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違う! と、これはなにかの間違いだ! 嵌められたのだ! と、声を張り上げて叫ぶも……
しおりを挟む視点変更。脱兎の如く逃げ出した直後から。
――――――――――――
「ぅっぐ……ぁっ!」
蹴られた箇所が心拍と呼応し、ドクンドクンと脈打つ度に激痛が走る。
痛い! 痛い! 痛い、痛い、痛い痛いいたいいたいイタイイタイイタイ…………
痛みに思考が支配される。
なぜ、なぜ、俺がこんな目に遭わねばならんのだっ!!
患部の場所が場所だけに、下手なところで寛げて様子を見るワケにもいかん。
「で、殿下! 今、大至急主治医を呼んで参りますので、それまでの辛抱です!」
部下が懸命に声を掛けてくれているが、痛みで意識が朦朧とし、されど痛みで意識が引き戻されるということを繰り返して、なにを言われているのかキチンと把握ができない。
激しく強烈な痛みに、思わず洩れる苦痛の喘ぎ。目からの水と脂汗、冷や汗も止まらない。顔や身体がベタベタして気持ち悪い。そして、痛い。兎に角痛い。
走る馬車の振動でも痛い。しかし、馬車を停めろとは言えない。
今直ぐにでも、この国を離れなければいかん。
ここで止まれば、最悪国に帰ることが叶わなくなる。
この俺の……を蹴り上げた、あの小賢しく粗野で粗暴な小娘のせいで!
それだけは、判っている。
だから、この馬車の揺れと振動に耐えろ!
死ぬ程痛いが、頑張れ俺!
そう己を鼓舞し続け――――
どれくらい経っただろうか……いや、大した時間は経っていないのかもしれん。
医師を拾い、俺は痛み止めの注射を打たれ、馬車の中で屈辱的な処置を受けることになった。
本当に、この日は人生で最悪の日になった。
医師曰く、もう少し蹴られた力が強ければ、俺の……は完全に潰れて使いものにならなくなっていただろう、とのこと。
痛み止めと抗炎症剤を処方され、患部を冷やすことでどうにかなったが……
完治するまで暫くは使用することができなくなった。
そして、痛み止めが効いて来てどうにかこうにかまともな意識を取り戻した頃には国境を越えていた。
なんでも、『急な重病人が出たので大至急病院に連れて行かなくてはいけない』、と主治医が強く主張して検問を突破したとのこと。
実際に俺の苦しむ唸り声が聞こえていたので、検問を越えられたようだ。
拘束されていたら、外交的にも我が国がかなりまずいことになっていただろう。
このときは、さすがに部下達に感謝を述べた。
そして、これからのことをウェイバーへ尋ねようとして……
「クラウディオ殿下。その、ウェイバー様は置いて来てしまいましたので……」
苦い顔で答えたのは、あの場にいた近衛の男。
「そう、だったな……」
俺が、シュアン・ウェイバーを性犯罪者だと指差して、身代わりとして置いて来た。
今頃ウェイバーはどうなっているだろうか? 厳しい訊問を受けても、俺達がなにをしに隣国へ出向いたのかを吐かなければいいのだが……
ああ、ウェイバーの家にも奴を置いて来た……いや、奴が隣国で囚われたことを報せねばならんな。どう、報せるべきだろうか?
まさか、馬鹿正直に隣国に破壊工作をしに行って、偶々隣国の第二王子の従者と知り合い、第二王子を貶して、その従者へ粉を掛けて、別の侍女見習いの女児に股間を蹴られたので、シュアン・ウェイバーを身代わりにして置いて来た……などとは言えない。
……我ながら、シュアン・ウェイバーには少々悪いことをしたかもしれん。
思えば……幼少期から、奴はいつでもスカした態度で、さも自分が正しいとばかりに俺に苦言を呈して来る鬱陶しい奴だった。
だが、奴もこの王太子である俺を庇ってのこと。名誉に思うことだろう。
奴のお陰で、隣国との関係悪化は免れた。
奴の尊い犠牲は忘れない。シュアン・ウェイバーは、俺の為に命を散らせたのだ。
奴は……そうだな。俺を暴漢から守って殉職したことにしよう。実際、他人には言えない場所へ怪我を負った。
現場にいた近衛や側近達と口裏を合わせ、そういう風に書類を作成し、奴の家……ウェイバー伯爵家にはお悔やみの手紙を出すことにした。
これで、シュアンが帰らなくてもウェイバー家は煩く言って来ないだろう。
我ながら、いい案だ。
さて、父上にはなんと報告すべきか……暴漢に襲われ、部下に庇われ命からがら逃げて来た。その際、俺を庇った部下が殉職した、と。そう報告しておくか。
顔を見られたので、暫くは隣国へ渡るのは控えた方がいい。そう言えば、父上も納得してくれる筈。
そうして、数日後。蹴られた患部が治って来た頃――――
俺は、父に呼び出された。
そして知ったのは、俺の似顔絵が国際的に手配されているということ。
それも、犯罪者としてだとっ!!
人身売買、及び主に美少年を狙った性犯罪者としてっ!?
なんだこれはっ!? 一体なにがどうなっているっ!?
これは、あの町でバラ撒かれていた似顔絵かっ!?
違う! と、これはなにかの間違いだ! 嵌められたのだ! と、声を張り上げて叫ぶも……父上と弟達には白い目と蔑むような視線で見られ、そして、そして、俺の王太子位の返上を宣言されてしまった。
なぜだと問うも、国際的に手配された犯罪者と似た顔の者を王太子にしておくには外聞が悪いと返された。
更には、暴漢に襲われて負傷したのであれば、その怪我が重く、王太子としての執務に障りがある故、一時的に王太子位を返上すればいい、と。
そう、父上に言われた。弟達の顔がほくそ笑むのが見えた。馬鹿にするような視線に腹が立つ。
そして、俺に療養するようにとの命令が下った。実質的な謹慎措置。
なぜだ? なぜ?
俺は、父上の言い付けで隣国へ赴き……
そして、俺は……? あんな苦しい思いをして……?
犯罪者呼ばわりされて、白い目で見られて?
なのに、弟のうちの誰かに、王太子位を……そして、行く行くは王位も奪われるかもしれない?
第一王子で、優秀な俺が国王になるのは既定路線だった筈だ。
なんで? どうして? こうなった?
俺が一体、なにをしたというんだ……?
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