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ヴァンパイア編。

120.あーあ、早く終らねーかな?

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 ああ、めんどい・・・

 ドレス着て、優雅に微笑むとか?
 全くもって面白くない。
 作り笑い続けンの、疲れるし。
 後で顔面つったりするかも。

 それにしても、会場に入ってから周りの視線とか? めっちゃウザいんだけど。

 なんだか純血のヒトがやたら多い。

 ニヤニヤとオレを見て、あざけっている。
 ヒソヒソと交わされる嘲笑。

 ホンっト、純血至上主義の連中はヤだな。

 一応、兄さんアダマスの血の匂いをさせてはいるが、オレが純血じゃないことはどうせすぐ判る。

 兄さんの従者とか思われているらしい。

 現に、「従者のクセにパーティーに…」「なんて生意気」「貴公子の戯れだろう」「身の程知らず」「給仕が参加とは」「場違い」「なぜ奴隷が」…だとか言う囁きが聴こえてるし。

 奴隷とか・・・腹立つわ。ハーフやアンデットの吸血鬼はみんな奴隷扱いってか?

 まあ、この会場では兄さんの部下のアンデットの吸血鬼が給仕係として働いているけど・・・

 兄さんは彼らを奴隷扱いなどしていないのに。

 純血至上主義共の、自分達以外の存在を見下すこの傲慢さが大嫌いだ。

 今のオレの隣にはリリが立っているから、あからさまに侮辱をしに来てないだけだろう。
 人魚リリは、アダマスのシンパという扱いで、そんな人魚に海で・・喧嘩を売る馬鹿は、そういない。
 あと、非差別主義として有名な兄さんのモノという扱いだからというのもあるだろう。

 兄さんは、差別を露にする態度を好まない。主催の好まない行動を自制できるくらいには、この参加者達は馬鹿じゃないということ。

 けど、もし一人で立っていたら…兄さんのモノというていでなかったら、すぐさま因縁を付けられて軽く乱闘騒ぎになっていたかもしれない。

 愛玩動物や奴隷になれだのクソな申し出を有り難がって受けろとか、ンなの反吐が出る。

 見た目に寄って来る野郎共が嫌いだ。
 見当違いの嫉妬をして来る見苦しい女達も嫌い。

 混血や人間は劣っていて、自分達はその劣等種の上位に位置している。そんな自分達は、下等なモノになにをしても、どんな扱いをしてもいいと思っているクソ共が嫌いだ。

 だから、そういう純血至上主義愚か者共が多く参加しているパーティーは嫌いなんだ。ちなみに、純血種の大半が愚か者それに当たる。

 ・・・それでも、ヴァンパイアの純血至上主義共は、混血の存在を下等な劣等種として扱いはするが、その生存・・を、ある程度は認めているから・・・混血オレの生存さえもゆるそうとしなかった…狂ったような存在否定を向けて来たあの連中よりは、ほんの少しだけマシ。

 まあ、兄さんのモノに手を出して、アダマスへ喧嘩を売る度胸のある奴はさすがにいないけど。
 いたとしても、パーティー開始前には、まだ仕掛けて来ないだろう。

 兄さんが会場の壇上へ立ち、挨拶をする。

 あーあ、早く終らねーかな?
 まだ始まってもないけどさ・・・

 他種族混合ならそうでもないけど、純血種のヴァンパイアが多い、こういうパーティーは、本当に嫌い。

 リリを見て気分和ませよ。

 ああ・・・やっぱリリは可愛い♪今日は赤みの強い紅茶色の髪の毛をアップにして少し大人っぽい感じ。けど、なんでレモンイエローのドレスを? いや、ドレス自体は可愛いよ? 清楚な感じでさ。

 けど・・・なにも、わざわざ黄色の薔薇をモチーフにすることはないと思うんだ。

 ねぇ、リリ。誰に嫉妬なの?って、みんな疑問に思っていると思うんだよ。

 一応、「君のすべてが可憐」という花言葉もあるけど、やっぱり黄色い薔薇は、「嫉妬」や「愛情の薄らぎ」の方が花言葉としては有名だからね。

 白薔薇もなぁ・・・花言葉は、「私はあなたに相応しい」や「尊敬」とかだし。

 ホント、兄さんは・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 会場へ集った方々へ、

「これより、仮面舞踏会マスカレイドを開始します!」

 フェンネル様が告げました。

 会場には、入口で配布したアイマスクと参加章を胸元へ付けて顔を隠したヒト達が数百名。
 各々、タキシードや燕尾服、スーツなどを着用した殿方。思い思いに色とりどりのドレスで着飾ったご婦人方が薄い笑みを浮かべてあちこちでひそひそと囁き合っています。

 かんに障るようなさざめきもありますが、今は・・それにぐっと我慢して無視をします。アレク様への言動を、後で後悔すればいいのですから。

 そして、仮面舞踏会マスカレイドは素性の詮索をするのがタブーとされていますが、主催のフェンネル様にはその匿名性も意味がありません。

 挨拶をなされたのですから、フェンネル様が誰なのかは、一目瞭然です。

 なので、そんなフェンネル様へよしみを結ぼうと、虎視眈々こしたんたんと狙っておられる方々ばかりなのです。

 けれど、そこは冷血の君と称されるフェンネル様。冷たい態度とお言葉でさっとかわして・・・

 白薔薇を象った飾りの施されたアイマスクを付け、その神秘的な銀色の浮かぶ翡翠の瞳をお隠しになり、椿お姉様を思わせる艶やかな黒髪ウィッグなびかせたアレク様へと向かって歩いて行きます。

 黒髪に、黒く塗った眉毛。
 ほんのりと柔らかく笑んだ赤い唇。
 アイマスクで目元をお隠しになられても、その輝かんばかりの美貌は匂い立ちます。

 ハイネックのノースリーブスの飾り気の無い、シンプルなワインレッドの天鵞絨びろうど布地のドレスから華奢な白い肩が覗き、二の腕までの白絹の長手袋がその白い肌を覆い隠します。露出自体は少ないのに、だからこそ秘められた色気が滲み出ているのです。そして、普段は隠されている女性らしく丸みを帯びた胸元を飾るのは、リリがお贈りした真珠のネックレスです。ほっそりしたウエストから曲線を描く腰をAラインのスカートが流れて行き、踝丈でアレク様の脚線美を覆い隠します。その足元は、爪先を覆うキラキラとした華奢な、少し踵の高い黒エナメルのミュールです。

 アレク様は男装時にはリリの王子様ですが、ドレスをお召しになられると・・・

 美し過ぎますわっ!?!?

 変装に拠ってその魅力は抑えられている筈ですのに、輝かんばかりに満ち溢れる女性的な魅力♥️

 露出を好まないアレク様の、普段は拝見することの叶わぬ、白く目映まばゆい肩から二の腕にかけてのラインとおみ足っ・・・是が非でも、この目に焼き付けなくてはっ!!!

 ああ…溜息が出る程の美しさ・・・♥️
 瞬きする時間さえも惜しいことです。

 まあ、あのアレク様のほんのり浮かぶ微笑みは、作り笑いだと判ってはおりますが・・・

 アレク様は本心では、きっと全く違うことを考えておられることでしょう。

 しかし、幾らでも眺めて…いえ、いつまでもくことなく、見蕩みとれていられますわ♥️

 ですのにっ!

「ようこそ。僕の愛しいヒト」

 フェンネル様がっ、そんなお美しいアレク様へ手を差し伸べますっ!

 リリの隣へいる、アレク様へとっ・・・

 柔らかい微笑みを浮かべるフェンネルへ、おずおずと恥じらい(の、演技でっ!?)応じるアレク様・・・

「…はい」
「愛していますよ」

 普段から冷たいお顔と冷えた態度しか見せることのないフェンネル様の、柔らかくも愛おしげな表情とお声とに一挙にざわつく会場内。

 この全てが茶番だと判ってはいますがっ・・・非常に耐え難く感じますわっ!!

 リリもその、アレク様の恥じらうお顔…無論、演技だとは判っておりますが…を、間近でっ、真正面から拝見したかったですわっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

「綺麗ですよ」
「…フェンネル様…そんな…」

 戸惑うような声は、地声のアルトよりも少し高く、硬質な響きが抑えられて柔らかさを感じさせる…作っている声。なのですが、ロゼットへ名前を呼ばれる嬉しさに、胸が高鳴ります。

 まあ、演技だと判っていますが・・・

 口元は微笑んでいます。しかし、アイマスクに隠されたロゼットのその瞳の奥は、全く楽しくなさそうです。
 全く楽しげでなく、つまらないという感情が諸バレでも、僕に付き合ってくれる貴女は本当にいじらしくて素晴らしく可愛らしいのですけれど。

 いつか本当に、貴女にフェンネルと自然に名前で呼ばれるような関係になってみせましょう。

 けれど、ロゼットが楽しくないのは道理。

 この会場には、貴女を貶めるような愚かしいさざめきが漂っているのですからね。

 全く、僕の愛しいロゼットを愚弄するなど、万死に値するというのにっ!

 あと、ロゼットへけがれた好色な視線を向けている有象無象の塵屑ゴミクズ共っ・・・幾らロゼットが麗しいとはいえ、赦せません。至極不愉快です。

 いつだったか、ロゼットを飼うなどとのたまったクソ共のように、後で必ず地獄を見せてやる。
 …そうだな? とりあえずはその腐った視線を送る目玉を抉り出し、死なないギリギリまで全身を細切れに刻んでり潰し、じっくりと最大限の苦痛と恐怖を与えてから、灰も残さず、その存在を入念に消そう…

 ですがその前に、今はロゼットを安心させなくては。ロゼットは繊細ですからね。怯えているかもしれません。

「すみません。もう少しだけ、我慢してください」

 ロゼットの黒髪ウィッグを撫でながら耳元へ小さく囁くと、小さく頷き返してくれました。

「大丈夫…です」

 ああ…僕の白薔薇ロゼットっ!?
 貴女はなんて愛らしいっ!!!

「ぁ…フェンネル様…」

 思わずその細い身体を引き寄せ、抱き締めます。

「そんな貴女だから…愛おしい…」

 今すぐに吸血キスしたいという衝動を、ロゼットを強く抱き締め、その柔らかい頬へ口付けを落とすことでやり過ごします。

 さすがに、衆人環視でそのような行為ことはしません。ロゼットの為っ…断固として我慢ですっ!?

「フェンネル様っ、お放しください!」

 しかしっ…なんたることでしょうっ!?
 羞恥に染まる貴女も、愛らしいっ…

「すみません…もう少し、このままで…」
「そんな、困ります…皆さまが、見ておいでです」

『見られてて恥ずかしいんだから、さっさと放してよ? 兄さん』…という副音声が聴こえるような気がしますが、ロゼットの余所行きの言葉と猫かぶりの反応も新鮮で可愛らしいですね。

 無論、普段のロゼットが可愛らしくないというワケではありませんよ?
 しかしっ…離したくありませんともっ!?

「もう、フェンネル様ったら…相変わらずなんですから。あまり、困らせないでください…」

 ムッとしたように僕を見上げるロゼット。

「・・・っ!」

 いえ、ロゼット?

 困っているのは、僕の方ですよ?

 貴女が、愛らし過ぎて・・・

 今一瞬、心臓が止まりそうになりましたよ?
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