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さて、実のところアーリー救出ミッションはまだ終わっていない。
しおりを挟む「あの、お兄ちゃん」
「ん? なんですか?」
と、あたしの目線に合わせてしゃがんでくれるアーリー。くっ、なかなかやりおるっ! そして、めっちゃ麗しい! 朝焼けのように染み渡る、感動すら覚える美貌! もう見てるだけで眼福ですっ!!
「えっと、あの……」
「あ、もしかして迷子だったりしますか? ご両親がどこのお部屋に泊まっているかわかりますか?」
御使いのように神々しいご尊顔にもじもじするあたしを、心配そうに覗き込む金色の瞳。
さて、実のところアーリー救出ミッションはまだ終わっていない。このまま別れたとして、後でアーリーがクラウディオの毒牙に掛かる可能性は多いにある。
ということで、アーリーを丸め込んでバッチリ縁を繋がなきゃね! そう、ガッチガチの固結びくらいの太い縁を!
「あの、ね。あたし達のお部屋はファミリールームの方なんだけど・・・お兄ちゃん達と探検している間に、ちょっとわからなくなっちゃったの」
不安そうな顔でアーリーを見上げて言う。
「そうですか」
「その、お兄ちゃんがよければ一緒にお部屋を探してくれない?」
「ええ。いいですよ」
にっこりと微笑んだアーリーが、
「では、行きましょうか」
そう言ってあたしの手を握ってくれる。よっしゃ、両手でぎゅってしよっ!
「そんなに不安だったのですか? もう大丈夫ですよ。お兄さんの方も、手を繋ぎますか?」
「あ、俺は大丈夫です」
蒼がそう返したときだった。
「シェン! レイシー! ホテルの人を呼んで来ましたよ!」
と、息せき切って走って来たのはグレンとホテルの従業員の人。
「具合が悪いという方はどなたでしょうか?」
「って、あれ? さっきの方は?」
「ああ、折角ホテルの方を呼んでもらったのにごめんなさい。さっきの、灰色の髪でアッシュブルーの瞳をした具合の悪い男の人は、自分の部屋に戻ってしまいました」
しょんぼりしながら、言い募る。
「お医者さんが同行しているので大丈夫だと言っていましたが、心配なのでホテルのお医者さんが必要かもしれません。尋ねてみてください」
「灰色の髪で、アッシュブルーの瞳……」
なにやら、その特徴に思い当たることがあるのか、ホテル従業員の顔が引き攣った。
ふむ、これはなにかあるわね。ま、今は追及しないでおいてあげましょう。だって、今優先すべきはアーリーを無事おうちに帰すことだから! とは言え、このままおうちに帰したところで、アーリーが無事であるとは限らないんだけどねー?
「か、かしこまりました。では、わたしはそのお客様に医者が必要か伺って参ります」
微妙に顔色が悪くなったホテル従業員。まあ、アレだ。あたしがアーリーを部屋に連れ込むのを邪魔したからか、クラウディオは不機嫌になっていたし。幸運を祈っておこう。
「あの、そちらの方は?」
と、グレンがアーリーを見上げる。
「ああ、俺はアーリーです。さっきの人が、具合が悪そうだったので部屋へ送る途中。この子達が心配して俺達に声を掛けて来たんですよ。君は、この子達のお兄さんですか?」
「ええ。そうです」
「えっとね、グレインお兄ちゃん。このお兄ちゃん……アーリーお兄ちゃんが、あたし達をお部屋まで送ってくれるんだって」
「え? れ、レイシー? シェン?」
「ね、アーリーお兄ちゃん♪」
「はい。では、お部屋へ行きましょうか」
戸惑う顔のグレンへ、
「行くぞ、兄貴」
声を掛けて促す蒼。
まあ、実は全然迷子じゃないし。なんだったら、ホテルの構造はもう大体頭に入ってるけど。
ド変態外道野郎せいでサイコパスになる前のアーリーは、こんなに優しいいい子だったのね・・・おのれ、あのクソ外道赦すまじっ!! という、怒りが思わず再燃しちゃったわ!
というか、あのクソ外道を破滅に追いやっても、両刀鬼畜なクラウディオに目を付けられちゃうだなんて、やっぱりこの、神々しいまでの美貌は罪作りというか・・・
人を狂わせる程の美貌というのは、ある種の毒だ。本人やその保護者などに、どのような種類でも力が無ければ、不幸を呼び寄せてしまう。美貌に惹き寄せられる者を撥ね退けられる程の権力、財力、武力などなど……残念ながら、アーリーにはその力のどれもが欠けている。
だからこそ――――ゲームでは、悲惨な目に遭ってサイコパスと化してしまった。
そんな未来を迎えさせないよう、お姉ちゃんが守ってあげるからね! な~んて、庇護欲と義務感に燃えながら、にこにこきゅるん♪な上目遣いでアーリーに色々話し掛けてせっせと情報収集。
なんでも、アーリーは商家の子らしい。
父親がこの地方の特産品を王都に卸しているのだとか。ふむふむ成る程ねー? これは・・・もしかしたら、父親に付いて王都まで出張したときに神殿に寄るかなんかして、あのクソ外道神官に目を付けられちゃったりしたのかしら?
下手したら・・・
「ファミリールームのあるフロアに着きましたよ。ここまで来れば、お部屋はわかりますよね?」
ハッ、もう着いてしまった! 考え事をしていたらあっという間だったわね!
「では、俺はこれで失礼しますね」
「ま、待って! あの、アーリーお兄ちゃんにお礼をしたいの! だから、ちょっとお部屋でお茶を飲んで行かない?」
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