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『空腹の者には魚を恵んでやるのではなく、魚の獲り方を教えよ』
しおりを挟む「ええ。では、立て直し計画の話を始めましょうか」
「ね……レイシアは、なにか考えがあるの?」
ネロとネレイシア、どちらで呼ぶか迷ったというところかしら?
「……ライカ様」
「なに? シエロ」
「その、少々話し難いので言葉を崩して宜しいでしょうか?」
「え?」
「ネリーも、その方が話し易いと思いまして。ああ、この間程には崩したりはしませんのでご安心ください。それに、ライカ様もネリーと呼んだら如何です? いいよな? ネリー」
「ええ。ライカ様が宜しければ」
「その、じゃあ……君達も、僕のこと……お兄様って呼んで」
おおう! 恥ずかしそうなキラキラぷにショタのお顔頂きましたっ!!
「はい、ライカお兄様」
「えっと……兄上、もしくは兄さんと呼んでも?」
「うん♪」
ライカの愛想笑いじゃない、にっこりと満面の笑みっ!! シャッターチャンス! だというのにっ、今ここにっ、手許にカメラが無いことが残念極まりないっ!!
「それじゃ、話を始めよう」
と、言葉を崩した蒼が言う。
「ネリーは、なにか考えがあるんだよな?」
「まあ、考えというか……普通に、自分の食い扶持は自分で稼がせようと思いまして」
「え? 食料を支援するんじゃないの?」
「ま、最初はそれでいいかもしれない。けど、その食料支援っていつまで続けるつもりなんだ?」
「それは……彼らが必要としなくなるまで、かな?」
「ライカお兄様。孤児院や救貧院は日々人が増えて行く場所ですよ。なので、食料が不要になることなど、閉院、閉鎖でもしない限りはあり得ません」
「あ、そっか」
「ああ。それに、『空腹の者には魚を恵んでやるのではなく、魚の獲り方を教えよ』って言葉もある。食料を直接あげるだけで終わらせるんじゃなくて、自分達でどうにかできるようにした方が、その後の彼らが餓えずに済む」
「ああ、うん。前に習ったことがある」
「それで、ネリー。具体策は?」
「そうねー。郊外に、人手不足と経営難の農場や牧場があるみたいなの。まずはそこを買い取って、孤児院や救貧院の人達に運営させようと思ってるわ」
ネロリン信者の調べだ。既に幾つか目星を付けてある。
ちなみに、子供に労働させるなんて! というのは、ある程度以上の文化水準がある国でしか言っちゃいけないことだ。だって、餓えて死ぬより労働して食べて行ける方が断然いいでしょ。
「いきなり農場、牧場の買い取りとはまた大きく出たな……で、そのための資金はどうすんだよ? 出せるのか?」
「ああ、アストレイヤ様にお願いできないかしら? ってのと、うちにある使わない宝飾品を売ればなんとかなるでしょ」
「それ、側妃のじゃないの? いいの? ネ、リーはそれで」
気遣わしげなライカに頷く。
「ええ。わたくしも、母の物を使用する予定はないので。死蔵しておくより、有効活用した方が断然いいと思います」
クソアマが、クソ親父の気を引くだと言って買い漁っていた貴金属類やドレス、香水、化粧品。もてなしの為の高級酒などが山程ある。あたしの趣味じゃないし。ドレスは、ドレスとしては高くで売れないだろうけど、解いて布にしていまえばいい。それなりにいい布地だし、装飾として縫い付けられているレースやら宝石、金糸、銀糸などもそれ自体で売れる。香水や化粧品、高級酒も、まだ封を切ってない物が沢山だ。腐っても側妃の私物。捨て値で売ったとしても、それなりの値段は付くだろう。オークションに出品して、値を吊り上げてもいい。
「それじゃあ、初期費用はある程度クリア。だが、輸送については? 郊外には、護衛がいないと運べないだろ。盗賊に囲まれて、あっという間に身ぐるみ剝がされるぞ」
「ふっふっふ、その辺りについても大丈夫」
「さすがに、母上の護衛は貸し出せないと思うよ?」
「ええ。判っています。わたくしが考えているのは、退役軍人などの起用ですわ」
「ああ、成る程な。怪我や病気、年齢を理由に退役した軍人、か。場合によっちゃあ引き受けてくれる可能性は高い。そして、そこらの賊には簡単には負けない、か」
「ええ。大規模な盗賊団や余程性質の悪いお尋ね者が相手でもない限りは大丈夫でしょ。それに、王都付近で大規模な盗賊団が幅を利かせているなんて話は聞かないし。この辺りは、現役の軍人さんを信じましょう」
アストレイヤ様が頑張ってくれているお陰か、王都近郊の治安が悪いとは聞こえて来ない。
「そう、だね。国王や母上のお膝元である王都を荒らす者は、許されない」
ライカが深く頷いた。
「とは言え、小規模且つ、荷物だけを狙って、人の殺傷をしないという盗賊達については討伐の優先順位が低い筈。故に、そう言った取り零されたような盗賊や、突発的な破落戸対策としての護衛は必須。というところかしら? ま、単純に、運び手としても必要ではあるけど」
「成る程。まだプランだけだが、ある程度は実現できそう……ではあるな」
「あ、本当だ。ネリーは凄いね」
「凄いというか……いつから考えていたんだ?」
素直に誉めてくれるライカに対し、胡乱げな視線を向ける蒼。
「ふふっ、そうねー? ネロお兄様が巻き込まれたことの規模が大きくなってから、かしら? ほら? 大きな事件になると、予想外の規模でどんどん巻き込まれて行く物事があるじゃない? で、一番その犠牲になるのは弱い立場の人達だから。ネロお兄様が関わったことで、それで人死にが出るような事態になったら寝覚めが悪いわ。責任を感じちゃうじゃない。で、そろそろほとぼりも冷めたかなー? ってところで、アストレイヤ様に許可を求めてみましたっ☆」
「ホンっト、よく回る頭だことで」
だって、あたしは元々銀行員。企業の企画立ち上げ、金勘定に関してはプロと言っても過言じゃないんだから! 倒産や経営破綻した会社の業務を、別の会社が引き継ぐことなんてよくあることだし?
「ふふんっ♪もっ~と誉めてくれちゃってもいいのよ?」
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