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では――――次の報告書を、楽しみに待つとしよう。
しおりを挟むまたまた視点変更。
――――――――――――
ネロとシエロを視察に出してから、少しライカが落ち込んでいるようだ。
ネロが言っていたのはこれか……と、そう思った。
ライカは、ネロとシエロと仲良くすることにあまり積極的ではないと思っていたのだが・・・
どうやら、ネロに振り回されるうちに仲良くなっていたようだ。
それとも、毎日のように顔を合わせていた相手がいなくて寂しいだけなのだろうか? と、ライカの様子を微笑ましく伺っていられたのは、ネロ達が視察に出て二日目まで。
三日目からは、毎日のように報告書が届くようになった。
街道整備の申請。これはまだいい。
というか、件の領地に着いてから視察するものとばかり思っていたぞ。なのに、向かう道のことから気に掛けるとは思わなかった。
問題は、次に来た報告書。
道すがらの町を視察し、孤児院、救貧院への予算が適正に使用されていないかもしれないという疑惑。次いで、施設で人身売買がなされているという疑惑。
加えて、買ったという子供や女性達をライカ農園へと送り付けて来る辺りが、確信犯過ぎる。受け入れざるを得ない、事後承諾。そして、契約書という言い逃れのできない証拠付きと来た。
早速、騎士団を向かわせる準備をしなくては。
更には、道中で気になったという品々や食品が大量に届く。不随して、スカウトできそうな者達のリスト。
留守番をしているライカへの土産だそうだが・・・そのお陰というか、そのせいでライカは寂しがるどころか忙しくしている。
まあ、ライカも暫くはネロとシエロと一緒にいて、諸々鍛えられているので然程問題は無さそうだが。一人で対処できないことが起これば報せろと言ってあるので大丈夫だろう。
子供には見せられないような被害に遭った者などは回収済み。ライカ農園へは向かわせず、病院へ収容しているとのこと。回復すれば、進退を自身に決めさせよう。
そして、人身売買に関わっている施設が複数あるというだけでも頭が痛いというのに・・・
ある意味、それ以上の報せが飛び込んで来た。
件の領地に、隣国の者……それも、町中に警備体制を敷く程の人物が滞在しているとのこと。領主に、隣国の息が掛かっている可能性が高まった、と。
その報せが届いた数時間後には、滞在している隣国の者は王太子のクラウディオである可能性が高いという緊急の伝令。隣国の王族の訪問が知らされていないのであれば、正規に入国していない可能性あり。至急確認されたし。
そういう報せは隣国から届いていない。
不法入国か。もしくは隣国王族の影武者という可能性もあり。
もし仮に、影武者だとしても……あの領主がクラウディオと繋がっている線が濃厚になって来たということか。
それにしても、悉くネロの読み通りというのは・・・
レーゲンのせいで揺らいだ国内基盤をどうにかしようとして、視野が狭くなっていた。こうまで隣国の介入を許してしまっていたとは、なんとも不甲斐ない。
などと考えていたら、更なる報せが飛び込んで来た。
クラウディオと思しき人物が見目麗しい少年を、ホテルに連れ込もうとしていたのでネロが阻止したとのこと。しかし、領へ到着する数日前に既にホテルに連れ込まれてしまった少年がいるらしい。
隣国王太子には、確か婚約者がいた筈だが……実は男色家だったのか? 自国で噂になると困るから、我が国でこっそり羽目を外しているのか? なんとも迷惑な。
嫌な気分で、報告書に目を落とす。
ネロが保護した少年を、保護者と共に王都へ向かわせたので対応願う。件の少年の両親は商人であり、正妃宮に食料を卸していた商人との繋がりがあると思われる。少年の保護ついでに、情報を聞き出すといいでしょう。
そして、ネロ様が隣国の王族追い出し作戦を開始しました。
と、書かれていたのは・・・
クラウディオと思しき人物とその護衛、美少年をホテルに連れ込むのに関与したと思われる人物達の似顔絵を描き、子供の誘拐、及び人身売買疑惑のある人物として周辺の警備隊にばら撒くのだとか。更に、周辺諸国の国境警備隊にも配る、と。そう記されていた。
「正気かっ?」
隣国からクレームが来たら……と考えるも、正規に入国していない上、他所の国で悪いことする奴が悪い。偶々、顔の似た犯罪者がいただけ。むしろ、『王族と似た容姿の犯罪者は即刻引っ捕らえるべきでは? 我が国が、総力を挙げて犯罪者の捕縛に協力します』と言っておけばいい、ということまで書かれていた。
確かに。これならば、痛い腹を探られては堪らんとこちらへ強くは言って来れなくなくだろう。
更には、向こうの護衛なども総入れ替えでクラウディオ(仮)の方も年単位で身動きが取れなくなる筈。
ネロは、なんとも愉快なことを考えるものだ。
クラウディオの面子は丸潰れだな。
もしかするとこれは――――下手をすると、クラウディオが王太子から降ろされる可能性も出て来たな?
暫くは、継承権争いで隣国が荒れるかもしれん。
まあ、我が国に変なちょっかいを出す暇も無くなることだろう。
しかし、隣国の者も、まさかこうも鮮やかに自分達を撃退したのがまだたった七つの子供だとは思うまい。更には、とんでもない屈辱付きでな?
この作戦で一番とんでもないのは・・・他国の諜報活動をしてる者と事を構えて、なんら被害を出していないというところかもしれんな。
面子やプライドに傷を付け、屈辱を与えた上、諜報活動へ長期に渡って打撃を与えているというのに、掛かったのは少しの費用と人員のみ。
基本的に諜報活動は血腥いものだと思っていたのだが、死傷者が一切出ていないことが至極素晴らしい!
それにしても、わたしとライカの敵を潰すと豪語していたが……
レーゲン派の貴族を通り越して隣国の王族を、ある意味叩き潰しているのがなんとも凄い。
ネロはやはり、とんでもない子供だな?
つくづく、敵に回さなくてよかったと思うぞ。
さぁて、こちらもこちらでやることが増えた。
ライカも忙しくしているようだし、暫くは放っておいて構わんだろう。
では――――次の報告書を、楽しみに待つとしよう。
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