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俺は、少しでも自分が生き残れる可能性を、自分で探っているだけだ。
しおりを挟む「正妃であるアストレイヤ様も知っていたことだぞ?」
アストレイヤ様はネロとネリーのことを気にしていた、と聞いた。そして、当時に自分が手を出せなかったこと、手を差し伸べなかったことを悔いていた。
側妃は、ネロの身体を傷付けるようなことはしなかった……らしい。ねーちゃん曰く、物を投げて、偶に当たっての掠り傷を数えなければ、ではあるが。それは、身体的にはあまり傷付けなかったってだけで、精神的にはなかなかくるものがあったってことじゃないかよ。
今の、茜だった頃を思い出したねーちゃんだから、笑って話してたけど・・・幼児が、罵倒するヒステリックな人を怖がらないワケがない。
「仮にも旦那であるクソ親父が知らないワケないよな? 知っていて、そんな酷い環境に、ネロとネリーを置き続けていたってことだよな? 俺に対する暗殺なんかも、多くを仕掛けていたのは側妃だそうだ。今回アストレイヤ様がやったように、二人の生育環境を理由にして、側妃を遠くに追いやるのなんか、国王権限でいつでも簡単にできたことなんだよ。二人のことを確りと見ていれば、だけどな? なのに、なにもしなかった」
それを、側妃と双子のことを、全部全部見て見ぬ振りをし続けた。
「正妃であるアストレイヤ様が動くことができたのだって、ネロとネリーが王族としての教育を一切受けていないと自分達で訴えたからだ」
ねーちゃんが自分で動いたからだ、という見方もできるが。
「クソ親父が動くより何倍も煩雑な手続きが多かった筈だし、側妃の実家にだって恨まれることだろう。そのリスクを背負って。しかも、それらのことを、クソ親父の仕事を肩代わりしながら全部こなしているんだ」
俺は、動揺する琥珀を見据えて言い募る。
「それともお前は、アストレイヤ様が全てをこなすことが当然だとでも言うつもりか? 元々王家の人間ではない、公爵家のお嬢様だったアストレイヤ様に? 嫁いで来たからと言って、本来なら国王の担うべき責務を任せることが? なあ、どっちが尊敬できる? 人として。王族として。責任と義務を果たしているのはどっちの方だ? 責任と義務を投げ出しているのはどっちだ? 俺でも判る、とっても簡単な問いだろう?」
まあ、まだゲームが始まる前ではあるが――――ぶっちゃけ、死んだ寵姫の代わりを息子に求めるというクソ外道な奴を尊敬できる筈がないだろ。虫唾が走るわっ!!
だって俺、ノーマルに女の子が好きだしっ!!
やー、BLスキーな腐男子やマニアックな同性愛者はそういうの抵抗ない人がいるかもだけどさ? 俺は普通に女の子が好きだからっ!! 断固としてBLを拒否するっ!!
「っ……」
言葉に詰まるグレン。
そして、なにより・・・
「なあ、グレン。俺はな、死にたくないんだよ」
「シエロ様は死なせません!」
これだけはキッパリと言うのか。
「なあ、国王が仕事をしないと、国って傾いて行くもんなんじゃないのか?」
「そ、れは……」
「幾ら、正妃が国王の仕事を肩代わりしようと、いつか限界はやって来るだろ。そのときに、国王が倒れたとして、だ」
「そんなこと言ってはいけません!」
「ハッ、このままじゃ、限りなくその可能性が高いのにかよ? 俺は、仕事をしない国王のお気に入りだぞ? 国王が倒れたら、そのまま道連れにされるに決まってる」
グレンの言葉を鼻で笑う。
仕事をしない国王。舐め腐った貴族。怒る民衆……と来たら、普通にクーデター待った無し状況に陥るに決まってんだろ。アストレイヤ様が食い止め続けているとは言え、そのアストレイヤ様の実家がクーデターを起こす可能性だってある。なんせ、第一王子であるライカがいる。
無能な国王を廃して、まだお子様なライカを王位に就け、アストレイヤ様本人やその父親が摂政になって国を動かすという道だってあるだろ。
その場合、一番邪魔なのはシエロだ。次いで、ネロ。側妃の子で、一応は正当な第二王子であるねーちゃんは兎も角として。国王の庶子である俺が始末される可能性は高い。
「このまま国王の庇護にいたところで、待っているのは破滅だろうよ。なら、正妃であるアストレイヤ様と、次期国王であるライカ兄上に恭順の意を示すことのなにが悪い。俺は、少しでも自分が生き残れる可能性を、自分で探っているだけだ」
顔を歪めるグレンを、真っ直ぐに見据える。
「お前は、どっちに付く? このまま国王……クソ親父に付くってんなら、もう俺はお前のことを友達だとは思わない。乳兄弟としても扱わない。これより先、お前は単なる……クソ親父の命令で俺に付けられたお目付け役だ。そのように扱う」
ショックを受けたように見開かれる琥珀。
「シエロ、様……」
ねーちゃんであるネロ以外、クソ親父を含めた他の攻略キャラ共って、実はBL断固拒否な俺が普通に女の子と幸せになる為の潜在敵なんだよなぁ。ライカとグレンは、今はちびっこだけどさ? でも、この世界がヤンデレBLゲーム世界なら、大きくなって行くうちに・・・とかもあり得るし。
グレンとの関係を切るなら、今だ。もしくは、グレンがクソ親父……レーゲンとの関係を切るなら、今だと言ったところか。
「返事するなら、なるべく早くしろよ? 俺、この後ネロ達と旅行行くんだ。ま、今決められねぇってんなら、ゆっくりでもいいけどよ。帰って来てから返事聞くわ」
「俺を置いて行くつもりですかっ!?」
「ああ。お前に助けられたことはあるが、お前は俺の正式な護衛じゃないからな。帰って来るまでの間、じっくり考えていいぜ?」
あくまでも、護衛見習いと言ったところ。見習いの護衛なんぞ、本職の護衛が付いていれば、いてもいなくても構わない。話し相手、遊び相手も中身が蒼である俺(前世分の年齢合わせるとアラサー近い)には、必要無い。
「っ!? シエロ様、俺はっ……」
とは言え、今まで側にいてくれたことに感謝はしているし、情だってある。だから・・・
「これだけは言っておく。二重スパイをするようなことはやめておけ。俺は、裏切り者を側に置いておく程、優しくない。クソ親父に付くと決めたなら、一生クソ親父に仕えてろ。俺はネロ達と一緒にアストレイヤ様とライカ兄上に付くから、表立っては言えないが。水面下ではクソ親父の政敵となる」
「て、き? シエロ様、が? 俺の……?」
「ああ。お前というよりは、クソ親父の敵だけどな? 但し、お前がクソ親父に付くなら、クソ親父もひっくるめて、敵だ」
俺は、自分の身とねーちゃんの身を守る為なら……クソ親父がシエロの為に用意したグレンとその母親である乳母、離宮にいる使用人達。コイツらを全員を切り捨てる。
揺れる琥珀を見据えて告げると、
「シエロ様は、変わりましたね……」
寂しげな顔が呟いた。
「ネレイシア様と、ネロ様とお会いして……強くなりましたね」
「まあな。だって、ネロとネリーは、俺の弟と妹だぜ?」
前は、ねーちゃんのが年上だったけど。今は、たったの数ヶ月だが俺の方が上だ。昔みたいに、守られているだけじゃない。
「それにさ、兄ちゃんや姉ちゃんは弟妹を守るもんだろ?」
ねーちゃんがそうだったように。グレンが、俺を守ってくれたように。
ハッとしたように俺を見詰めるグレン。
「そう、ですね。俺は、シエロ様の乳兄弟です。兄、でしたね。なので・・・俺も、ネレイシア様とネロ様の、兄のようなもの、ですよね?」
「まぁ、そんな感じかもな」
「俺は・・・レーゲン陛下ではなく、シエロ様とネレイシア様、ネロ様のお三方をお守りします!」
なんだか、吹っ切れたような宣言。
「そうか」
「はい! これからも、よろしくお願いしますね。シエロ様」
「おう。んじゃ、お前も旅行の準備しとけ」
「はい!」
不満そうに不貞腐れた顔が一変、爽やかな顔でグレンは準備をしに行った。
一応これ、後でねーちゃんに報告しとくか。
グレンが、クソ親父の派閥から寝返ったって。
❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅
ピコン♪
『グレンにブラコンとシスコン属性が加わった』
『グレンの執着対象が増えた』
『グレンはいい兄貴ポジを狙っている』
茜「って感じかしら?」ꉂ(ˊᗜˋ*)
蒼「ええっ!? この話ってそんなんなのっ!? なんかこう、俺もっといい感じの話してたじゃねぇかよっ!?」Σ(゚□゚;)
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