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ふむ……第二王子の使い、か。接触してみるのも悪くないな。
しおりを挟む翌日。アポを取り付け、領主の屋敷に赴いた。
領主と直に話をしようとしたら――――
このあいだまでは俺に対して丁重な態度を取っていたというのに、今日のこの家の使用人共は玄関先からこの俺へと胡散臭い……不審者を見るような視線を向ける上、なんだかぞんざいな扱いをされている気がする。
少々苛立ったので、
「領主殿。使用人の質が落ちたのではありませんか? 貴殿とわたしの話し合いの内容がそちらの国に知られると些かまずいことになるのでは?」
そう言って脅すと、怯えた顔でガラッと使用人共の顔色と態度とが変わった。その様子に、少しだけ溜飲が下がる。
「町に出回っている手配書のことなのですが、あれらは全て事実無根のことです」
と、言ったところで、なぜか鋭い視線が横合いから突き刺さる。ふん、奴か。相変わらず、堅い奴だ。そう反抗的な目で睨なくてもよかろう。
俺が人身売買に加担する筈がないことは、よく知っているだろうに? なんなら国として、王太子として。犯罪行為を取り締まる側だぞ。
それになにより、俺は性犯罪者でもない。確かに、ホテルの部屋に少年を連れ込んだのは認めるが。しかし、それもお互いに合意の上だ。男色の気がある……もしくは、俺と同様に男女どちらでもいいという性質の少年と少し部屋で愉しんで、口止め料として多めに包んで別れただけ。
このあいだの、飛び切り美しい少年については、部屋に入れた後でじっくりと話し合いをする予定だった。
『俺のものになれ』と。そう口説き堕として、国に連れ帰り可愛がるのも愉しそうだ……と、そう思っていたのを、あの親切振った女児に邪魔をされたのだ!
思い返すも腹立たしい!
よって、犯罪者だなんだと後ろ指を指されるようなことなどなにもないっ!!
「なので、領主殿には是非とも我々の汚名を晴らして名誉を挽回して頂きたいのだが。まずは、どこの者があのような迷惑極まりない流言飛語を流しているのか、突き止めてもらいたい」
そう言うと、領主は困った顔をした。
「それが……我が領地は、ご存知の通り。王室御用達の印を頂いておりますもので……その、他領の貴族がお忍びで訪れたりすることもあるものですので。匿名の、それも高位の貴族夫人だとされているご婦人を探すのは、少々難しいかと」
チッ……使えない領主だ。
「そ、その、できるだけのことはしますので!」
俺の不機嫌を感じ取ったのか、慌てる領主。
「そうですか。わたし共の疑いが晴れることを、切実に願っています」
「は、はい!」
と、俺の疑いを晴らすよう働き掛けてはみたが・・・当てにはなりそうもないな。
状況が悪い。やはり、アイツの言った通り、そろそろ帰国すべきか? そう思いつつ、我が国に有利なよう、会話を通して領主を操作していると――――
「旦那様、お客様がいらっしゃっております」
執事が領主へと告げた。
この俺が来ているというのに、来客だと? 少々気分を害すと、
「今は大事なお客様の対応中だ。アポの無い客は追い返しなさい」
領主も嫌そうに執事に返した。
「ですが、その……第二王子殿下の使いだそうで。我々が勝手にお返事するのもどうかと」
第二王子……弟がなぜ? と、思うも、
「なんでも、この度シエロ第二王子殿下が旅行中に滞在する場所を探しているそうです」
との言葉で、俺の弟のことではないと判明する。
なんだ、この国の第二王子のことか。確か……腑抜けのやらかしそのもの。庶子なのに、自身の寵姫の産んだ子だからと、無理矢理第二王子とした子供……だった筈。
「その、大変申し訳ありませんが、第二王子殿下の使いの者の対応をさせて頂きたいのですが……」
恐る恐るという顔で、俺を伺う領主。
「いいでしょう。自国の王族ですからね。失礼のないよう、対応して来てください」
折角、この俺がわざわざここまでお膳立てしてやったのだ。この国の王族に怪しまれて、台無しにされては堪らない。
「はっ、ありがとうございます。彼らとの話し合いが終われば、すぐに戻って来ますので」
と、領主は申し訳なさそうな顔でそそくさと部屋を出て行った。
ふむ……第二王子の使い、か。接触してみるのも悪くないな。
所詮は庶子だ。不自由で不遇な生活をしているのだろう。とは言え、寵姫の忘れ形見である第二王子は腑抜け国王のお気に入り。この国を揺らすのに、充分使えるだろう。
よし、では――――
「領主殿が戻って来るまで、時間が余った。故に、少々屋敷内を散策しても構わないだろうか?」
残った執事に圧を掛け、問いという名で強要する。
「あ、主が戻られるまでなら……わたくしが、ご案内させて頂きます」
「いいだろう」
さて、では早速……第二王子陣営の者の顔を見に行くとしようではないか。
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