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・・・わたしを、子供扱いした上で迷子とまで?
しおりを挟む帰りの馬車の中。
『シエロとネロは元気にしてる? 僕は全然元気で寂しくないからね? 大丈夫、というか忙しくて大変だから、もうちょっと仕事を手加減してくれるとうれしいなぁ』という風なライカから届いた手紙を読む。
にゃるにゃる。やっぱり、一人お留守番で寂しくないように兼暇潰し用にとライカにお仕事を振ったのは正解だったようね。
「……ネロ王子はご機嫌のようですね。誰からの手紙を読んでいるのでしょうか?」
と、尋ねるのは左右を護衛に挟まれたシュアン。
幾ら蜥蜴の尻尾切りで置いてかれたとは言え、元はクラウディオの側近。さっさか逃げ出して落ち着いた後、やっぱりシュアンは重要人物だった! と向こうが取り戻しに来るかもしれないので、警備が厳重なあたし達と一緒の馬車に乗っている。
「捕虜のクセに、気軽にネロ様に話し掛けないでください」
ムッとした顔でシュアンを刺々しく返したのはグレン。なんだかガルガルしてるわねー。
「すみません。つい、気になってしまったものですから」
と、気にした様子もなく涼しげな顔での謝罪。
「ふふっ、構いませんよ。わたしはむしろ、同じ馬車に乗っているのにギスギスした空気で喧嘩しているのを見る方が嫌です」
「……すみません、ネロ様」
「グレンさんが心配してくれる気持ちも嬉しいですよ? でも、シュアンさんにイジワルするのはやめましょうね?」
「そうだぞ。あんまり噛み付くな」
「・・・はい」
不服そうな返事だこと。ま、別にいいけどね。
「んで、誰からの手紙?」
「シエロ兄上も読みます?」
蒼へ手紙を渡すと、
「なんだ、ライカ兄上からか。つか、これ……あれじゃん。ライカ兄上、お前が回した仕事でいっぱいいっぱいになってんじゃね? もうちょっと手加減してやれよなー?」
サッと目を通して、なぜかライカへ同情するような表情。一応、これもヤンデレ化防止、ライカ健全育成計画の一環なんだけどにゃー?
「えー? ライカ兄上が寂しくないようにって、沢山お仕事回したのにー。というか、まだまだやりたいことは山程あるので、もっと仕事を回そうと思ってたんですけどね?」
「それはマジで勘弁してやれ。お前の仕事量に付いてくの、俺でもかなり大変なんだぜ?」
「……ライカ兄上とは、ライカ第一王子殿下のことでしょうか? まさかお二人は、第一王子殿下と仲が宜しいのですか?」
「勿論です♪」
「あ~、そうだなー。ライカ兄上と俺とネロ、ネリーの四人で、孤児院や救貧院立て直し事業の共同経営をして、並んで仕事するくらいには?」
「第一王子は正妃殿下のお子で、ネロ王子は側妃のお子では?」
「ええ。ですが、それがなにか? 母親が違うと、仲良くしてはいけないという法律でもありましたか?」
「……いえ。そのような決まりは無い、とは思いますが……」
「なら、子供同士仲良くすることのなにが問題が?」
「ま、ぶっちゃけアレだし。俺とネロは王位に全く興味無ぇからな。アストレイヤ様には、俺らでライカ兄上が即位する為に尽力するって誓ったからなー」
「そうですね。王位なんて至極どうでもいいので……可愛らしい子供達が酷い目に遭わず、楽しく笑顔でいられればそれでいいですね」
とは言え、蒼とあたしの生存に王位や王権が必要不可欠だというなら、クソ親父から王位をぶん取ったり口八丁でアストレイヤ様とライカを言い包めて王位継承権を譲らせることも吝かじゃないけど。
「ネロ王子は福祉に力を入れているのですか? というか、ネロ王子もシエロ王子もまだ年端も行かぬお子様なのでは?」
やー、あたしも蒼も、前世分含めると余裕でシュアンの年齢追い越すわよ? なんせ、シュアンは十七歳なんだものっ!!
「はっはっは」
「ふふっ、そうですね。でも、わたしもシエロ兄上も。立場を厭うてはいますが、王子ですからね。王子として、自分にできることを考えて行動しているだけですよ。そんなわたし達に手を貸してくださるアストレイヤ様やライカ兄上の度量が広いのです」
ということにしておこう。
それは兎も角。シュアンの年齢聞いて驚いたのなんのって! 調査報告によると、クラウディオの側近として学園を二学年スキップして同級生として通い、そのまま卒業したって言うじゃない。
可哀想に……本来ならまだ学生として楽しく過ごしていたかもしれないのに。あ~んなアホというか愚か者というか、まだ成人してない美少年に手ぇ出そうとする小賢しい性犯罪者の側近に選ばれてしまったから、外国まで連れ回されて奴の尻拭いで不名誉な汚名着せられた挙げ句、蜥蜴の尻尾切りとしてこんな風においてけぼりにされて捕虜になっちゃうだなんて。なんて不憫なのっ!!
親御さんも心配していることだろうし、なるべく早く亡命の話を進めてあげたいわよねー。お姉ちゃんは・・・ちょい不憫な男の子が幸せになる物語が大好きなのです! 欲を言えば、ハイスペックなスパダリに溺愛されればもう最っ高なんだけどねっ♡
な~んて思いながらシュアンを見詰めていると、
「ネロ様は、どうしてその捕虜にそんなに優しくするんですかっ……」
グレンが不貞腐れたような顔をしていた。
あら、シエロたん限定粘着ストーカー騎士だった筈だけど……ネロたんとネリーちゃんと交流するうちに、あたし達の方にも若干執着心が湧いて出たのかしら?
このまま行くと、シエロたん一人に対する執着心が三人に分散されて行く感じになって薄まったりする……かも? ま、確証は無いけど。そうなれば、グレンルートを潰すことができるかもしれないわね。
「そうですね……では、グレンさん。想像してみてください。例えば、シエロ兄上と旅行へ行ったとして。旅行先で、シエロ兄上に裏切られて一人置き去りにされたら、どのような気分だと思いますか?」
「シエロ様はそんなことしません!」
「ええ、わかってしますよ」
シエロたんなら、ね? 今は中身が蒼だもの。おそらく、ぎりぎりまでグレンのことは切らないかと思うけど。もしも蒼のことを裏切ったら……あたしがグレンのことを切り捨てる。
蒼にもそう宣言しているし。納得できなくても、理解はさせる。だって、蒼の身の安全には代えられないもの。
「では、そうですね。外国で、一人だけ逸れて置いて行かれてしまったらどうしますか? 心細いとは思いませんか? そういう迷子に優しくするのは、いけないことですか? グレンさんは、迷子に優しくしてはあげられませんか?」
「……わかりました! ネロ様が、そこの捕虜を迷子扱いして憐れんでいることは十分わかりました! そういうことなら、俺も……その、ちょっとだけ優しくできるかもしれません」
「ふふっ、ありがとうございます。グレンさん」
「・・・わたしを、子供扱いした上で迷子とまで?」
低い、不服そうな声で渋面をするシュアン。
「確か、シュアンさんは十七歳だそうですが? まだ成人年齢ではないので、ギリギリ子供扱いされてもいい年齢だと思いますよ?」
告げれば、更に嫌そうな顔になった。しかし、
「え? 十七っ? うっわ、年齢聞いたらなんかもっと憐れみ増したわー。シュアンお前、めっちゃ苦労してたんだな! あんな卑怯者のクソ野郎が上司とか、マジ最悪な職場だっただろ?」
蒼がシュアンへめっちゃ同情を寄せ出した。
「もう大丈夫だからな。あんなクソ野郎に扱き使われて大変だっただろ?」
「そ、それは……」
まあ、現在は捕虜扱いとは言え、ある意味シュアンを保護したとも言えるのよねー。
「大丈夫だ。アストレイヤ様は確りした大人で、そう悪いようにはしないだろう。もし、待遇悪くなりそうんなっても、絶対ネロがなんとかしてくれる筈だ」
「え? あ、あの、シエロ王子?」
「ネロは人によく無茶振りするし、かなりふざけた奴だが、やるときはちゃんとキッチリ決める奴だからな。安心していいぞ!」
「は? え? ネロ王子がふざけた方? シエロ王子はなにを言っているんですか?」
ぐいぐい行く蒼に、戸惑い顔のシュアン。
「なにって、アレだろ? コイツがふざけた奴じゃなきゃ、他国の王太子相手に犯罪者だっつって指名手配しないだろ。な? ネロ」
「ふふっ、否定はしませんよ」
我ながら、あれは会心の策だと思ってるし♪
そうやってわちゃわちゃしながら王都へ――――
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
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