96 / 158
今日は休めっつってんだろ。子供のクセに働き過ぎだ。帰って来た日くらい大人しく寝てろ。
しおりを挟む「そっちに話が戻るのか……」
そうやって少しの間わちゃわちゃと話をして、解散することとなった。
「ああ、シエロ兄上と離れ離れになるなんて寂しいです……」
「はあ? 視察行く前は普通に離れた離宮で過ごしてただろうが」
「それはそうなんですけどねー? シエロ兄上がお腹を出して風邪をひかないか、とか。わたしと離れて寂しい思いをしないかな? とか」
「あ、それは無い」
「え~? シエロ兄上のいけず~」
「ああもう、うっとーしいわ。とっとと離宮帰れ。どうせまた、視察行くんだろ。それまで確り休んどけ」
「ちぇー……仕方ないですね。では、また後で」
「はいはい、それじゃあな。今日はちゃんと飯食って休めよ。おい、ネロの執事」
と、蒼が顔を上げて執事さんを呼んだ。
「ハッ、なんでしょうか? シエロ様」
「今日はもうネロに仕事はさせるな」
「え~? まだやることあるのにー」
不満げに言えば、むにゅっと両頬を挟まれてタコさん顔にされた。
「ぎゅむっ!」
「今日は休めっつってんだろ。子供のクセに働き過ぎだ。帰って来た日くらい大人しく寝てろ。そうじゃなきゃ、お菓子貪って本でも読むか遊んで過ごせ。根詰め過ぎると身体壊すぞ」
じっと真剣な水色の視線。どうやら、あたしのことを心配しているらしい。まあ、確かにネロたんの身体自体はまだお子様。無理し過ぎはよくないか。
「ぅにゅ~……ひょーがにゃいれふねー」
「よし、じゃあまたな」
にかっと笑った蒼があたしのほっぺたをもちもちして両手を離した。
「はーい。ライカ兄上も、また後で会いましょうね」
「あ、うん。えっと、後でお菓子の差し入れ持って行かせるね?」
「わ~、ありがとうございます♪」
と、解散して久々の離宮へ帰ると――――
なんか、パーティーでもするのかというくらい盛大に飾り付けされていた。
「「「お帰りなさいませ、ネロ様っ!!」」」
との掛け声でくす玉が割られ、『祝! ネロ様のご帰還』『ネロ様凱旋パーティー』とかの垂れ幕下りて来た。どうやら、本当にパーティーのようだ。
「ただいま帰りました。わたしの留守中、離宮を守ってくださったことに感謝します」
うん。なんかこう、既に号泣してる人……確か、数日前に「休暇中です!」とかイイ笑顔で細々としたお手伝いしてるのを見た覚えがある、にちょいびっくりしたけど。そう思えば、十日以上会っていない人っていないかもしれないわね。
「では、皆さん大体揃っているようなので、紹介しますね。こちら、新しくわたしの側近候補に加わったシュアン・ウェイバーさんです。元は隣国のクラウディオ王太子殿下に仕えていた方ですが、手酷い裏切りに遭い、我が国へ置き去りにされているところを拾いました。彼のご家族共々亡命する予定なので、仲良くしてくださいね? 虐めちゃ駄目ですよ?」
と、ついでにシュアンを紹介しておく。みんなの前で虐めるなと言っておけば、判り易く嫌がらせをするような輩はいないだろう。まあ……判り難く嫌がらせをされる可能性はあるけどね?
「っ!? ……ただいま、ネロ王子殿下にご紹介に与りましたシュアン・ウェイバーと申します。新参者ですが、ご指導の程宜しくお願い致します」
「ちなみに、シュアンさんはこう見えても十七歳の未成年なので。無理矢理お酒を飲ませて潰したり、ハニートラップを仕掛けちゃ駄目ですからね」
「は、ハニートラップっ!?」
「そして、シュアンさんは文官なので怪しい薬を盛るのは禁止。腕力での物理的な喧嘩を吹っ掛けるのも禁止です。なんだったら弱そうなので、緊急事態のときには守ってあげてくださいね?」
「ネロ王子? なにやらかなり物騒な話が出ているのですが?」
引き攣った顔が見下ろす。
「まあ、ここは王宮ですからね。気を付けるに越したことはありません。なにも起こらなければ、全て杞憂で済みますし」
なにせこの離宮、ちょっと前まで割と血塗られそうな離宮だったし。ネロたんが頑張って、あのクソアマの横暴を必死に食い止めていたお陰で、ギリギリ死人が出てないって感じだし。
「・・・そうでしたね」
「ええ。一応、わたし達双子は国王に疎まれている……というか、存在自体を完全無視されている王子王女ですからねぇ」
王族としては、国王の庇護や優遇が一切無いと言える。更に言うと、現在は母方の実家(後ろ楯)とは手を切って、アストレイヤ様の養子にもなっている。
立場としては、側妃の子から正妃の養子にクラスアップ……かもしれない。正式にアストレイヤ様の庇護下に置かれたとも言う。
具体的には、アストレイヤ様派閥からは、レーゲンの独断専横で取り決めたシエロたんの第二王子という立場より、ネロたんの方が第一王子であるライカの正式なスペアと見倣されるようになった、という感じかしら?
ネロたん、ネリーちゃん共に以前よりは立場が向上した。とは言え、政治的にはかなりごたごたしてる真っ最中。
そういうとき程、暗殺やら事故などの仕掛けどきと言ったところだろう。ま、ネロリン信者やアストレイヤ様の部下達が優秀過ぎて、そういう輩を見たことは無いんだけどねー?
「そこまで酷かったのですか?」
「ふふっ、うちが嫌になったらシエロ兄上のところへ行ってもいいですよ?」
「考えておきます」
「では、これから宜しくお願いしますね?」
「わたしの家族も引き受けると約束してくださったネロ王子には感謝しておりますので。わたしのでき得る限りは、尽くさせて頂きます」
と、シュアンの歓迎会っぽい感じのパーティーになった。
みんなシュアンに興味津々なのか、一人ずつ声を掛けている。
やー、早速仲良くなってそうでよかったよかった。
そんな風にご馳走を食べていたときだった。
「ネロ様、アストレイヤ様がお呼びです」
執事さんにそっと声を掛けられた。
アストレイヤ様にお呼ばれですか・・・
「わかりました。では、今から向かいます」
❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅
11
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された
杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。
責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。
なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。
ホントかね?
公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。
だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。
ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。
だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。
しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。
うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。
それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!?
◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。
ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。
◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。
9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆)
◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。
◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。


よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!


過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる