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それからが、本格的な経済戦争の始まりというものよ。
しおりを挟む「え? 僕と母上……仲、いいの?」
きょとんと、驚いたように瞬く碧の瞳。
「ええ。ほら? 同じ空間にいて、延々と一方的な罵倒をされるワケでもないし、怒鳴り散らされることも、怒号や悲鳴、物が飛び交って壊れるようなこともないじゃないですか」
せいぜい、お母さんに対するぷにショタの可愛らしいツンくらいなもの。本当は放っておかれて寂しいのに、拗ねて精一杯スンとした顔でお澄まししている子猫のような感じで微笑ましい。
「どんな修羅場だよ」
変わらず、じっとりとした蒼の視線。
「癇癪の発作的な? でも、流血だったり熱傷で苦しむ人がいないし。その後に医者を呼んでからの、医療処置と怒号飛び交うくらいの修羅場じゃないから全然平気」
クソアマの癇癪は、医者を呼び付けてからの方が修羅場だったのよねー。大怪我をして危険な状態だった人は下手に動かせないから、怪我した現場で治療してたし。ぶっちゃけ、その場で緊急手術が繰り広げられたこともある。ま、その緊急手術こそが、クソアマの癇癪時に使用人達を退避させるきっかけになった出来事なんだけど。
当時まだ三歳の幼児だった王子と王女(女装だけど)が、応急手当ての仕方を覚えないといけない環境ってどうなのよ?
「やはり……もっと早く、お前達と接触すべきだったな」
「ありがとうございます。でも、あまりお気になさらず」
だって、アストレイヤ様と接触したのは茜だった頃を思い出してからだし。それ以前だと・・・色々とはっちゃける前のネロたんでは、アストレイヤ様やライカと、今みたいな関係を築けていたかは怪しい。そもそも、ネロたんが自分で行動を起こしていたかすらも疑問だ。
ネロたんって、健気だし。下手したらず~っと耐えちゃう可能性も否定できないのよね。そして、精神を病んでメンヘラに・・・という感じかしら? いや~、茜の記憶を思い出して本当によかったよかった。
「アストレイヤ様が、わたし達のことを気に掛けてくださっていただけで嬉しいですから。ね、シエロ兄上」
「そうですね。ネロを助けてくれて、本当にありがとうございます」
神妙な面持ちでお礼をする蒼。
「礼には及ばない。というか・・・お前達はもっと早く声を上げて、わたしを頼るべきだった。まあ、気付けなかったわたしが言うべきではないかもしれんがな」
苦い表情で首を振るアストレイヤ様。
空気が重いわね。ま、重くしたのあたしだけど。よし、ここは空気を変えよう。
「では、雑談はこのくらいにして。お話を進めましょうか」
「お前は……自分のことを軽々しく雑談扱いするな」
先程からの苦い表情に、ムスッとしたものが含まれた顔があたしを見やる。
「ふふっ、本題から逸れた話を雑談と言うのですよ? ということで、さっさと本題を進めましょう。まず、やるべきこと。アストレイヤ様とライカ兄上のお食事に上がる食材を、わたし達の息の掛かった農場、牧場、果樹園から取り寄せて、今食べてる物との品質チェック」
「息の掛かったって、間違ってはないが。もっと他に言い方あるだろ」
「んじゃ、ライカ兄上運営のとこ?」
「……いや、運営は僕って言うよりも、実質お飾りみたいなものだし。ほとんどネロとシエロが責任者だよね?」
眉を下げたライカが言う。
「名前はライカ兄上名義ですし、実際交渉の場に立っているではありませんか。なので、あまりお気になさらず」
「ほぼお膳立てされてるところに、サインしに行くだけなんだけどね……」
「もう、そこが大事なんじゃないですか。ほら? わたしとシエロ兄上みたいに、言っちゃなんですけど、親が碌でもないと信用なんて無いんですよ」
クソ親父ことレーゲンも加えてな! 仕事しない上、余計なことしかしない国王なんざ、マジ要らんものの筆頭じゃね?
「それに、人前に立つのってめんどくさいし」
「え? 君、そんなこと思ってたの? シエロ」
「ま、俺を優遇しようとしてるのは、クソ親父とその息の掛かった少数の人達。そして、甘い汁を吸おうとしてるような連中だけですからね。そういう連中に利用されて担がれるのは絶対嫌なので」
「・・・全く、子供のクセに現状把握し過ぎだ。本当に可愛くない奴らだな」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアストレイヤ様。
非情な判断もできる筈なのに、なぜかネロたんとシエロたんに結構甘いのよねー? やっぱり、子供だから情が移ったのかしら?
「はいはい。可愛くなくて構いませんとも。ライカ農園産の食料の品質検査が終わったら、アストレイヤ様が、今後の食料をうちの農園のものに切り替えると宣言。どさくさに紛れて、輸入品もクソ親父側の商人からアストレイヤ様お抱え商人の方へと切り替える」
「で、クソ親父のシンパが文句言って来たら、『息子の応援をしてなにが悪い?』と、返す」
「表側でこのやり取りをしている間に、食糧増産と更なる品質向上、販路拡大を目指しつつ、綿花、紅花、ハーブの専門家を招聘、栽培着手に取り掛かる」
「結構やること多いな?」
と、眉を寄せる蒼。
「更に更に、綿花、紅花、ハーブ加工の専門家も招聘。詳しく話を聞いて、できそうであれば、実際に加工と実験。上手く行けば、綿と染料、植物油、ハーブの加工品が入手可能になる……と。ひとまずはこんなところですかね?」
「これ、がんばれば服飾品も作れるよな?」
「上手く行けば、で。何年も後ではあるけど。王都近郊である程度の衣食を賄えるようになるかもね? 王都の物価高も、関税や輸送費問題が原因だし。逆に輸出できるようになれば、かなり経済が回ると思う」
年単位で相手の権力やら財力、影響力をガンガン削って行く所存だ。そして、がっぽり稼いだら金融業にも手を出す予定をしている。上手く行けば、愚か者共に融資という名の借金を背負わせてやる。それからが、本格的な経済戦争の始まりというものよ。げっへっへ、元銀行員としての腕が鳴るぜ!
ちなみに、お姉ちゃんの考えを一番理解しているであろう蒼には、『これからめっちゃ働いてもらう予定だから、がんばってね♡』と、内心でエールを送っておく。
「……異論の挟みようも無いな」
「そうですね、母上……」
「というワケで、諸々の手配。宜しくお願いしますね? アストレイヤ様、ライカ兄上」
「ええっ、僕もっ!?」
「ま、兄上には表立って動いてもらわないと困るからな」
「わ、わかった。がんばる」
なぜか疲れた表情でがんばる宣言をするライカ。
まだ動いてもないのに、なんでそんなにお疲れなのかしらね~?
謎だわ。
✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐
茜「愚か者共に融資という名の借金を背負わせてやる。それからが、本格的な経済戦争の始まりというものよ。げっへっへ、元銀行員としての腕が鳴るぜ!」Ψ(`∀´)Ψケケケ
蒼「アコギだ……」(ll゚Д゚)怖ァ
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