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そう簡単に、あたしの可愛い(女装した)ネリーちゃんに会えるとは思わないことね!
しおりを挟むアストレイヤ様との内緒話を終えて離宮に戻ると、
「正妃様のご用はなんだったのでしょうか?」
と聞かれたので、宣言する。
「明日は、母のお見舞いに行くので準備をお願いします」
ピシリ、と元々離宮で働いていた使用人達が凍り付く。まあ、あの女マジでヤバい系だったから、普通にトラウマ持っててもおかしくないわよねー。
なんかびっくりさせちゃってごめんねー?
「ネロ王子、母君のお見舞いとは?」
固まっている使用人達へ怪訝そうな顔をし、あたしを見下ろすシュアン。
「ああ、母は病気療養……という名目の、幽閉中ですので」
「幽閉とはまた、穏やかではありませんね。お母君は一体、なにをしたのです?」
「そうですねぇ……実はわたしとネリーは、つい数ヶ月前まで王族としての教育を一切受けていませんでしたので。強いて言うなら、わたし達の教育を怠ったから、でしょうか?」
ま、ネリーちゃんの死亡を誤魔化し続けていたから、とは言えないし。
「……それは、本当なのでしょうか? ネロ王子は、そんなに優秀でいらっしゃるのに? 教育を、受けていなかった、と?」
おお、なんだか疑わしいという視線。
「ええ。読み書き計算と最低限のマナーなどは、使用人に基礎を教わって……後は、そうですね。城の書庫に入り浸って興味の赴くままに本を読み漁りました。なので、わたし達の知識は大分偏っていると思いますよ」
「ネロ王子が優秀過ぎて、教育を受けていないということが最近まで露呈しなかった、ということでしょうか?」
「どうでしょう? どこぞの国がちょっかいを掛けて、アストレイヤ様に余裕が無かったから。わたしとネリーが自分で言い出すまで、気付かれなかったのかもしれませんね」
「・・・言いますね」
「ふふっ、それで、シュアンさんはどうします?」
「はい? なにがでしょうか?」
「明日は、警備上の関係で母に仕えていた使用人は連れて行けないんです。シュアンさんは、母とは面識がありませんから。付いて来てもいいですよ?」
「そんなっ!? わたくしを連れて行ってはいけないのですかっ!?」
と、ショックを受けたように大声を出すのは戦闘侍女。
「警備上の問題ですからねぇ……というかぶっちゃけ、母に寝返られては困るというアストレイヤ様のご判断でしょう」
「わ、わたくし達の忠誠はネロ様とネレイシア様にありますっ!? 絶対に裏切ったりなど致しませんっ!!」
「ありがとうございます。でも、疑わしい行動は慎むべきですからね。明日は、母に仕えていた皆さんはお留守番です」
「ウェイバー様! お願いですっ、ネロ様に付いて行ってくださいっ!!」
「え? わたし、ですか?」
「はい! 例え、ひょろっひょろで明確に弱っちそうなウェイバー様でも、咄嗟にネロ様が盾にすることくらいはできると思うので! 数秒でも、ネロ様が逃げる時間稼ぎができればいいのです!」
「・・・」
あら、あんまりな言い様にシュアンがスンとした無表情になっちゃった。
「ふふっ、大丈夫ですよ。明日は、アストレイヤ様が精鋭部隊を用意してくださるそうですから。シュアンさんを盾にするような事態になる前に鎮圧してくれることでしょう。では、明日の準備をしてください。母のお気に入りのドレスがあったでしょう? それと似たドレス、アクセサリーを用意してください。明日は気合を入れて、ドレスアップします」
「明日は、妹君とご一緒に行かれるのですか?」
「いえ。明日は、わたしがネリーの格好をして母のお見舞いに行きますよ?」
「え? ……また、女装ですか」
なんだか嫌そうな表情が見下ろす。
「ええ。言ったことはなかったでしょうか? 母は大変気性が荒く、気に食わないことがあると直ぐに使用人に当たり、よく怪我人を出していたような人ですので」
「そのような話は、少々聞かせて頂きましたが……」
「そんな危険な場所に、可愛いネリーを連れて行くワケないじゃないですか。わたし一人で十分です」
ま、そもそもネリーちゃんもあたしだし? そう簡単に、あたしの可愛い(女装した)ネリーちゃんに会えるとは思わないことね! まあ、ネロたんの女装バージョンなキャラ(侍女見習いのリーちゃん)では既に会ってるけど。
「ネロ王子はもしかして、シスコンなのでしょうか?」
「ふふっ、そうかもしれませんね。ああ、そうです。シュアンさんは、修羅場は得意ですか?」
「明日は修羅場になる、と?」
「ええ。美女の鬼気迫る表情での聞くに堪えない罵声が喚き散らされるでしょうから」
「仮にも王族に嫁いだ女性が、そのような見苦しいことをするのですか?」
「するでしょうね。それで、修羅場に耐性はありますか?」
「・・・男同士の愁嘆場なら、少々巻き込まれたことがありますね」
ぽつりと、死んだ魚のような瞳での呟き。
「っ!?」
なにそれっ!? めっちゃ聞きたいっ!!
「あっ、そのっ、今のは失言でした。えっと、修羅場は以前に何度か出会したことがありますので」
あたしの驚いた表情を誤解したのか、慌てるシュアン。
「えー? 興味深いので後学の為にお聞きしたいですね」
「いえ、ネロ王子にお聞かせする程でもないお話です。今のは忘れてください」
チッ、そういう話を聞かせられないお子様だと判断されたか。あ~あ、腐女子にとっては大好物なのにぃ……残念っ!!
「そうですか。では、トラウマを抱えない程度にがんばってください」
「……覚悟します」
と、翌日は朝早くから気合を入れてドレスアップし――――
見た目は地味馬な車でガタゴトやって来ました。
王都郊外にある、クソアマを幽閉している療養地に!
♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘
ネロ(茜)「くぅ~っ!! 男同士の愁嘆場なんて腐女子の大好物を聞き逃すだなんてっ、至極残念だわっ!!」((ヾ(≧皿≦メ)ノ))
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