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貴様がお姉ちゃんの心配をするなど百年早いわ!
しおりを挟む『ぁ~……めっちゃ緊張した。生きた心地しなかったぜ』
アストレイヤ様の執務室を出た途端、がっくりと項垂れる蒼。
『アンタね、それはこっちのセリフだっての』
『は? 元々はねーちゃんが無茶なことするのが悪いんだろっ!? なんだよアレ! 神殿で襲われたって聞いて、滅茶苦茶心配したんだからな!』
『ふっ、このお姉ちゃんがそんなへまするワケないじゃない』
ふふんと胸を張ると、
『で、神殿になんてなにしに行ったんだよ?』
じと目の質問が返る。
『ああ、アーリーの異端審問官フラグをへし折ろうと思って。アーリーの両親を殺して、アーリーを毒牙に掛ける予定のド変態司祭を、ちょっくら社会的に始末して来た♪』
『はあああっ!? ちょっ、ねーちゃんなにして来てんのっ!! それ、滅茶苦茶危険だろっ!! お前、今の年齢考えろよなっ!?』
『だから、確り考えて行ったんだってば。だって、どう考えても一番逼迫しているところなんだもの。現在進行形で、続々と被害者が出て、可愛らしいロリっ子やショタっ子が苦しんでいるのよ? 知っていて、放ってはおけないじゃない。人道的に』
見た目は美幼児だけど、中身は大人として。どうにかできそうだったから、ちょっくら変態を社会的に抹殺しただけのこと。
『それはそうかもしれないけどっ……でもっ、ねーちゃんは俺のねーちゃんだけど、ネロは俺の、シエロの弟だろ! 今のねーちゃんは、前と違って俺よりも年下で、小さな子供なんだから、守られててもいい存在なんだよっ!!』
蒼が必死の形相で訴える。
『蒼・・・だが、断る! 貴様がお姉ちゃんの心配をするなど百年早いわ!』
『ふざけンなっ!? 俺、本当に本当に滅茶苦茶心配したんだからなっ! ねーちゃんがいなくなったら・・・俺が詰むだろうがっ!! 一蓮托生なんだ! 今度から、危ないことするときにはちゃんと俺に相談しろっ!!』
それは確かに一理ある。蒼って、肝心なときにドジするから放ってはおけないのよねー。ほら、豪華特典【愛シエ】愛蔵版を買って来る途中で歩道橋から落ちてそのまま・・・とかさ?
『危ないことをするな、とは言わないのね?』
『ねーちゃんと俺の、死亡フラグが回避できるなら・・・多少のリスクには目を瞑る。だから、約束してくれ。絶対に、一人で危険なことはしない。そして、事前に俺に相談すること。頼む、ねーちゃん。俺を一人にしないでくれ』
必死の表情で懇願し……手を握って来る麗しいシエロたんの顔に、思わずコクンと頷いてしまった。
『いいか、絶対絶対約束だからな!』
『ハッ! 可愛らしい懇願顔に思わず無意識で頷いてしまったわっ!? シエロたん、なんて恐ろしい子なのっ!?』
『いい加減にしろっ!? こんの、バカ姉貴がっ!!』
『いやん、そんない怒っちゃイ・ヤ……ぁだっ!?』
テヘペロ顔を決めようとしたら、ガスっ! と額にチョップを食らってしまった。
『ねっ、ネリーちゃんの麗しいお顔になんてことをするのっ!?』
『だからっ、ふざけんのやめろっ!?』
『あ~、はいはい。わかりましたよーだ。でもね、蒼』
『んだよ、バカ姉貴』
『周りを、もっとよく見て?』
『あん?』
『今のアンタ、兄妹喧嘩で超絶美幼女にチョップ食らわしたお兄ちゃんだから』
と、上を向いた蒼を、非難するような顔で大人達が見下ろしている。
『げっ!?』
「大丈夫ですか、ネレイシア様?」
「ええ。大丈夫です。単なる兄妹喧嘩ですわ。シエロお兄様には、ネロお兄様をお止めしなかったことを……少し、叱られてしまっただけです」
ちょっと寂しそうな顔を作ってにこりと微笑むと、
『ぅぇ、猫被り……』
蒼のしょっぱい顔。
『ふふん、猫はとってもあったかいのよ。アンタも、猫の一匹や二匹や十匹くらい瞬時に被れるようになりなさい。ここは権謀術数渦巻き、魑魅魍魎の蠢く王宮よ。それくらいで味方が増えるなら、安いもんでしょ』
『・・・がんばる』
『宜しい』
「そうでしたか」
「ええ。シエロお兄様は、ネロお兄様とわたくしのことをとても心配してくださっているのです。ねえ、シエロお兄様」
「はい。ネロとネレイシアのことが心配で、なにも考えずに正妃様……アストレイヤ様のお部屋へ乱入してしまいました。皆様には、ご迷惑をお掛け致しました。大変申し訳ないことをしたと思っています」
と、落ち込んだ顔でキッパリと頭を下げるシエロたん。
「いえ、仲の良い弟妹の心配をするのは当然のことです。しかし、今後はこのようなことがないようお気を付けくださいませ」
アストレイヤ様の使用人が言う。
ふっ、どうやらシエロたんの愛くるしさに、これ以上の追及をやめたようね! お咎め無しとは、さすがシエロたんの麗しいお顔だわ!
『それで、これからどうすんの? ねーちゃん』
『そうねー。折角アンタと会えたんだから、作戦会議と行きましょうか?』
『どこで?』
『そこらをぶらぶらしながら、とか? ほら、うち来るとシエロたんがめっちゃ危険だし? シエロたんの離宮にあたしが行くと、なにを口実にしてあのクソアマの手の者が出入りするかわからないし』
『・・・なにげに、俺とねーちゃんが安全に会える場所って少ないんだな』
難しい顔で呟く蒼。
『本当に・・・美少年が不足したらどうしてくれるのかしら? 一体、どこでシエロたんを補給すればいいのっ!?』
『相っ変わらず、腐ってんな?』
『ふっ、仮令、この身体が麗しの魔性美ショタに成り果てようとも、あたしの心は立派に発酵した腐女子な乙女!』
『・・・発酵ってのは、有益な腐り方の総称なんだがな?』
『あ、そだ。アンタ、あんまりアストレイヤ様の前で日本語使わないようにしなさい』
『え? なんで? こっちの人、ほとんど日本語わかんなくね?』
『バカね。意味のわからない言語でも、ある程度の話を聞けば、どの国の言葉か判るじゃない』
『? いや、だから日本語ってわかんないんじゃないの?』
『だから、自分の知らない言語だってことが判るじゃない。で、その知らない言語を調べれば、日本語に行き着く可能性もある。日本語って、母音が多い独特の言葉だし。耳と勘とセンスの良い人。そしてお子様なら、言葉覚えるのあっという間なんだから』
『な、成る程。気を付ける・・・』
なんてことを小声でやり取りしながら、アストレイヤ様の離宮の庭園の隅っこをこそこそ歩く。ちなみに、グレンは黙ってシエロたんとあたしの後ろを付いて来ている。アストレイヤ様のとこの使用人達も監視というか、護衛? 目的で付いているから大人しくしているんだと思う。
『とりあえず、アンタ。明日も来る? おいでって言われてたしさ』
『は? どこに?』
『アストレイヤ様の休憩時間兼、あたしとのお茶会』
『はあっ!? いや、明日もお茶会って、ねーちゃんいつの間にアストレイヤ様とそんな仲良くなってんのっ!?』
『ん~と、ほら? 最初にアンタと会って、【愛シエ】のストーリーを思い出した後ね。言ったでしょ? 国王がクソな分の負担やしわ寄せが、全~部正妃さんに全部行ってることに気付いて。それで、正妃さんを労おうと思ったの。一人で正妃さんの離宮に侵入してお花を置いて来るミッションを二週間程繰り返してたら、捕獲されちゃって。それで、花をくれるなら直接手渡せって言われて茶飲み友達になったの』
『ねーちゃんの行動力っ!?』
__________
茜「ちなみに、お姉ちゃんは日本語と英語は勿論のこと。大まかになら、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ロシア語、北京語、広東語、韓国語、アラビア語……くらいまでなら、どの国の言語かをある程度判別できるわ」( -`ω-)✧ドヤッ
蒼「マジかっ!?」Σ(゚Д゚〃)!
茜「当然! 発音や韻、響きが違うもの。ま、どの言語かを推察できるだけで、意味はわからないけどね? ある程度の会話ができるのは、英語とスペイン語と北京語くらいなものね」(ゝω・´★)
蒼「ええっ!? ねーちゃん、そんな話せんのっ!? すっげー」Σ(*゚Д゚*)
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