上 下
6 / 7

しおりを挟む


「直ぐにこの屋敷を出ます。付いて来て、もらえるかしら?」

 それから、黙ってこくこくと頷いてくれた小鳥さん達と大急ぎで荷物をまとめ上げ、三人だけで傷心旅行・・・・へと向かうことにしました。

 王子妃教育で培った地理と諸外国の情報を精査し、今から最短で向かえる外国を目指して移動。

 袖の下とお嬢様の我儘とをごり押しし、外国へ向かう船に乗ることができました。

「・・・これからどうすんだよ? お嬢さま」
「外国行く、ですか?」

 不安そうな顔で小鳥さん達がわたくしを見上げます。

「そうねぇ・・・とりあえずは、着いた先の国で国籍を取得しましょうか」
「国籍を取ったらどうするんだ?」

 国籍を取得して、それから・・・

「お別れ、しましょう」

 もう、手を放さなきゃ。

「は?」
「お嬢、さま?」
「今まで一緒にいてくれてありがとう。二人には、とても感謝しているわ。でも、ほら? こうして出奔してしまったから、わたくしはもう貴族令嬢ではないでしょう? だから、もういいの」

 わたくしの傍にいてくれなくても。

「なに、を」
「もう、わたくしから解放してあげるわ。長い間、ごめんなさいね」

 わたくしの言葉に、目を見開く小鳥さん達。

「わたし達を捨てるのかっ!?」
「わたし達は要らない、ですか?」
「いいえ。あなた達に、わたくしが必要無いの」

 長い間、わたくしが縛り付け、その自由を奪ってしまった可愛い可愛い小鳥さん達。

 いつもいつも追い詰められて、ギリギリの精神状態だった幼いわたくしに子守唄を歌ってくれて、安らぎを教えてくれて、つんとした態度を取りながも、わたくしのことを心配してくれた小鳥さん達。

 あなた達二人がいなかったら、わたくしはとうの昔に潰れてしまっていたことでしょう。

 これまで、わたくしの心を守ってくれてありがとう。愛しているわ、小鳥さん達。

 愛しているの。愛して、いるから・・・

 だから、どうかもう・・・

「わたくしから、自由になって?」
「・・・本当に、自由にしていいんだな?」

 じっと、わたくしを見据える小鳥さん。

「ええ。その、国籍を取得するまでは一緒にいてもらうことになるけれど・・・それまでは、我慢してちょうだいね? その後は、ちゃんと手を放すから」
「ったくもうっ!? この、手の掛かるアホアホお嬢さまはっ!?」
「へ?」
「アンタはっ、わたしが歌わないと情緒不安定で夜も眠れないだろうがっ!?」
「そ、それは・・・」
「わたしがお手伝いしないと、お着替えもできない、です」
「ぅ……そ、それは、その、ドレスだったからです。もっと簡単なお洋服なら、ちゃんと自分で着替えられるもの」
「買い物は? 食事の用意は? 掃除や洗濯は?」
「え? え~と?」
「どれも全部、やったことなんかねぇだろ? アンタは生粋のお嬢さまだからな。そんなアンタが、一人で生きて行けんのか?」

 ふん、とわたくしを鼻で笑う小鳥さん。

「ど、どうにかしますわ」
「そうかよ? で、アンタは独りになって、わたし達に自由をくれるってワケ?」
「ええ。あなた達二人の自由は、保障します。少ないですが、お金も持たせます」
「それなら、今まで通り面倒見てやるよ。な?」
「うん」

 二人して顔を見合わせる小鳥さん達。

「え? あの?」
「自由にしていいってんなら、そうさせてもらう。文句は言わせねぇ。大体な、一人でなんっにもできねぇ上、わたしが歌わねぇといつまでも眠れない、そんな手の掛かるアンタを一人になんかできっかよ?」
「そんな、わ、わたくしだって頑張れば、どうにか……それに、一人だって、あなたの子守唄が無くったって眠れるようになります!」

 そうじゃないと、いけないの。

「あーも-ウルサいなっ! わたしがっ……いや、俺がアンタを放っとけないんだよ! いいから黙って俺の傍にいろ! アンタとコイツの二人くらい、俺が面倒見てやるから!」
「え?」
「つか、そろそろ女装もキツくなって来てたし、あのままあの屋敷にいたら、声の維持の為、危うく男を・・やめさせ・・・・られる・・・とこだったからな。どうにか飯の量減らして成長遅くしてたけど、もうそれも限界だったんだ」
「??」
お兄ちゃん・・・・・は、大変だった。凄く頑張ってた」
「おう。そんな涙ぐましい努力も、全部アンタの傍にいる為だったんだが・・・それももう、必要無ぇ。身長だって直ぐに追い抜いてやる。せいぜい覚悟してろよ?」

 低い声でニヤリと笑った小鳥さんが、わたくしへ顔を近付け・・・

「なぁ、お嬢さま」
「っ!?」

 ふっ、と柔らかい熱がわたくしの唇を掠めました。

「王子サマが、他の連中が要らねぇってんなら、俺がアンタを貰ってやる」

 こうしてわたくしは、のように可愛がっていた小鳥さんに貰われることになってしまいました。

 まさか、わたくしの小鳥さんが、男の子だったなんて・・・全く知りませんでしたし、思ってもみませんでしたわっ!?


 ――おわり――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

完結 勇者様、己の実力だといつから勘違いしてたんですか?

音爽(ネソウ)
恋愛
勇者だと持ち上げられた彼はこれまでの功績すべてが自分のものと思い込む。 たしかに前衛に立つ彼は目立つ存在だった、しかしペアを組んだ彼女がいてこそなのだが……。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...