30 / 158
ま、食えなきゃ普通に餓えて死ぬからなぁ。
しおりを挟む「ふふんっ、もっ~と誉めてくれちゃってもいいのよ?」
「調子に乗るな。それに、だ。幾ら企画、計画が実現可能だとしても、そこに行くかどうかは、本人達が決めることだろ。強制じゃ意味が無い」
「そうね。本人達が納得してないと、強制労働になっちゃうものねー」
「ああ、そっか。その問題もあったか」
ライカがハッとしたような顔をする。
「ん~……でも、その辺りはほら? ぶっちゃけ、都心部って物価高いじゃない? だったら、自分達で食料生産に関わって、食べ物を作ったら、お腹一杯食べられるわよ? って、食べ物で釣ろうかと」
「それで釣れるの?」
きょとんと不思議そうな表情があたしを見やる。
やっぱり、ライカはなんだかんだ大事に育てられて来た王子様よねー?
「ま、食えなきゃ普通に餓えて死ぬからなぁ。確かに。腹一杯食えるってな、かなり魅力的なお誘いかもな」
「そうなの?」
「ああ。空腹と脱水はつらい。俺、寒くなって来た時期に人の来ない小屋に丸一日程閉じ籠められたことがあってさ。あのときは……助けが来るまで、ちょっと死ぬかと思った」
「え?」
「あ~……なんか、ごめん」
そっか。そんなことがあったのね。クソアマめっ!!
「いや、ネリーのせいじゃないから気にすんな。俺は一日だけで済んだけど、空腹と脱水はかなりつらいってわかった。あと、寒いのもキツい」
「そうねー。食事抜きはつらいわよねー」
生きる気力が無いと、空腹もあんまり気にならないけど。
「秋冬は凍死も気を付けなくちゃ」
寒いときには、体温を上げる為にエネルギー……カロリーが要る。人間は、体温が三十四度以下になると凍死する危険もあるし。
「え? ネリーもどこかに閉じ籠められたことあるのっ!?」
「いえ、わたくしの場合は……その、使用人達が母に掛かり切りになって。日に何度か食事の用意を忘れられたことがある、という程度かしら?」
クソアマのヒスが酷過ぎて、使用人達が掛かり切り。食事どころじゃなかった。ネロたんは滅茶苦茶良い子だから、使用人達に気を遣って、お腹空いたのを我慢したのよね……ネロたん健気!
「俺が言うのもなんだけど、子供はしっかり食べないと大きくなれないぞ」
「わかってるわ」
「……二人共、つらい思いをして来たんだ」
「ふふっ、大丈夫ですわ。この程度」
「ま、そうだな」
蒼と頷き合うと、
「え?」
驚いたように見開かれる碧。
「だって、これから立て直す孤児院や救貧院は、わたくしやシエロお兄様よりもつらく、苦しい思いをした子供や女性達が沢山いる場所ですもの」
「そう、なの?」
「ええ。おそらくは・・・」
だって、ド変態神官や外道共が携わっていた……かもしれない孤児院や救貧院だ。文字通り、地獄を見て来た子供、女性達がいたとしても、なんら不思議じゃない。まあ、教育上大変宜しくないことなので、ぷにショタなライカと蒼には言わないでおくけど。
それとも、やっぱり被害者の子供達は既に別の……カウンセリングができるような施設に移っている、ということも考えられるかしら? いずれにせよ、無事であることを願う。
「良くて食事が日に二回。最悪、数日に一回。それも、コップ一杯の水と硬くて小さいパンだけとか?」
「餓えに耐え兼ね、孤児院を抜け出し、盗みを働く子供がいるとも聞きました」
「なにげに、都市部のストリートチルドレンより、農村部のストリートチルドレンの方が食事事情はいいらしいからな」
「そうですね。農村部や森林地帯では、外へ食べ物を探しに行けますからね」
旱魃や水害、凶作、その他自然災害でもない限りは、農村部では都市部より余程食料が採れるだろう。
「ああ……そっか。だから、孤児達を郊外に、なんだ」
「ええ。獣害などはあるかもしれませんが、大勢が餓えてしまうよりはまだマシでしょう」
「なんだったら、猟師になるという道もあるからな」
「そうねー。ハンターは、結構重宝されるらしいわね。依頼が無くても、ジビエを獲って売ればいいんだし。最悪、全く稼げなくても、山や森に籠れば餓えずに済むみたいだし」
まぁ、山や森に籠るのは、常に危険と隣り合わせではあるけど。
「・・・二人共、よくそんなにぽんぽん思い付くね」
呆然とした顔であたしと蒼を見詰めるライカ。
まあ、そこら辺は人生経験の差というやつよね。前世の年齢プラスしたら、蒼もあたしも余裕で二十代突入……なんだったら、アラサーくらい行っちゃうし?
「図書室には沢山の種類の本がありますので。旅行記や風俗記、エッセイ、外国の資料などなど。大変興味深いです」
「ああ、暇なときに通うのはいいことだな」
なにげに、あたしと蒼の密会の場所でもある。偶然を装って、図書室の手前や中で落ち合って、ちょこっとだけ会話して情報交換をしていた。ひそひそするのにいい場所だ。
「ええ。それに、わたくしとネロお兄様は、お忙しいライカお兄様と違って、時間がたっぷりありましたもの」
なんだったら、キーキー五月蠅いクソアマの癇癪ヒステリー(使用人達は避難済み)をBGM代わりに、本を読んでたくらいだ。「聞いてるのっ!? ネロっ!!」だとか意味不明にブチ切れられたけど、「図書室の貴重な本を損壊すると、経緯を調べられて父へ報告が行くかもしれませんね。あなたが乱暴者だ、と」な~んてしれっと言って、本を掴もうとした手を引っ込めさせてやったぜ☆
あのときは顔を歪めて、更に五月蠅く喚いてたけど……
ふっ、これからは静かで悠々とした読書時間が存分に確保できるというものよ!
「あ……そっか」
なんだか寂しげな顔でライカが俯くと、
「それで、方針は決まったか?」
アストレイヤ様が聞いた。
「はい。とりあえずは、郊外の安く売りに出されている農場や牧場を購入しようと思います」
「ふむ……単なる食料支援だけで終わらせるつもりは無い、ということか」
「勿論です。単に恵むだけよりも、栽培、飼育、狩猟の仕方を教える方がいいでしょうからね」
「よかろう。資金は?」
「半額から三分の一程を、アストレイヤ様に出して頂けると助かります」
「……どこから、残りを賄うつもりだ?」
あら、険しいお顔の低い声。
「わたしには不要なので、母の貴金属類、その他を売りに出そうかと。死蔵しているより、資金にしてしまおうと思いまして」
どうせ、あの女の買い漁っていた物の半分~三分の一くらいは側妃としての税金で賄われている。残りはおそらく、実家からの支援金だろうけど。まあ、それだって元々は実家の領民からの税収。なら、国民に還元するのが筋というもの。
「……わかった。三分の一は出してやる。ライカ」
「はい」
「もう少ししたらお前に慈善活動をさせようと、確保していた資金がある。それを上手く使え」
「ありがとうございます、アストレイヤ様!」
わーい♪使えるお金増えた~っ!!
10
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い
月白ヤトヒコ
恋愛
毒親に愛されなくても、幸せになります!
「わたしの家はね、兄上を中心に回っているんだ。ああ、いや。正確に言うと、兄上を中心にしたい母が回している、という感じかな?」
虚弱な兄上と健康なわたし。
明確になにが、誰が悪かったからこうなったというワケでもないと思うけど……様々な要因が積み重なって行った結果、気付けば我が家でのわたしの優先順位というのは、そこそこ低かった。
そんなある日、家族で出掛けたピクニックで忘れられたわたしは置き去りにされてしまう。
そして留学という体で隣国の親戚に預けられたわたしに、なんやかんや紆余曲折あって、勘違いされていた大切な女の子と幸せになるまでの話。
『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の婚約者サイドの話。彼の家庭環境の問題で、『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』よりもシリアス多め。一応そっちを読んでなくても大丈夫にする予定です。
設定はふわっと。
※兄弟格差、毒親など、人に拠っては地雷有り。
※ほのぼのは6話目から。シリアスはちょっと……という方は、6話目から読むのもあり。
※勘違いとラブコメは後からやって来る。
※タイトルは変更するかもしれません。
表紙はキャラメーカーで作成。



【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる