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しおりを挟む「直ぐにこの屋敷を出ます。付いて来て、もらえるかしら?」
それから、黙ってこくこくと頷いてくれた小鳥さん達と大急ぎで荷物をまとめ上げ、三人だけで傷心旅行へと向かうことにしました。
王子妃教育で培った地理と諸外国の情報を精査し、今から最短で向かえる外国を目指して移動。
袖の下とお嬢様の我儘とをごり押しし、外国へ向かう船に乗ることができました。
「・・・これからどうすんだよ? お嬢さま」
「外国行く、ですか?」
不安そうな顔で小鳥さん達がわたくしを見上げます。
「そうねぇ・・・とりあえずは、着いた先の国で国籍を取得しましょうか」
「国籍を取ったらどうするんだ?」
国籍を取得して、それから・・・
「お別れ、しましょう」
もう、手を放さなきゃ。
「は?」
「お嬢、さま?」
「今まで一緒にいてくれてありがとう。二人には、とても感謝しているわ。でも、ほら? こうして出奔してしまったから、わたくしはもう貴族令嬢ではないでしょう? だから、もういいの」
わたくしの傍にいてくれなくても。
「なに、を」
「もう、わたくしから解放してあげるわ。長い間、ごめんなさいね」
わたくしの言葉に、目を見開く小鳥さん達。
「わたし達を捨てるのかっ!?」
「わたし達は要らない、ですか?」
「いいえ。あなた達に、わたくしが必要無いの」
長い間、わたくしが縛り付け、その自由を奪ってしまった可愛い可愛い小鳥さん達。
いつもいつも追い詰められて、ギリギリの精神状態だった幼いわたくしに子守唄を歌ってくれて、安らぎを教えてくれて、つんとした態度を取りながも、わたくしのことを心配してくれた小鳥さん達。
あなた達二人がいなかったら、わたくしはとうの昔に潰れてしまっていたことでしょう。
これまで、わたくしの心を守ってくれてありがとう。愛しているわ、小鳥さん達。
愛しているの。愛して、いるから・・・
だから、どうかもう・・・
「わたくしから、自由になって?」
「・・・本当に、自由にしていいんだな?」
じっと、わたくしを見据える小鳥さん。
「ええ。その、国籍を取得するまでは一緒にいてもらうことになるけれど・・・それまでは、我慢してちょうだいね? その後は、ちゃんと手を放すから」
「ったくもうっ!? この、手の掛かるアホアホお嬢さまはっ!?」
「へ?」
「アンタはっ、わたしが歌わないと情緒不安定で夜も眠れないだろうがっ!?」
「そ、それは・・・」
「わたしがお手伝いしないと、お着替えもできない、です」
「ぅ……そ、それは、その、ドレスだったからです。もっと簡単なお洋服なら、ちゃんと自分で着替えられるもの」
「買い物は? 食事の用意は? 掃除や洗濯は?」
「え? え~と?」
「どれも全部、やったことなんかねぇだろ? アンタは生粋のお嬢さまだからな。そんなアンタが、一人で生きて行けんのか?」
ふん、とわたくしを鼻で笑う小鳥さん。
「ど、どうにかしますわ」
「そうかよ? で、アンタは独りになって、わたし達に自由をくれるってワケ?」
「ええ。あなた達二人の自由は、保障します。少ないですが、お金も持たせます」
「それなら、今まで通り面倒見てやるよ。な?」
「うん」
二人して顔を見合わせる小鳥さん達。
「え? あの?」
「自由にしていいってんなら、そうさせてもらう。文句は言わせねぇ。大体な、一人でなんっにもできねぇ上、わたしが歌わねぇといつまでも眠れない、そんな手の掛かるアンタを一人になんかできっかよ?」
「そんな、わ、わたくしだって頑張れば、どうにか……それに、一人だって、あなたの子守唄が無くったって眠れるようになります!」
そうじゃないと、いけないの。
「あーも-ウルサいなっ! わたしがっ……いや、俺がアンタを放っとけないんだよ! いいから黙って俺の傍にいろ! アンタとコイツの二人くらい、俺が面倒見てやるから!」
「え?」
「つか、そろそろ女装もキツくなって来てたし、あのままあの屋敷にいたら、声の維持の為、危うく男をやめさせられるとこだったからな。どうにか飯の量減らして成長遅くしてたけど、もうそれも限界だったんだ」
「??」
「お兄ちゃんは、大変だった。凄く頑張ってた」
「おう。そんな涙ぐましい努力も、全部アンタの傍にいる為だったんだが・・・それももう、必要無ぇ。身長だって直ぐに追い抜いてやる。せいぜい覚悟してろよ?」
低い声でニヤリと笑った小鳥さんが、わたくしへ顔を近付け・・・
「なぁ、お嬢さま」
「っ!?」
ふっ、と柔らかい熱がわたくしの唇を掠めました。
「王子サマが、他の連中が要らねぇってんなら、俺がアンタを貰ってやる」
こうしてわたくしは、妹のように可愛がっていた小鳥さんに貰われることになってしまいました。
まさか、わたくしの小鳥さんが、男の子だったなんて・・・全く知りませんでしたし、思ってもみませんでしたわっ!?
――おわり――
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