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これより、アストレイヤ様より命じられし監査を執行し、領主館の捜索を開始する!
しおりを挟む「ま、まだやるというのかっ!?」
「ああ゛っ? 第二王子を侮辱した野郎共だって、手前ぇらの国に正式に苦情入れてもいいんだぞっ!! 判ってんのかっ!? 諫めなかった手前ぇも同罪の連帯責任だかんな! キッチリ責任追及してやっから、さっさと名乗りやがれっ!!」
「ハッ……ぅ、ぐっ……せ、性犯罪者、はっ……その男だ……」
と、苦しげに喘いでダラダラと脂汗を流しながら内股で立ち上がったクラウディオ(仮)が指差したのは、驚愕顔で固まっている、理知的でちょっと神経質そうなおにーさん。
ん? あれ? あの人、似顔絵には載ってない筈なのに。なんかこう、ちょっと見覚えがあるような気が……? 気のせいかしら……?
「……好き、に訊問……でも、なんでもするがいい……撤退だっ!」
息も絶え絶えな低い囁きがすると、あたしを怒鳴り付けた護衛がパッと動いて、股間を押さえるクラウディオ(仮)をお姫様抱っこの体勢で抱えて一目散に走り去って行った。さっきまで腰をトントンしてあげていたお付きの人も、ダッシュしている。
「ああっ、逃げた!」
チッ、素早い奴らめ!
追い掛けようか? と、一瞬思ったけど。人一人お姫様抱っこしているとは言え、本職の軍人さんに、鍛えてもいないお子様が走って追い付けるワケもないと諦めた。
お子様故の低身長やコンパスの差という、越えられない壁もある。あと、今着てるの見習いのメイド服だし。ドレスよりは断然マシだけど、これはこれであんまり走るのに向いてない。
それに、どうせ外でアストレイヤ様の部下かネロリン信者が確りと張っていることだろう。あたし達の包囲網から、そう簡単に抜けられるとは思わないことね!
後で、クラウディオ(仮)一行の様子を報告してもらおっと。
ぽつんと一人残されたのは、クラウディオ(仮)に性犯罪者だと示された、なぜかちょっと見覚えのあるおにーさんだけ。
「……わたしは、なにも……話しません」
悲壮な決意の籠もった青い顔で、静かにおにーさんが言った。
おお、こっちもいい声してるわ!
それにしても……見事な蜥蜴の尻尾切り&逃走ねー?
すっと手を上げ、
「捕縛を」
おにーさんを示してそう言うと、
「ハッ!」
どこからかあたし達をスニーキングしていたおじさまが現れ、手慣れた様子でおにーさんに縄を掛ける。
「扱いは丁重に。暴れたり、脱走や自死をしようとしなければ、こちらとしても無体な真似や全身の拘束はしませんので。了承して頂けますか? おにーさん」
にこりと見上げると、驚いた顔をされた。
ま、クラウディオ(仮)に一撃かました後は、さっきまでバリバリヤンキー口調で圧力掛けながら脅してたものねー? ふふん、おねーちゃん。伊達に男社会な銀行業でバリキャリしてないのよ! 女だからと舐めたり、脅せば金を出すと勘違いした野郎共だって、口八丁に加えて銀行員必須の刑法や民法の知識であしらえるんだから!
ちなみにネロたんは、普段は温厚な様子の丁寧語。ネリーちゃんはお嬢様口調で話すのよ。あたしのテンション上がってなければだけどねっ☆
「では、後でお話ししましょうね? 約束ですよ。彼を馬車へ。念の為、身体検査は念入りにしておくように。貴重品、筆記用具、刃物類、毒物などがあれば全て預からせてもらいます。ああ、危険物でない物は、後でちゃんとお返ししますのでご安心を。呉々も、危険な真似はしないでくださいね?」
「……わかり、ました」
と、大人しく捕縛されて行くおにーさん。
わーい、クラウディオ陣営の切られた尻尾ゲットだぜっ!
おにーさんの後ろ姿が見えなくなったところで――――
「では、もう偽る必要はありませんね。これより、アストレイヤ様より命じられし監査を執行し、領主館の捜索を開始する! 横領、そして国家転覆容疑にて領主夫妻を拘束! 子供達は一部屋にまとめて軟禁! 書類は全て押収し、精査! 屋敷は全封鎖! 人員の出入りを徹底的に管理、制限せよ! 屋敷従業員及び、その家族、屋敷への来訪者、ペットの一匹たりとも屋敷から出さないように!」
「「「ハッ! 了解致しました!」」」
おお、人が増えた。そして、バタバタと走って行く。
「だ、旦那様を拘束した上、屋敷を捜索っ!?」
と、声を上げるのは顔色の悪い執事のおじさん。
「ふふっ、執事さん。あなたに協力の要請をします。ああ、別に拒否しても構いませんよ? その場合、あなたの家族、親類縁者にも国家転覆容疑が掛かるだけですので」
にこりと微笑むと、悪かった顔色がスーッと真っ白になった。
「そう怖がらなくても大丈夫ですよ? 協力して頂ければ、あまり悪いようにはしませんので。あなたも、あなたの友人やご家族、その親族の方なども、国家転覆容疑とは無関係だと証明できれば、不当な拘束などはしませんし。容疑が掛かっている、ということ自体も内密にして差し上げます。外部に洩れることはありませんので。但し、無関係だと証明されれば、というのが条件ではありますが」
ぼそりと蒼が言う。
――――――――――――
茜「それにしても……随分と恥ずかしい格好で逃走したものねー? マジウケるんだけどっ!」ʬʬꉂꉂ(๑˃▽˂๑)
蒼「ま、金的食らって悶絶。股間押さえながらお姫様抱っこで抱えられて逃げるとか、男としてかなり屈辱だろうな。俺、ちょっと同情するわ」( ̄▽ ̄;)
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