュアン。
「計算というなら、クソ親父ことレーゲンとの離縁を取り付けるまでが予定でした。ミレンナとお友達になったのは、話している途中でミレンナが可愛く思えたので、そのオマケみたいなものです」
まあ、言うなればミレンナの可愛さとこのツンデレちゃんはどういう風に成長して行くかしら? という好奇心に負けた感じだ。完璧に侯爵家と縁を切って、外側からの調査で経過観察するよりも。か細くてもミレンナ本人と繋がって侯爵家の情報が探れないか……という打算と計算も三割くらいはあるけどね?
「けど、シュアンさんを嵌めた、とは心外ですね。なんのことでしょうか?」
「あなたのお父君である現国王陛下を引き摺り下ろすだなんて話、わたしは一切伺っておりませんが?」
あらあら、怒ってる?
「ふふっ、それは異なことを。あのクソ親父の治世を乱そうと画策していた人の言葉とは思えませんよ? どこぞの王太子共々、そちらはレーゲンの失脚がお望みだったのでは?」
「そ、れは……」
「まあ、シュアンさんは我が陣営に雇われている上、ご家族の亡命までアストレイヤ様が許可しましたからね。どの道、無関係ではいられませんよ。成り行きです」
「だからと言って、このような不意打ちは卑怯だと思いますが?」
じっとりと、恨めしげな視線。
「わたしは、シュアンさんに何度も確認したと思うのですが? 今日、『ここへ付いて来ますか?』と。そして、『途中で戻ってもいいですよ?』と。けれど、シュアンさんはわたしの側にいてくれた。なので、聞かれても構わないかと思いまして。信用していますよ? シュアンさん」
「っ!? ……ネロ王子は、卑怯です……」
言葉を詰まらせ、赤くなった顔を押さえて俯き、ぼそりと呟くシュアン。ほうほう、なかなかに可愛い照れ方ですな青少年!
にゅふふ、お姉ちゃん、美青少年のそういうお顔は大好物ですともっ!!
「こほん……ネロ王子は、あのような暴言を吐かれても、それでも母君をお許しになる、と?」
あら、誤魔化そうとしてるわね? まあ、もっと見ていたいけど。その可愛さに免じて誤魔化されてあげましょう。
「まあ、ああいう暴言は、アストレイヤ様の養子になる前は日常茶飯事でしたし。言われ慣れていますから。今更、あの程度で傷付きませんよ。というか、今日は周囲に投げられるような物が無かったので、陶器やガラスと言った壊れ物の破片も、熱湯も飛んで来なかったですから。いつもに比べれば、大分平和でしたよ?」
「以前は、あれ以上の惨事がネロ王子の日常だった、と?」
「ええ。加えて、使用人達の怪我。その事後処理もね? なので、彼女と話し合いをしたのは今日が初めてです。いつもは、一方的に散々泣き叫んで、喚いて、暴れて。全くお話になりませんでしたからね」
「・・・そう、ですか」
「ふふっ、シュアンさんの方が悲壮な顔をしないでくださいよ」
「あなたは、なぜそんな風に笑っていられるのですか?」
俯いていた視線が、じっとあたしを見据える。
「そうですねぇ……先程も言ったように、ミレンナのことを可愛いと思ってしまったから、でしょうか? ほら、好感度なんて最初っから無い。むしろマイナスでしたから、後はもう上がるしかないんですよね。恨む程に、憎む程には、わたしは彼女への情が無かった。彼女は、ただわたしを産んだだけの他人。他人がわたしのことを育児放棄しようが、わたし自身には世話をしてくれる人達がいたから……お城で、衣食住に不足することなく健康に生きて来れた。まあ、彼女のヒステリーには辟易していましたし、彼女が使用人達を傷付けることは、心底厭でしたが」
ま、言ってることは割と酷いと自覚はある。だって、生みの親を赤の他人のように……興味が欠片も無かった。暴れてヒス起こすのが面倒で、誰かを傷付けることが酷く厭だった。だから、傷付けられた彼らへ償いをした。わたしとしては、当然の行いだった。
「彼女はわたし達の母親をすることに拒絶を示し、わたし達は彼女に『母親』を求めなかった。わたし達に、彼女の存在は全く必要無かった。なので、肉親として赦すとか以前の問題ですね。だって、わたし達は彼女に期待すらしていなかったのですから」
なんせ、初乳さえ与えられていないという話だ。もしかしたら、それがネリーが亡くなった原因かもしれない。母親が赤ちゃんに与える最初の母乳には、赤ちゃんの弱い免疫を強化してくれる効果があるから。それを与えられなかったネリーは、身体があまり強くなかったのかもしれない。
そんな風に、頭に過ぎったことがある。口には出さなかったし、それはもう本当にどうしようも無いことで・・・だから、わたし達とミレンナは母子じゃない。
それだけの関係。それ以上の関係を、彼女とは築けなかった。
「ネロ王子と、ネレイシア姫は……つらくはなかったですか?」
「いいえ?」
ネロたんとしては、ミレンナが泣き喚いて暴れようが、どうでもよかった。五月蠅くて煩わしい女性という認識。使用人達を傷付けることが許せなかったというだけ。
親子としての関係は、レーゲンがミレンナを顧みなかったことから始まらなかった。ネロたんとミレンナ、そしてレーゲンは『家族』ではない。
つまりは、そういうこと。
「『家族』にも、『親子』にもなれなくて。『親族』としても望まれない。けれど、別の関係でも縁を持ちたいとどちらかが思ったのなら、別の関係が必要でしょう?」
「ネロ王子は、母君……いえ、ミレンナ様と別の関係を築きたいと思った、と?」
「まあ、さっきも言いましたが。ミレンナが可愛いと思ったので。なんて言ったらいいでしょうか? 泣き喚いて暴れている姿はいただけないのですが。その後は……」
「その後は?」
「高貴な家猫が、精一杯ツンとして。けれど飼い主の関心を惹こうとしているような感じで可愛かったでしょう? ちょっとイジワルを言うと、しゅんとしているのに、それを悟られまいと虚勢を張っている姿とかもうっ……しゅんとしているのも、わたしに好かれたい、嫌われたくない! って思っているのがバレバレで可愛いじゃないですか♪」
「・・・ネロ王子は、女性の趣味がお悪いですね」
「あ、いえ。あの人を女性として好ましいだとかは全く、これっぽちも、一切思っていません。にゃんこがシャーシャー言いながらも構ってほしそうな感じが可愛かっただけです。ああいう人は、ちょっと遠くから眺めて、偶に構ってあげるくらいがいい距離感だと思います」
「実の母親を猫扱いですか……それはそれでどうかと思いますが?」
と、なぜか引かれた。解せぬ。
「それにしても・・・」
――――――――――――
蒼「ハッ! なんかこう、誰かがなんらかの被害に遭ってそうな気配がっ!?」( ̄□ ̄;)!!
「いや、俺の気のせいか……?」(´・ω・`)?
「でもねーちゃんって、本人無自覚だけど。実は、なにげに天然Sだからなぁ……」( ̄~ ̄;)
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