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ネロ様。動きがありました。例のばっちい奴が、領主館へと向かっているようです。
しおりを挟む視点変更。茜視点に戻ります。
――――――――――――
似顔絵指名手配でクラウディオ一行を追い出そう作戦! を開始して、早二日。
お子様なのでやることが無いと、牧場見学ついでに乳搾り体験や、牧場産の乳製品を卸しているお菓子屋さんへ突撃して味見したり、服飾店やアクセサリーショップ、化粧品店を見に行ったり、お土産物屋さんでわちゃわちゃと買い物をしたりして――――
あちこち視察と実益を兼ねて、蒼とグレンと遊び倒した。
この世界の平民の暮らしを知る、いい勉強になったわ。ま、平民とは言え、あたし達が見たのはおそらく上流階級の暮らしだとは思うけど。
今日も今日とて、なにをして遊ぼうかと考えながら朝食を食べていたら・・・
「ネロ様。動きがありました。例のばっちい奴が、領主館へと向かっているようです」
と、なんだか少しムッとした顔で侍女が報告。
「そうですか。案外早かったですね」
似顔絵指名手配作戦で居心地が悪くなったのか、それとも美少年を部屋に連れ込むことができなくなったので、さっさと用事を済ませて隣国に帰ろうとしているのかもしれない。
全く、堪え性の無い奴ね?
ま、浮気するような奴には元々堪え性なんて備わっていないのかもだけど。
まあ、お忍びというか密入国(仮)で来てる隣国王太子の名前を呼ぶワケにはいかないのは判るけど……まさか、侍女達の間ではクラウディオのことがばっちい奴で定着しているとはね!
ぷふっ、王太子のクセに『ばっちい奴』扱いをされていると知ったときのクラウディオがどういう顔するのか、かなり見てみたいかもっ!?
「ふ~ん。で、どうすんだ?」
「そうですね……では、こちらも領主館へ乗り込みますか」
「え? マジ?」
「どうされるおつもりですか?」
「言い逃れできないよう、現場を押さえましょう。というワケで、本日は領主館へ遊びに行きますか。無論、王子として、ね?」
「ってことは、自動的に俺も第二王子として?」
「ん~……というか、シエロ兄上が王子でわたしはその従者、とでもしておきましょう」
「え? ネロ様がシエロ様の従者、ですか?」
「ええ。その方が都合がいいので」
ニヤリと笑うと、
「どう都合がいいんだか?」
ニヤリと笑い返す蒼。
「とりあえず、シエロ兄上はお忍び旅行でこちらに遊びに来た、ということにして。この領地がクソ親父のシンパだと思い出したので、挨拶に来た……という設定でどうでしょう?」
「え~? なに? 俺に囮やれってこと?」
「そんな! シエロ様に囮なんてさせられませんっ!?」
と、目を吊り上げたのはグレン。
「ネロ様、他になにか手段は無いんですかっ?」
「ん~……無いことはないけど……」
「では、他の手で行きましょう!」
「それじゃあ、グレンさんが矢面に立ってくれますか?」
「へ? 俺、ですか?」
「ええ。第二王子の旅行先をこちらにしようとしている。宿泊先にいい場所を教えてほしい、とでも言って。領主にお伺いを立てる、というのはどうでしょうか?」
「あ~……ま、グレンなら俺の乳兄弟だし。俺の宿泊先を探すってのも、信憑性はあるな」
「ええ。ここの領主は隣国に与している疑惑も濃厚ですが、クソ親父と親交を深めたい……という下心もありそうですからねぇ? では、第二王子の従者親子が王子の宿泊先の選定をする、という設定に変更しますか。話を持って行けば、領主館への宿泊を勧められるでしょうし。グレンさんと似た容姿、雰囲気の護衛のおじさまはいるでしょうか? 親子役をお願いしたいのですが」
と、ガッチリしたおじさまが手を挙げて了承。
「って、グレンを中心にするとして、だ。俺とネロはどうすんだよ?」
「その辺りは適当に。グレンさんのイトコだとか友人。もしくは、使用人の子同士でやって来た、という風にしておきましょう」
「マジ適当だな」
「ほら? 第二王子はお子様だから、お子様を連れて様子を見に来た、とでも」
「いいんですか?」
「いいんじゃないですか? まさか、王子兄弟が二人して平民の子の振りをして領主館に潜り込もうとしている、なんて誰も思いませんって」
ま、クラウディオが王太子だと明かしていなかったら、あっちも似たようなことしてるんだけど。
「そ、それは確かにそうですが。でも、シエロ様とネロ様を平民扱いだなんて……」
「ふっ、平民の子供だからいいんじゃないですか」
「なにがいいんですか?」
「探検、ですよ」
ニヤリと笑うと、
「探検、なぁ?」
またもやニヤリと返す蒼。
「子供の探検なら、しょうがないよなぁ?」
「ええ。平民の子供ですからね。少しくらいやんちゃなものでしょう。例えば……広い場所でいきなりかくれんぼや追いかけっこを始めたりしても、全く不自然じゃないですよね?」
「ガキなら、よくあることだよなぁ?」
「そうですねぇ……領主の子供と仲良くなる、だとか?」
ま、それはその子次第だろうけど。可愛らしい子だったら、仲良くしたい。
「入ってはいけないと言われた場所に入る、だとかな?」
「まさか、家探しする気ですか」
呆れたようにあたしと蒼を見やる琥珀の瞳。
「ふふっ、領主館の視察ですよ」
そして、ばっちり証拠を押さえ、弱みを握る! その弱みを利用して、当主交代。ついでに、アストレイヤ様に都合の良い人を当主に就ける。
あと、クラウディオを追い出してこっちの国から締め出す!
ふっ、我ながら若干あくどいような完璧な作戦ね!
「それじゃあ、行きましょうか!」
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