腐ったお姉ちゃん、【ヤンデレBLゲームの世界】で本気を出すことにした!

月白ヤトヒコ

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側妃様にも忠誠を捧げたこと無かったのにっ……! ネロ様、恐ろしい子……いえ、なんて愛らしい天使なのっ!?

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 幸運だった、と言うべきかそれとも不運というべきか――――

 側妃様の主治医は、ご実家から連れて来た医師だったこと。そして、国王陛下が側妃宮に一切興味を持たれなかったこともあり、ネレイシア様がお亡くなりになられたことがあっさり隠蔽されてしまったのです。

 側妃様は、これまで以上に酷く荒れました。使用人の数名が、手酷い傷を負わされて側妃宮を去りました。中には、その命すらも落とす者も――――

 そして、荒れる側妃様に医師と侍女長が仰りました。『ネロ様までお亡くなりになられると、その責を問われて国王陛下に離縁されるかもしれません』と。

 その言葉があったからでしょうか。側妃様が、初めてネロ様を大切にするように、と。わたし達に命じられたのです。

 ネロ様は、まだ赤ちゃんなのでなにも判ってはいないと思いますが……女の子の、ネレイシア様の格好をさせられていることがあります。

 それから暫くは、側妃様が酷く暴れて手が付けられない状態になることは無かったのですが・・・

 国王陛下が、ネロ様を第二王子として扱うことを善しとせず、愛妾様のお産みになったシエロ様を第二王子として扱うと宣言しました。

 無論、側妃様は荒れました。荒れるだけではなく、愛妾様とシエロ様を害するようにとの命令も下されました。

 どうすればよかったのか……わたしなんかには、判りません。

 わたし達使用人は、側妃様には逆らえません。

 どんなに理不尽なことを言われても、理不尽に八つ当たりをされても、理不尽に傷付けられても……じっと、黙って耐えるばかりでした。

 そんな日々が、変わったのはネロ様がおしゃべりできるようになった頃のこと。

 ネロ様はまず、ご自身の乳母を解雇しました。「おうち、かえって。もう、こっちきちゃダメ」と。乳母はネロ様にそう言われたそうです。

 それから、母君である側妃様が癇癪を起こしている現場に突然現れ、怪我をしている使用人の手当てをするようにとの命令を下したのです。

 癇癪を起こし、大声で喚いている母親を尻目に。物の散乱している部屋に入って来て、とてとてと小さな身体で、怪我をして動けないでいる使用人の、血を流す傷口にハンカチを当てました。

 その姿に我に返った侍女長が慌ててネロ様を抱き上げようとしました。ネロ様はそれを嫌がり、医者を呼べと主張しました。

 この日から、側妃宮は変わったのです。

 そう……使用人達は側妃様ではなく、ネロ様の命令を優先的に聞くようになりました。

 ネロ様は側妃様が暴れているときに現れ、怪我をした使用人を庇い、手当てをさせ、療養することも勧め……怪我が酷く働けなくなった使用人の家族を呼ぶようにと仰り、手厚く遇しました。

 側妃宮で、使用人がそんな風に扱われたことはありませんでした。いつもは、治療費と多めの口止め料とを渡して追い払うように暇を出す……もしくは、ご家族に亡くなったことを連絡し、弔問金を届けるだけだったのに。

 小さな、とっても小さなネロ様が、側妃宮を変えたのです。

 いつ、どのような理不尽で酷い怪我を負わされ、動かなくなった身体で側妃宮を追い払われるか、殺されてしまうか……と、常に戦々恐々と過ごして来た使用人達が、自分達を労り、怪我をしても手厚く遇してくれると示したネロ様へ感謝し、信奉するようになるのは当然のことでした。

 く言うわたしも……

 大きな怪我を負うことは無かったのですが、荒れた側妃様の後のお部屋を片付けるときに、ちょこっと手を切ってしまったときのことです。

 構わずそのまま掃除を続けようとしたら、とととと小さな足音が近付き、温かい子供の手がぎゅっとわたしの手を掴んだのです。

 驚いたわたくしに、

「いたいのいたいのとんでけ~」

 舌っ足らずの声が言い、小さい手が白いハンカチを不器用にわたくしの傷を押さえました。

「だいじょぶだいじょぶ。いいこいいこ」

 にこにこと小さい手が、びっくりしているわたくしの頭を優しく撫でたのです。なんかこう……激しく胸がずっきゅんっ!! と撃ち抜かれたような衝撃が走ったのですっ!!

 だってだって、わたしの知ってる三歳児は、機嫌が良いときはにこにこして可愛いけど、ちょっとでも気に食わないことがあったり、虫の居所が悪かったりするとギャーギャー泣き喚いて煩いし。駄々を捏ねて言うことを全く聞いてくれないときは悪魔のように見えることもあるし……

 それになにより、男の子ってもっと走り回って、アホなことをするちっちゃい怪獣みたいな生き物でしょ? わたしの弟達……いえ、妹達も男の子よりやんちゃはしなかったですが、三歳児の頃は普通に欲望に忠実なアホでしたよ?

 こんな、こんな理知的とも言えるような三歳児なんて、わたしは知らない。

 なによりわたしは、弟妹達にこんな風に……優しく心配してもらったことない。だって、いつもはわたしが弟妹達の面倒を見る側だったから。姉は、わたしが体調を崩すと心配してくれたけど。でも、あれだって「アンタが早く良くなってくれないと困るのよ。あたし一人で弟妹の面倒見なきゃいけなくて大変なの。だから早く治しなさい」という言い分だったし。

 なにこの感覚は……っ!? と、未知に対して戸惑っているうちに、

「みりしゃ?」

 可愛らしい声が名前を呼び、きょとんとわたしを覗き込む神秘的な……きらきらした美しい紫紺の瞳。小さな手が、わたしのおでこにぴとりと触れた。

「おかおあかいよ。おねつ? あたま、いたい?」
「ぃ、いえ! だ、大丈夫です! ちょっと、その、びっくりしてしまっただけですからっ!?」
「? みりしゃ、いいこいいこ。なかないのえらいえらい」

 にこりとネロ様に誉められて……

「ネロ様に忠誠を誓います。この命在る限り、わたくしはネロ様の盾となり剣となることを誓います。そして、今すぐ名前をミリシャに改名致します」

 気付いたら、そんなことを口走っていました。

 側妃様にも忠誠を捧げたこと無かったのにっ……! ネロ様、恐ろしい子……いえ、なんて愛らしい天使なのっ!?

「? なまえ、かえるの? なんで?」
「ネロ様がミリシャと呼ぶのなら、わたくしはミリシャです。そう、ミリーシャもミリシャも同じようなもの。ネロ様のお可愛らしい声に名前を呼んで頂けるのであれば、些細な違いです」
「みりーしゃ?」
「はい、なんでしょうか? ネロ様」
「けがしちゃ、ダメ。げんきでいてね?」

 天使! ここに天使がいますっ!!

「はいっ!!」

 こうしてわたくしは十五歳のとき、三歳のネロ様へ永遠の忠誠を誓ったのです。

 それからは――――使用人一同、頑張っていらっしゃるネロ様へ全力で傅き、お支えし、朝から晩までネロ様のお姿を愛でていたら、側妃様の横暴もなんのその。

 大怪我を負う使用人は減り、むしろ怪我をするとネロ様に労られ、その神秘的な紫紺の眼差しを独り占めできることに喜びを覚える者も出る始末。

♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘

 と、ここまでわたくしは自分の半生を回想して来ましたが――――

 ・・・あれですね。ウェイバー様には色々と話せねぇこと多過ぎだわ。

 仕方ありませんね。ネロ様の魅力は大層多く、幾らでもあるのですが……

「ウェイバー様には、幾つまで乳母が付けられていましたか?」

 わたくしの質問に、怪訝そうな表情を浮かべるウェイバー様。

「ちなみに、ネロ様とネレイシア様に乳母が付いていたのは、二歳までです」
「え?」
「ご存知かもしれませんが……ネロ様とネレイシア様の生母であらせられる側妃様は、かなり性格のキツい方で、気に食わないことがあれば癇癪を起こし、使用人や身の周りの者に非常につらく当たる方でした」

 国王陛下に側妃様、そしてネロ様とネレイシア様が冷遇されているのは有名な話です。

「それを間近で見ていたお二人は、乳母に累が及ばないようにと、ご自身達がお喋りができるようになった時点で乳母を解雇なさりました。そしてお二人は、癇癪を起こした側妃様に大怪我をさせられた使用人を庇い、王子や王女権限を使い、宮廷医を呼び出し、怪我を負った使用人の手当てを求めました。更には、怪我をした使用人が働けなくなると、その使用人の家族を呼び出して医師や治療費の手配と、これから先不自由しないようにと手厚く遇してくださいました。これが、今から約四年前のこと。当時、たったの三つの子供が。我々使用人に対し、ここまでのことをしてくださったのです」
「は? な、なにを……? 三つ?」

 信じられない、という表情でわたくしを見詰めるウェイバー様。

「ウェイバー様の主……いえ、主は、ウェイバー様が傷付いたとき、このようにして親身になってくださいましたか?」

 まあ、ネロ様の「名を名乗れ!」という啖呵で即行切り捨てられたことを知っていますが。

「ネロ様とネレイシア様は、仮令たとえ一介の使用人であろうと、怪我をした者へご自分の手を差し出してくださる大変素晴らしいお方なのです」

 そう、どこぞのばっちい王太子なんかより……というか、同列に語ることさえ、烏滸おこがましいですが。王族という支配階級に於いては、信じられない程に立場が下の人間を大事にしてくださるのです。

 心優しく、慈愛に満ち溢れ、そこらの偉ぶった大臣のおっさん共より余程聡明で、理知的で、見目麗しく、まさに天使なのですっ!!

「ネロ様とネレイシア様、そしてシエロ様は慈悲深く、聡明で、人格的にも大変素晴らしい方々なのです。部下になる方はきっと、幸せですよ。ウェイバー様も見ていらしたでしょう? ネロ様があの穢らわしい男からシエロ様の護衛見習い、グレンを守ったところを」
「っ……」

 ふふっ、目に見えてウェイバー様の心がグラ付いているのが判ります。

 もう一押しと言ったところでしょうか?

「知っていますか? ネロ様もシエロ様も、身分で人を差別するようなことはありません。孤児院や救貧院に流れ付き、身よりの無い者達ですら、大事にしてくださる方々なのですから。きっと、ウェイバー様のお話もちゃんと聞いてくださいますよ」

 と、囁く。

 さあ、ウェイバー様。

 ご一緒に、ネロ様に終生の忠誠を誓おうではありませんか。

✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 戦闘侍女「さあ、ネロ様の魅力はこの程度ではありませんよ。もっと、存分にお聞かせ致しましょう」(๑•̀ㅂ•́)و✧

 シュアン「あの……いい加減、そろそろ寝かせてほしいのですが……」(lll-ω-)

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