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ほぼほぼクラウディオ殿下の自業自得とは言え、男としてあの蹴りは痛い。痛過ぎる。
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他国で自分のことを知る者がいないから、と。羽目を外して遊び回っているのは知っていた。そのようなことはやめるべきだ、と。そう何度もクラウディオ殿下に注進申し上げていた。
それが、こんなことになるとは・・・
もっと早い段階で、無理矢理にでもクラウディオ殿下にやめさせるべきだった。
そう、他国の少年を相手の男色など醜聞以外の何物でもない。
クラウディオ殿下と、殿下の手伝いで少年を調達していた者達の手配書が町中に出回ってしまった。
人身売買の疑いのある犯罪者だという話と、見目麗しい美少年をホテルに連れ込む性犯罪者だという話が半々程。前者は、子供達への注意喚起。後者は、町の大人達への注意喚起なのだろう。
この話を聞かされたときには、どれだけ我が国の恥になるかとクラウディオ殿下には心底呆れたものだ。早期撤退を進言するも、それを退けられた。
ここはなるべく早く帰国し、その後はほとぼりが冷めるまでこの国には近付かないようにするべきだったのに・・・判断を間違えた。
クラウディオ殿下はわたしの言葉を無視し、誑かしているこの国の貴族の許へと向かった。
手配書や、自身に掛けられた犯罪者だという疑いを払拭させる為に。
しかし、それも難しいだろう。なにせ、人身売買の容疑は兎も角、性犯罪者だという疑いは大体事実であるのだから。
クラウディオ殿下がこの地の領主へ、圧力を掛けているときだった。
第二王子の使いの者が来ている、と執事が領主へ報告した。さすがに、自国の王子を無下に扱うことはできず。そして、クラウディオ殿下がこの地へ来ているという事実を隠す為に領主の退席を許した。
そこまでは、まだどうにかできる地点だった筈。ここから・・・いいや、その前から既に悪手ばかり打っていたというのに。
クラウディオ殿下はなにを思ったのか、屋敷内を散策すると言い出し――――
第二王子の使者……おそらくは第二王子付きの子供達へと接触した。
この後はもう、思い出したくもない。
クラウディオ殿下は、こともあろうに第二王子付きの者へと粉を掛けた。見目のいい者を誘おうとするのは、殿下の酷い悪癖だ。
更には、その誘い文句も最悪。王子付きの者へ、その王子本人を侮辱するような言葉を掛けるとは・・・ご自身が正妃の息子で、それも第一王子という身分である為か、クラウディオ殿下はご兄弟である第二王子以下の王子や王女達を軽んじる傾向があった。
それを、他国の王子にまで見せるとは・・・
と、殿下に対しての呆れと、若干の見限りの感情を覚えたときだった。
殿下に顎を掴まれて動けないでいる少年の後ろから、見習いのメイド服を着た威勢のいい少女が飛び出し、「犯罪者め!」と罵声を上げ――――
クラウディオ殿下の股間を蹴飛ばした。
股間を押さえ、顔色悪く蹲るクラウディオ殿下。とっさに殿下を庇おうと、不敬であると叫んだ護衛もまた、名を名乗れ、と言う少女の……なんというか、非常にガラの悪い言葉に絶句した。
不法入国し、この国へと不利益になるよう工作している身として、住所氏名などはとてもではないが正直に明かせるものではない。
そして、「蹴り潰すぞ!」という啖呵に若干恐怖を覚えても、男であれば仕方ないことだと思う。実際に、股間を蹴られて苦痛にのたまう男が側にいる状況では。少々内股気味になる気持ちも、非常にわかる。
それから、「第二王子を侮辱されたと正式に苦情を入れる」という言葉で、クラウディオ殿下は逃げ出した。
わたしを、性犯罪者だと指差して。
護衛に自身を抱えさせて。
わたし一人を置いて。
ショックだった。クラウディオ殿下に疎まれているであろうことは薄々気付いていた。しかし、殿下へ苦言を呈さないという選択肢はわたしの中では無かった。
けれど、こうもあっさりと切り捨てられることになるとは・・・
若干呆然としつつも、自分の身分や不法入国した目的などは明かせない。
おそらくわたしは、隣国の間諜として厳しい訊問を受けることになるだろう。
文官のわたしが、拷問に耐えられるだろうか?
第二であるとは言え、この国の国王が贔屓にしている王子を侮辱した者の従者……それも、性犯罪者だと示された人間に対し、人道的な扱いを見込めるだろうか?
最悪、この場で切り殺されても文句は言えない。
わたしは、クラウディオ殿下は、それだけのことをこの国に対してして来た。
実家や親類などに、害が及ぶようなことがなければいいが――――
色々なことが頭を巡り・・・思い浮かぶのは、悪い未来ばかり。
辛うじて、なにも話さないと伝えることができた。
スッと手を挙げた少女の合図で出て来た騎士達に、縄を掛けられて拘束された。
わたしは、捕縛された。
「扱いは丁重に」
と、そう言った少女の言葉に驚く。
先程までの……主に股間の辺りに恐怖を覚えるような粗野で粗暴な言動は鳴りを潜め、理知的な言葉遣いと表情。にこりとした可愛らしい顔がわたしを見上げた。
「後でお話しましょうね?」
そう約束をさせられたわたしは、拘束されたまま身体検査を受け、荷物を取り上げられた後。紋章の無い、けれど内装の高級な、王侯貴族がお忍びで使用するような馬車へと乗せられた。
自死や脱走防止の為、見張りの騎士二人と一緒に。
・・・今頃、クラウディオ殿下はどうしているだろうか?
まずは、股間の治療を最優先だろうな。あの少女の蹴りで完璧に潰されていると、我が国の後継者問題にまで発展しそうだ。
もしかしたら、クラウディオ殿下が王太子を降ろされる事態にもなりかねない。そうなると・・・王位継承権争いに発展する可能性がある。
ほぼほぼクラウディオ殿下の自業自得とは言え、男としてあの蹴りは痛い。痛過ぎる。
捕縛されたわたしに、これより先クラウディオ殿下へなにもできることはないだろうが・・・せめて、殿下の股間の冥福を祈っておこう。
年端も行かぬ少女に蹴り潰されて痛い目見てろっ、あの恥晒しのクソ野郎がっ!!
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