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た、頼むっ!! 妻と子供達だけは勘弁してやってくれっ!!
しおりを挟む「ふふっ、貴重な証言をありがとうございます。では、選んで頂けますか?」
にっこりと笑顔で言うと、
「一族郎党。及び、屋敷の使用人諸共連座で処刑台へ上るか、それとも全て自供して、関与した者のみが罰を受けるのかを」
シエロたんしか見ていなかった領主の目が、初めてあたしに向けられた。
漸く、気付いたらしい。
この場で、交渉しないといけない相手が第二王子のシエロたんではなく、おまけだと思っていたであろう、第三王子のネロたんだということに。
遅過ぎじゃね? ま、その分面白い発言を聞かせてもらったけど。
「とりあえず、隣国の彼……ディオとわたし達へ名乗った灰色髪にアッシュブルーの瞳をした男から言質は取ってあります。『俺はここの領主の取り引き相手だ』と。そして、その彼なのですが。どうやら正規に入国していない、隣国の王族だそうで。『密入国した隣国の王族と、内密に取り引きをしている』というこの状況証拠だけでも、あなたが隣国と通じ、我が国へ不利益を齎そうとしているという嫌疑を掛けるには十分だとは思いませんか?」
「な、なにを……」
だらだらと流れる脂汗。
「だから、選んでください。あなた自身は無論のこと。奥様もお子さんも身分剥奪の上、平民として国家転覆罪で絞首刑に処されるか。はたまた全てを自供し、あなたと、隣国の王族と直接関与した者のみだけの処罰で済ませるかを」
「身分剥奪かー。平民になると、なんかあんのか?」
呑気そうに蒼が聞いた。
「そうですね。まず、貴人牢ではなく一般牢へ。それも、重罪人用の牢行きが決定ですね。取り調べは、かなり過酷になるでしょう。夫人やお子さん達に、耐えられるでしょうか?」
「っ!? つ、妻と子供達まで牢へ入れる気かっ!?」
お、顔色が変わったわね!
「当然でしょう? なにせ、国家転覆罪ですよ? 大逆じゃないですか。一族郎党の処刑が妥当の罪です。けれど、その前に知っていることは全て、些細なことでも話してもらわないといけないじゃないですか。特に、主犯が口を噤む場合には。関与を疑われた人達への取り調べが過酷になるのはよくあることだそうですよ。最悪、獄中死することもあるそうですが・・・仕方ありませんよね?」
「なんか、すっげー酷いことされんだろ?」
「そうみたいですねぇ? あまりよくわかりませんけど。鞭打ちや重石責めなどをするそうですよ? 拷問の本に載ってました」
「鞭? マジで? 子供に鞭打ちかよ? ヤバくね?」
「そうですね。大事に育てられた貴族の子供が、三回程の鞭打ちであっさり死んじゃったこともあるそうです。拷問は、責め手が下手だとすぐに死んじゃうみたいですね」
「うっわ……さっき見た息子、ひょろそうだったが。拷問に耐え切れんのか?」
「どうでしょうね? 拷問が上手い人だと、責め苦を与え続けても、殺さないようにするそうですが……長期間拷問を受けた人が、その後に通常生活を送ることは難しいみたいですね。ほら? 肉体的に傷を負って、その後遺症が残ったり。または、精神的におかしくなってしまったりするようです」
「た、頼む! 妻と息子達は無関係なんだっ、許してやってくれっ!!」
おお、そろそろ落ちそうね!
「ああでも……」
「でも、なんだよ?」
「一族郎党、皆処刑になるのでしたら、拷問後のことなんて関係ありませんよね?」
「こっ、この、悪魔共めっ!!」
あらヤだ、戦闘侍女が無表情で懐に手を入れている。なんだか危険な兆候ね! スッと手を挙げて制し、
「悪魔とはまた、心外ですね。こちらとしては、あなた方に国家転覆の疑いが出た時点で、屋敷の住人を撫で斬りにしてもよかったんですよ?」
更に言い募ると、なんだかワクワクした顔をされた。や、許可してないわよ。ステイ、ステイ。
「な、な、撫で斬りってなに?」
「書籍などで聞いたことはありませんか? 端的に言うと、皆殺しのことですね」
「っ!?!?」
「え? マジ? 全員殺すの?」
「撫で斬りというのは、そういう意味ですね。ですが、そうすると新たな領主を選定するのに少々手間と時間が掛かりますからね」
「ぁ~……あれか。領主一族皆殺しの後釜に入るのは、そりゃ大変だわな」
「た、頼むっ!! 妻と子供達だけは勘弁してやってくれっ!!」
「ええ。わたしとしても、撫で斬りは気が進みませんので。屋敷が血の海になってしまいますからね」
【戦慄、血塗られた屋敷に残る惨殺された領主一族の怨念っ!!】だとか、心霊スポットになりそうよねー? そんな場所、次に住む人が可哀想だわ。
「それに、今まで大した問題も無く土地を治めて、それなりに慕われていた領主一家を根絶やしにして、領民に要らぬ恨みを買うと面倒じゃないですか。なので、わざわざこうして、わたし達が手間暇掛けて、領主にお話を聞いてあげているというワケです」
「おー、俺らってばかなり親切じゃね?」
「そうですね。ちなみにですが。ご自分の口から全てお話されるのであれば、夫人、お子さん達、無関係な使用人達の身の安全は保障しましょう。なんでしたら、夫人とお子さん達には外国に籍を用意してもいいですよ?」
にこりと微笑むと、
「以上のことを踏まえた上で、賢明な判断をして頂けると嬉しいのですが」
領主は絶望から希望を見出したような縋る表情で――――
「……お話を、させて頂きます。その代わり、妻と子供達には……」
よっしゃ、陥落成功!
「ええ。無関係だと証明できれば、彼らの安全は保障します」
「ありがとう、ございます……」
と、落ちた領主をあとはアストレイヤ様のところの文官に任せる。
ちょい疲れたので、休憩がてらにお茶でも一服するとしますか。
――――――――――――
戦闘侍女「ネロ様を悪魔呼ばわりするとはなんて不敬で罰当たりなっ!? よし、処しましょう」( º言º)
ネロ(茜)「はいはい、ステイステイ」ヾ(・∀・`*)
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