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わたくし、思うのですけど……鉄格子の向こうでキーキー喚いているお姿って、なんだかおサルさんみたいですわね?
しおりを挟む交通が不便な王都郊外のとある場所。
クソアマの療養地……基、幽閉先の直前で見た目は地味で、けど乗り心地は良い馬車から豪華絢爛な馬車へ乗り換える。
そして、ゆったりと優雅に見えるように、勿体振って、王族所有にしては小さめな屋敷へと到着。
「いざ、出陣!」
気合を入れて声を出すと、
「療養されているお母君のお見舞いなのでしょう? 少々大袈裟ではありませんか? ネロ王子」
若干呆れたような顔でシュアンが言う。
「ノンノン、今のわたくしはネレイシアですよ?」
「失礼致しました、ネレイシア姫。で、宜しいでしょうか?」
「ええ。ですが、そうですね。大袈裟かどうかは、中に入れば判ることです。無理そうでしたら、先に馬車へ戻ってもいいですからね?」
「……仮にも王族に嫁いだ女性で、王子と姫のお母君でしょう?」
「ふっ、母が話の通じる相手なら、こんなところに幽閉なんてされていませんわ? シュアンお兄様」
きゅるんとした顔で見上げると、
「シュアンで結構です。お戯れは程々に、ネレイシア姫様?」
あら、嫌そうなお顔だこと。ま、いいけど。
「それじゃあ、行きましょうか」
あたしの声で馬車の扉が開かれ……
「ネレイシア姫様、お手をどうぞ」
と、キリリとした声と共に差し出されたのは手袋をはめたほっそりとした手。
にゃるにゃる。今日の護衛は女性騎士さん達ですか。
ま、屈強な男の人連れて来ても、いざとなったらクソアマぶん殴ってでも止められなきゃ意味無いものねー? そういう意味じゃ、女性騎士というのはいい選択だと思うわ。
「ありがとうございます。ふふっ、あなたは騎士服も似合うのですね。凛々しくて素敵ですわ」
手を取って笑い掛けると、
「……お気付きで?」
一瞬の驚いた顔。
「ええ。身の回りにいる方のお顔は、ある程度把握しておりますわ」
ま、見えるところに絶対出て来ない人や、出て来ても名前を教えてもらってない人なんかもいるし、見る度にお化粧や髪色が違ったり、名前を変えたりする人もいるけどね。
この女性騎士さんは……いつもと服装とお化粧に加えて立ち居振る舞いも変えているけど、アストレイヤ様のとこから新しく側妃宮に入って来た侍女さんだ。ってことは、この人も戦闘侍女ということね!
うちの戦闘侍女よりも、擬態が得意そうだ。あと、冷静そう。こういう冷静さは見習ってほしいところよねー? あの子、血の気多過ぎだし。やたら噛み付こうとするのは、さすがにやめてほしいわー。
そんなことを思いながら、屋敷の中へ。
案内された部屋のドアを開けると――――
まず目に入ったのは鉄格子。
その向こうに不機嫌そうな顔をしたクソアマがいた。
まあ、顔は綺麗なのよねー? なんて言うの? ネリーちゃんが生きていたら、将来はこうなっていただろうなぁ? って、思わせるような美貌。長い黒髪に紫紺の瞳、白い肌。スッキリと細身で、けれどお胸は大きくて。どこか危うい妖艶さが漂う美女。但し、クソアマは神経質そうで、傲慢そうで、性格の悪さが滲み出てる感じだけど。
おっし、それじゃあ先制攻撃。まずは軽いジャブから。
「お久し振りです。お元気でしたでしょうか、お母様?」
にっこりと笑顔で、ドレスの裾を摘んでカーテシー。
あたし、気付いたの。令嬢やお姫様が優雅に見える為に必要不可欠なもの。それはズバリ、足腰の筋肉に加え、背筋と腹筋! そして、優雅に見える姿勢を維持する気合とド根性!
カーテシーの、若干空気椅子っぽい姿勢には筋肉が要るっ!! この姿勢を長時間するのは、結構キツい。だというのに、笑顔を崩してはいけないの! これこそ気合とド根性よ! お嬢様やお姫様って、存外スパルタ教育だったと実感したことの一つよねー・・・
「……お前は……なにをしているのっ、ネロっ!?」
おお、早速ヒスを起こしたか。
「な、んでっ、なんでお前がそんな格好をしてるのっ!? それは、レーゲン様の瞳の色の、わたくしのドレスじゃないっ!! そのアクセサリーもっ、レーゲン様の髪色と瞳の色の組み合わせじゃないのっ!! それはお前なんかが身に着けていいものじゃないのよっ!! 今すぐ脱ぎなさいっ!!」
はっはっは、今日のドレスアップは全て、クソアマのお気に入りを模倣したコーデとなっている。クソ親父ことレーゲンの瞳の色のドレス。金髪碧眼な奴の色を彷彿とさせる、クソアマが持っていたアクセサリーと似た物。
それを、女装した息子が着て満面の笑みでやって来たんだから、そりゃ神経逆撫でされたことだろう。まあ、これはよく似た物であって、お前の物じゃないけどな?
ふっ、さっすがお城に勤めているお針子さん達。技術が高いわ。昨日の今日という無茶振りでここまで(かなり本物に近い模造品レベルの仕上がりまでは求めてないけど)仕上げてくれるだなんて、後で確りボーナスを進呈しなきゃね♪
顔合わせて早々自分の娘……ああいや、女装の男の娘だったわね! に服脱げと言うクソアマのキーキー喚く声に、お付きのみんなは既に怯んだ表情をしている。あらあら、この程度でドン引きするなんて、まだ早いことよ?
動揺しているシュアンとチラリと目が合うと、早速バレているようですが? と言いたげな顔された。
ま、それは当然。だって、ネリーちゃんは既に亡くなってて、それを隠蔽してネロたんに女装させたのがこの人だもん。ネリーちゃん=ネロたんの女装姿よ♪
「ふふっ、お母様に久し振りに会えるのですもの。精一杯おめかしして来たのですが……お母様は、わたくしのこの格好がお気に召さないご様子ですね」
と、悲しげな表情を作ってクソアマを見詰める。
「っ!! 巫山戯ないでちゃんと答えなさいっ、ネロっ!!」
「お母様。わたくし、思うのですけど……鉄格子の向こうでキーキー喚いているお姿って、なんだかおサルさんみたいですわね?」
「っっ!?!?」
――――――――――――
ネロ(茜)「なんだかおサルさんみたいですわね?」( ◜◡◝ )
ミレンナ(母)「っっ!?!?」(ꐦ°д°)!?!?
シュアン「こ、これが女性同士の修羅場というやつですかっ!? 恐ろしい……」( º言º; )"
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