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残念ながらわたしには、お前の立場を剥奪する権利は無い。
しおりを挟む「シエロお兄様! グレンお兄様も、来てくれたのですね!」
『や、来いっつったのねーちゃんじゃん』
「俺は、シエロ様の付き添いですので……」
「ふふっ、では行きましょうか」
と、アストレイヤ様の休憩時間のちょっと前に待ち合わせをして、執務室へと招き入れられた。
「ほう、シエロ王子も来たか。歓迎しよう」
ニヤリと面白がる顔で、お茶の用意をさせるアストレイヤ様。
「ネレイシア姫の隣に座れ」
「お、お招きありがとうございます。あの、宜しければどうぞ」
と、蒼がアストレイヤ様へとしょぼ……もとい、シンプルな数輪の花を差し出す。ついでにあたしもお花を渡しておこう。
「ふっ、兄妹揃ってわたしへ花を差し出すとはな。飾らせてもらう」
美麗な笑みを浮かべて花を受け取り、くるりと手の中で弄び、使用人へと手渡す。うむ。今日も今日とて、男前で素敵です!
「あ、あの、昨日の今日で大変厚かましいとは存じますが。アストレイヤ様へお願いがあります」
あら、蒼ったら早速言うつもりね。
蒼……シエロたんの言葉に、アストレイヤ様の使用人達がピリッとする。
もう、そんなに警戒しなくてもいいのに~。
「ほう、言ってみろ」
「はい。俺……いえ、わたしの第二王子という立場を返上したく思うのです」
シエロたんの後ろで息を飲む気配。そして、周囲の使用人達がちょっとびっくりしているのが判る。よく訓練されてる使用人でも驚いちゃうくらい意外だったみたい。
「ふむ……理由は?」
「わたしの存在が、不要な争いの元になると思うから、です」
「ネレイシア。お前の入れ知恵か?」
「いいえ? わたくしではありませんわ。シエロお兄様はわたくしと出合う以前から、第二王子であることに悩んでおられたそうです」
「はい。わたしには無用な立場だと、ずっと考えておりました」
「第二王子であるから、お前は王宮で暮らしている。それは、無用だと?」
「不和の元であるなら」
「離宮から放り出されるぞ?」
「幸い、読み書き計算ができます。もしご厚情賜れるならば、どこかで文官として働かせて頂ければ嬉しく思います」
「・・・なぜ、それをわたしへ言う?」
「父は、わたしと会って頂けませんから。それに、父の……国王の執務を肩代わりしていらっしゃるのは、アストレイヤ様だとお聞きしました」
真っ直ぐにアストレイヤ様を見上げる蒼。
「成る程。理解した。だが、残念ながらわたしには、お前の立場を剥奪する権利は無い」
先に視線を逸らしたのは、アストレイヤ様。
「……そう、ですか」
「ネレイシアといい、お前といい……親が碌でもないと、その子供が苦労するではないか。全く……」
険しい顔で、忌々しげな低い呟きが落ちる。
「いいだろう。シエロ王子。君を、この正妃宮で文官として雇ってやる」
「ほ、本当ですかっ?」
「ああ。但し、我が離宮で王子扱いをされるとは思わぬことだな? シエロ」
「はい! ありがとうございます。アストレイヤ様」
ふむ……思いも掛けず、シエロたんの就職が決まってしまった。
『ふぅ……これで、離宮を追い出されても、どうにか食い扶持の確保ができるぜ』
安堵の溜め息を落とす蒼。
確かに。シエロたんが第二王子で居続けるのは、平時の国にとってはかなりリスキーなことなのよねー? 愛妾の子で、私生児だし。本来なら、王位継承権は与えちゃ駄目な子だ。このような横暴を許せば、国が荒れる。
既に国や世の中が荒れている乱世状態なら、王位継承を持つ隠し子の存在は血統の維持に歓迎されたりするかもなんだけどさ?
というか現状、荒れそうな国をどうにか平定し続けて、クソ親父の尻拭いをし続けているのが、アストレイヤ様だし。
アストレイヤ様の性格としては、寵姫やシエロたんのこと自体を憎んでいるワケではなかったと思う。けど、クソ親父のせいで二人は目の上のたんこぶ状態となり、目障りな存在と化していた筈。
シエロたんを排除するかとっとと追い出すか……にしても、クソ親父の横やりが入って面倒なことになるであろうことも必至。
下手に追放しようものなら、アストレイヤ様の立場が悪くなる可能性もあるし。最悪、クソ親父に正妃としての身分を剥奪される。他にも、国王レーゲンが主張する第二王子としてのシエロたんを、傀儡にしようとする輩だってきっと出て来る。
そうなれば、第一王子派と第二とされている王子派(と見せ掛けた国王派)、第三王子派(と見せ掛けた側妃派)。貴族派と、内乱待ったなしで国が荒れる。
シエロたんは本当に本当に、扱い難い立場の子供だ。ま、王位継承権の与えられた国王の庶子なんてそんなものか。政治的にはシエロたんが女子なら、まだよかったんだけどねー?
でも、そしたら【愛シエ】というヤンデレスキー腐女子には垂涎堪らんBLゲームになっていないというジレンマっ!? ……というのはおいといて。
だからこそ、現政権の中で一番立場が強く、人望のあるアストレイヤ様に気に入られることは、身の安全に直結する。味方を増やすのは、悪いことじゃないもんね。
グレンが後ろで不満そうな顔をしているのは、グレンがクソ親父……レーゲン国王の派閥だからだろう。もしくは、まだ子供だからシエロたんの立場を理解できていないか。シエロたんの身の安全を一番に考えるなら、歓迎すべきだもの。
でも、いいなぁ……あたしも、シエロたんの麗しいお顔眺めてたい。舐め回すように……目の保養として美ショタ成分を補給したい。
「ネレイシア」
「あ、はい、なんでしょうか? アストレイヤ様」
「お前も、やってみるか?」
「え?」
「そのように寂しそうな顔をされてはな? 執務の邪魔にならなければ、ここに置いてやる」
「でも・・・」
「下手に動かれるより、目の前に置いておく方が余程いい」
おおう、目を離すと危ないことするお子様認定されてる感じっ!?
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