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彼女は親としては失格。母親としては最低。だけど、同じ女としては(今のあたしは美ショタなネロたんだけどねっ☆)同情に値する。
しおりを挟む「ぁ、うあぁぁーーっ!?」
啜り泣きが、本格的な号泣へ変わった。
「ねえ、ミレンナ。あなたが苦しいのは、その執着心のせいです。ねえ、レーゲンの所業は、本当に酷いものです。ですが、そんな男に縋り付いて、今まで離れようとしなかったあなたのせいでもあるんですよ? あなたのことを、大切に想う人が言ってはくれませんでしたか? 『レーゲンに嫁ぐのはやめなさい。幸せになれませんよ』って」
「ぅぐっ……お、母さ、まが……」
しゃくり上げながらの答え。
「そうですか。その忠告を無視して、あなたは幸せになれましたか? なれていないでしょう? 幸せになっていたら、こんなところに閉じ籠められていませんものね? ミレンナ。あなたを、あなただけを本当に大事にしてくれる人に嫁いでいたら、今頃は……お産のときには心配してくれる優しい旦那様が隣にいて、子供の誕生を心から喜んでくれて。ラブラブで、もしかしたら子供も二、三人程いて。穏やかに、毎日笑って過ごせていたかもしれませんよ?」
ひっくひっくと、止まらない泣き声。でも多分、あたしの言葉は届いている。
彼女は親としては失格。母親としては最低。だけど、同じ女としては(今のあたしは美ショタなネロたんだけどねっ☆)同情に値する。レーゲンの仕打ちは、それくらい酷過ぎる。
「ねえ、ミレンナ。もう、顔以外に取り柄の無いクソ野郎のレーゲンに執着するのはやめませんか?」
「っ……」
「あなたが、そんな苦しい思いまでして縋る価値が、あのクソ野郎にあるとは全く思いません。あなたは、気性は烈しいですが、美しい人です」
言動は兎も角、顔だけは良い。十二分に鑑賞に耐え得る顔をしている。
「苦しいから、悔しいから、つらいから、あなたが攻撃的になるのでしょう? もう、やめませんか? 苦しくて、誰かに八つ当たりして、酷く嫌われて、嫌な思いばかりして、酷く疲れることを。レーゲンに振り回されることを。レーゲンとの縁を断ち切って、穏やかな気持ちで過ごしませんか?」
更に言い募ると、
「わ、わたくし、が……離縁、したら……お、お前は、どうなるの? ね、ろ……」
涙に濡れた紫紺の瞳が、ゆるゆるとあたしを見詰める。
「大丈夫ですよ。わたし達のことはなにも心配要りません。わたしとネリーはアストレイヤ様の、正妃様の養子になっていますからね。見るのもつらいわたし達のことを気に掛けてくださって、ありがとうございます」
「っ……ごめん、なさい……ネロ……」
「では、ミレンナはレーゲンと離縁する決意ができたということですか?」
悲しそうな顔で、クソアマ……ミレンナは頷いた。
「わかりました。なら、気が変わらないうちに離縁の申請書を書いてしまいましょう!」
「ぇ?」
「クソ親父宛に、『離縁を願うので実家へ帰ります』と早速お手紙を書いちゃいましょう!」
「は? ネロ?」
目をまるくするミレンナへ、
「さあさあ! 気が変わらないうちに! 思い立ったら今すぐ! 即座に! とっとと縁切りです!」
懐からレターセットとペンを取り出し、鉄格子の向こうへ差し出す。
「え? あの?」
「大丈夫です! あなたは性格も頭も悪くて、未練たらたらで非常にしつこくて、他人への八つ当たりが酷いヒステリーな馬鹿女ですが、それだけの欠点を抱えていても、顔だけは未だに美しいですから!」
「お前、わたくしに喧嘩を売ってるの?」
ヒクリと、ミレンナの顔が引き攣る。
「あら? 気付きませんでした? ここへは、わざわざ喧嘩を売りに来ましたが? 思ったより随分鈍いですわね? さすが、今の今までクソ野郎を愛していると思い込んでいただけのことはありますね? 鈍くて当然かしら?」
「お前、随分なことを言うようになったわね」
「ふふっ、そうですね。でもわたし、会話ができない相手と話すことはありませんよ? 以前はずっとあなたの言葉を無視していたでしょう? 今のあなた……ミレンナとなら、ちょっとだけ話せそうですね? 漸く、貴族令嬢としての自覚を思い出しましたか? 随分とお遅いことで」
「いつの間に、こんな生意気になったのかしら?」
「あなたに育てられていない間に、でしょうか?」
「っ! 言うじゃない……」
「言ったでしょう? わたしは、会話のできない馬鹿とは話をしないんです」
「はぁ……もういいわ。それで? わたくしが実家に戻っても、あなたは一人でもやって行けるのね?」
「ええ。無論です。あなたの実家の援助も、人脈も、なに一つ、一切、わたし達には必要ありません。ああ、いえ。今現在、わたし達へ忠誠を誓っている人を除いて、ですが。もうあなたやその実家に仕える気は無いそうなので、わたしが貰い受けます」
「好きになさい。それにしてもお前、随分と自信過剰じゃないかしら?」
「ふふっ、わたしが、誰の養子になったと思っているのですか?」
「……そうだったわね。アストレイヤ……様に、庇護されたんだったわね」
「ええ。なので、あなたの実家の手出しは無用です」
「わかったわ。貸しなさい」
と、差し出したままだったレターセットとペンを手に取り、深呼吸したミレンナはサラサラと手紙を書き上げた。
「書いたわよ」
「ありがとうございます。なんて書いたんですか?」
「『愛想が尽きたので、とっとと離縁しろクソ野郎が!』って書いてやったわ」
「あら、随分と思い切った手紙ですね?」
「お前のせいで……あんなクズにしがみ付いてるのが馬鹿馬鹿しくなったのよ」
自棄になったような、捨て鉢な笑み。
「それはまた、かなりの進歩ですね。では、そのクソ野郎にその手紙を届けましょう」
「……ええ、お願い、するわ」
小さく震えた声で、けれどキッパリと告げたミレンナから手紙を受け取る。
「承りました」
「……悪かったわね、ネロ」
「あなたのことは心底、救いようがない愚か者で……割と嫌いです」
「・・・」
「ですが、これ以上傷付いて、不幸にならなくてよかった、とも思います」
「……そう」
「ええ。一応、仮にも生みの親ですからね。長い期間、屈辱は十分過ぎる程に味わったでしょう? 自業自得ではありますが」
「わたくしを、馬鹿だと思う?」
「はい。大馬鹿だと思っています。が、これ以上不幸になれとは思いません。まあ、憎む程にはあなたに関心を持っていないとも言えますが」
「口の減らない、本当に嫌な子ね。お前がそんな性格だったなんて知らなかったわ」
「あなたとは、全くお話にならなかったので。レーゲンと離縁したらもう、他人になります。ご実家共々、二度と縁戚面はしないでください。そして、実家に帰っても、クソ親父には手を貸さないでくださいね?」
「離縁した相手に手を貸すワケないでしょう」
ふん、と嫌そうに鼻を鳴らすミレンナ。
「それはよかったです。十年以内に、レーゲンを国王の座から引き摺り下ろす予定ですので」
「正気?」
「今まで夢の中にいたあなたには、言われたくないですよ? ぶっちゃけ、仕事をしない上、余計なことばかりする国王など不要で迷惑なだけです。クーデターが起こるより先に、さっさと王位交代した方が無駄に血が流れずに済みますからね。一番の味方だったあなたの実家がレーゲンと手を切るのは、こちらにも都合がいいので。あなたがこれまでにされたことを、全てお母様、お父様に告げて味方になってもらいなさい。婚約期間からずっと蔑ろにされ、妊娠中も、出産して後も、労いの言葉一つ無く、子供の誕生を祝われたことすらない。子供の名前も、自分一人で決め、国王は乳母すら寄越さなかった。子供の教育にも一切無関心だった。そんな男の子供達は愛せなかったので置いて来た、と」
「・・・わたくしに、お父様とお母様にまで憐れまれろと言うの?」
――――――――――――
ネロ(茜)「あなたは性格も頭も悪くて、未練たらたらで非常にしつこくて、他人への八つ当たりが酷いヒステリーな馬鹿女ですが、それだけの欠点を抱えていても、顔だけは未だに美しいですから!」(*^▽^*)
ミレンナ(母)「お前、わたくしに喧嘩を売ってるの?」( º言º)
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