71 / 158
国家転覆罪って、物凄い大罪なんですよ? 知ってます?
しおりを挟むちょい疲れたので、休憩がてらにお茶でも一服しますか。
お茶と軽食が欲しいと侍女達に伝えると、パパっと用意してくれた。
「え? 茶飲むの? 今? つか、俺らもなんかしなくていいのかよ?」
「まあ、わたし達にできることは大してありませんからね」
ほら? 中身は兎も角、身体はお子様だし?
「や、なんかあんじゃね?」
「ん~……あると言えばありますが」
「なんだよ?」
「今は家探し&精査中ですからね。子供がうろちょろしていると邪魔になると思うので、大人しく待っていましょう。それになにより、わたし達が本格的に忙しくなるのは、家探しと精査が終わってからですよ。文官のシエロお兄様?」
実はお姉ちゃん、蒼を扱き使う気満々よ!
「ほら、出て来ちゃまずい帳簿の確認とか諸々の書類仕事が待っています。不正の証拠を徹底的に知らべ上げて、ギッチギッチに締め上げましょう」
げっへっへ、元銀行員としての腕が鳴るぜっ★
「ぁ~……裏帳簿なぁ……普通にありそー」
「というワケで、食べておいてください。ちなみに、用意された飲食物は全て持ち込みですのでご安心を」
「おう」
むぐむぐと軽食を食べていると、
「……ネロ様」
横合いから沈んだ声に呼ばれた。いやに暗い顔ね、なにかしら?
「はい、なんでしょうか? グレンさん」
「その、領主へ言っていたことは本当なんですか?」
不安そうな表情があたしを見詰めて聞いた。
「なにがでしょうか?」
「その、領主館の人間を皆殺しにする、というのは……」
「ああ、あれは勿論、嘘ですよ」
しれっと答えると、
「え? う、そ……? 嘘だったんですかっ!?」
琥珀の瞳が驚いたように見開かれる。
「はい。皆殺しに加えて、領主夫人と子供達にまで拷問云々というのは嘘ですよ」
領主に対する人質として利用するのは確定しているけど。
「わたし、血腥いことは嫌いですので。とは言え、無関係の人間を巻き込むのは心苦しいのですが……関連が無いと判明した時点で、他所の土地へ移ってもらおうと考えていました」
「だよなー? ま、そんなことだろうと思ってたぜ」
うんうん頷く蒼。
「ああでも言っておかないと、子供だからと舐められますからね。それに……」
「それに、なんでしょうか?」
「次にここの領主になる人が大変じゃないですか。国家転覆罪って、物凄い大罪なんですよ? 知ってます? 国家転覆を企んだ領主がいた土地の民は、他所の地域の民から差別されたりして、肩身が狭くなってしまうらしいですよ。過去には、そういう領地の治安が悪化して、現在までスラム地区として残っているところがあるそうです。なら、穏便に済ませた方がいいとは思いませんか?」
「ま、関係者以外は罰せず、表には出さない。関係者の身内は外国に出すってんなら、よっぽどのことが無い限りは外には洩れない、か」
「ええ。そうだといいですね」
洩れ難いというだけで、その限りじゃなのよねー。人の口に戸は立てられぬって言うし? ま、外国に行っても生涯監視は付くことになりそうだけど。ここで全員死んじゃうよりは遥かにマシでしょ。
「表向き、現領主は病気療養で引退ということになるでしょうね。新しい領主の選定をアストレイヤ様に確認しないといけませんね」
現領主の身内に丁度いいのがいなければ、国が選定した人を後任に就ける感じかしらねー?
「息子に継がせればいいんじゃね?」
「ん~……それは、どうでしょうね? 子息が、こちら側に恨みを抱かないとは限りませんし……」
獅子身中の虫は困るのよ。
「ネロ様の素晴らしさをお聞かせして、ネロ様が如何に知略に長け、慈悲深く、寛大であるかを徹底的に知らしめるのです! そうすれば、誰しも自ずとネロ様の足元へひれ伏すことでしょう!」
あら、ネロリン信者まる出しの発言。というか、足元にひれ伏せさせてどうしろってのかしら?
「え?」
「は?」
「あなたはお黙りなさい!」
つらつらと語り出した戦闘侍女を、侍女長が叱責。
「ご歓談中、大変失礼致しました。この者は交代させます」
「ええっ!? ね、ネロ様~っ!?」
「ふふっ、あなたはもう少し落ち着きを持った方がいいですよ? わたしの許可しない、身勝手な行動を取られると困りますからね」
ネロリン信者の勝手な行動には、ちゃんと目を光らせておかなきゃね! 暴走厳禁!
「そ、そんな~っ!? ああでも、その笑顔も素敵ですネロ様……」
にこりと見送ると、戦闘侍女はしくしくと泣きながら……若干、頬を赤らめて侍女長に引き摺られて退場して行った。
「さて、お次はさっきのおにーさんにお話を聞きに行くとしますか」
「ああ、さっきの……なんかこう……犯罪者呼ばわりされてめっちゃショック受けてた奴」
「ええ。先程の彼らの様子からすると……」
「まあ、濡れ衣というか、見事に切り捨てられた可哀想な奴ってか?」
「おそらくは、そのような感じでしょうね」
「で、その可哀想な奴をどうすんの?」
「どうもこうも、彼は隣国の王族付きの者ですよ? それはもう、大変興味深いお話を沢山聞かせてくれると思うのですが」
「え~? さっきのにーちゃん、自分はなんも喋んねぇっつってたじゃん」
「ふふっ、最初は雑談から責めてみますかねぇ?」
「どういう風に話持って来んだ?」
「まずは、自己紹介からでしょうか」
❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅
19
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『奇跡の王女』と呼ばないで
ルーシャオ
恋愛
サンレイ伯爵嫡子セレネは、婚約の話が持ち上がっている相手のジャンが他の伯爵令嬢と一緒にいるところを目撃して鬱々していた。そこで、気持ちを晴らすべく古馴染みのいる大兵営へと向かう。実家のような安心感、知人たちとおしゃべりしてリフレッシュできる……はずだったのだが、どうにもジャンは婚約の話を断るつもりだと耳にしてしまう。すると、古馴染みたちは自分たちにとっては『奇跡の王女』であるセレネのためにと怒り狂いはじめた。
元王女セレネが伯爵家に養子に出されたのは訳があって——。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる