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今日は休めっつってんだろ。子供のクセに働き過ぎだ。帰って来た日くらい大人しく寝てろ。
しおりを挟む「そっちに話が戻るのか……」
そうやって少しの間わちゃわちゃと話をして、解散することとなった。
「ああ、シエロ兄上と離れ離れになるなんて寂しいです……」
「はあ? 視察行く前は普通に離れた離宮で過ごしてただろうが」
「それはそうなんですけどねー? シエロ兄上がお腹を出して風邪をひかないか、とか。わたしと離れて寂しい思いをしないかな? とか」
「あ、それは無い」
「え~? シエロ兄上のいけず~」
「ああもう、うっとーしいわ。とっとと離宮帰れ。どうせまた、視察行くんだろ。それまで確り休んどけ」
「ちぇー……仕方ないですね。では、また後で」
「はいはい、それじゃあな。今日はちゃんと飯食って休めよ。おい、ネロの執事」
と、蒼が顔を上げて執事さんを呼んだ。
「ハッ、なんでしょうか? シエロ様」
「今日はもうネロに仕事はさせるな」
「え~? まだやることあるのにー」
不満げに言えば、むにゅっと両頬を挟まれてタコさん顔にされた。
「ぎゅむっ!」
「今日は休めっつってんだろ。子供のクセに働き過ぎだ。帰って来た日くらい大人しく寝てろ。そうじゃなきゃ、お菓子貪って本でも読むか遊んで過ごせ。根詰め過ぎると身体壊すぞ」
じっと真剣な水色の視線。どうやら、あたしのことを心配しているらしい。まあ、確かにネロたんの身体自体はまだお子様。無理し過ぎはよくないか。
「ぅにゅ~……ひょーがにゃいれふねー」
「よし、じゃあまたな」
にかっと笑った蒼があたしのほっぺたをもちもちして両手を離した。
「はーい。ライカ兄上も、また後で会いましょうね」
「あ、うん。えっと、後でお菓子の差し入れ持って行かせるね?」
「わ~、ありがとうございます♪」
と、解散して久々の離宮へ帰ると――――
なんか、パーティーでもするのかというくらい盛大に飾り付けされていた。
「「「お帰りなさいませ、ネロ様っ!!」」」
との掛け声でくす玉が割られ、『祝! ネロ様のご帰還』『ネロ様凱旋パーティー』とかの垂れ幕下りて来た。どうやら、本当にパーティーのようだ。
「ただいま帰りました。わたしの留守中、離宮を守ってくださったことに感謝します」
うん。なんかこう、既に号泣してる人……確か、数日前に「休暇中です!」とかイイ笑顔で細々としたお手伝いしてるのを見た覚えがある、にちょいびっくりしたけど。そう思えば、十日以上会っていない人っていないかもしれないわね。
「では、皆さん大体揃っているようなので、紹介しますね。こちら、新しくわたしの側近候補に加わったシュアン・ウェイバーさんです。元は隣国のクラウディオ王太子殿下に仕えていた方ですが、手酷い裏切りに遭い、我が国へ置き去りにされているところを拾いました。彼のご家族共々亡命する予定なので、仲良くしてくださいね? 虐めちゃ駄目ですよ?」
と、ついでにシュアンを紹介しておく。みんなの前で虐めるなと言っておけば、判り易く嫌がらせをするような輩はいないだろう。まあ……判り難く嫌がらせをされる可能性はあるけどね?
「っ!? ……ただいま、ネロ王子殿下にご紹介に与りましたシュアン・ウェイバーと申します。新参者ですが、ご指導の程宜しくお願い致します」
「ちなみに、シュアンさんはこう見えても十七歳の未成年なので。無理矢理お酒を飲ませて潰したり、ハニートラップを仕掛けちゃ駄目ですからね」
「は、ハニートラップっ!?」
「そして、シュアンさんは文官なので怪しい薬を盛るのは禁止。腕力での物理的な喧嘩を吹っ掛けるのも禁止です。なんだったら弱そうなので、緊急事態のときには守ってあげてくださいね?」
「ネロ王子? なにやらかなり物騒な話が出ているのですが?」
引き攣った顔が見下ろす。
「まあ、ここは王宮ですからね。気を付けるに越したことはありません。なにも起こらなければ、全て杞憂で済みますし」
なにせこの離宮、ちょっと前まで割と血塗られそうな離宮だったし。ネロたんが頑張って、あのクソアマの横暴を必死に食い止めていたお陰で、ギリギリ死人が出てないって感じだし。
「・・・そうでしたね」
「ええ。一応、わたし達双子は国王に疎まれている……というか、存在自体を完全無視されている王子王女ですからねぇ」
王族としては、国王の庇護や優遇が一切無いと言える。更に言うと、現在は母方の実家(後ろ楯)とは手を切って、アストレイヤ様の養子にもなっている。
立場としては、側妃の子から正妃の養子にクラスアップ……かもしれない。正式にアストレイヤ様の庇護下に置かれたとも言う。
具体的には、アストレイヤ様派閥からは、レーゲンの独断専横で取り決めたシエロたんの第二王子という立場より、ネロたんの方が第一王子であるライカの正式なスペアと見倣されるようになった、という感じかしら?
ネロたん、ネリーちゃん共に以前よりは立場が向上した。とは言え、政治的にはかなりごたごたしてる真っ最中。
そういうとき程、暗殺やら事故などの仕掛けどきと言ったところだろう。ま、ネロリン信者やアストレイヤ様の部下達が優秀過ぎて、そういう輩を見たことは無いんだけどねー?
「そこまで酷かったのですか?」
「ふふっ、うちが嫌になったらシエロ兄上のところへ行ってもいいですよ?」
「考えておきます」
「では、これから宜しくお願いしますね?」
「わたしの家族も引き受けると約束してくださったネロ王子には感謝しておりますので。わたしのでき得る限りは、尽くさせて頂きます」
と、シュアンの歓迎会っぽい感じのパーティーになった。
みんなシュアンに興味津々なのか、一人ずつ声を掛けている。
やー、早速仲良くなってそうでよかったよかった。
そんな風にご馳走を食べていたときだった。
「ネロ様、アストレイヤ様がお呼びです」
執事さんにそっと声を掛けられた。
アストレイヤ様にお呼ばれですか・・・
「わかりました。では、今から向かいます」
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