上 下
105 / 179
ヴァンパイア編。

96.小娘。暇してるなら、少し付き合いなさい。

しおりを挟む
「お土産のお菓子食べて機嫌直してよ? アル」

 というクラウドの誘いを、

「ヤだ」

 と、蹴ってお菓子は全部カイルに進呈した。

「ンでもって、しばらくはクラウドのままでいて、オレにベタベタするな」

 と言っておく。

「はいはい、わかったよ」

 苦笑気味に頷くクラウド。

 女状態ルーを殴るワケにはいかないので、男状態クラウドをぶん投げて海へ落とすくらいで溜飲を下げはしたが、オレはまだ、怒っているのだ。

 怒っている。けど・・・クラウドは、そんなオレを微笑ましいという表情で見下ろす。

「? どうしたの? アル」

 なんか、子供扱いされている気がする。

「・・・部屋戻る。ついて来るな」
「わかった。それじゃあ、後でね?」

 柔らかい優しい声が、余計に腹立つ。

 アクセルさんから届いた血液を部屋へ持って行き、かごの底に手紙が入っていることに気付く。

 一枚目はアマラとの取引について。

 これは後でアマラに確認するとして・・・

 二枚目は、やっぱり兄さんに関しての内容。

 どうやら兄さんは今、リリの船にいるらしい。

 兄さん主催での株主総会、またはアダマスの関係者を呼んでのパーティーは、リリの船で開催されるかもしれない…とのこと。

 リリと兄さんは、あんまり仲良いイメージないんだけどな? なんかこう、二人が顔を合わせる度、チクチク言い合いをしている印象だ。アクアス銀行の専務と、アダマスの経営全般の統轄とうかつ者として。

 二人共仕事熱心だからなぁ。

 なんというか、二人は見る度に「仕事をしては如何ですか?」とお互いに言い合っている。
 お茶会なんだから、お茶を楽しめばいいのにさ? ある意味、仲良しなのかもしれない。

「はぁ・・・」

 兄さんについては、対策のしようがない。

 兄さんに会うときにはレオが必須だというのに。

 今は、そのレオに接触するのが難しいという状況。

 どうするかなぁ・・・

「ぁ~ぅ~~………」

 アレだ・・・うん。それは後で考えよう。

 どうせ考えたって答えは出ない。

 というか、招待状とかも? まだ来てねーしっ!

 招待状が来てから考えよう!

 兄さんについては、思考を投げた。

 ということで、部屋を出て・・・

「アマラー、話あるんだけど?」

 コンコンと船底のドアを適当にノックする。

 この船は人魚アマラの船なので、リリの船と似たような感じなのだと思う。

 だから、船の主であるアマラへ声をかけて呼べば、すぐに応えてくれるだろう。けど、アマラと顔を合わせて話したいので船底まで来てみた。

『なによ? アタシは今忙しいの。話だけなら、その場で適当に話してなさい。聞くだけは聞くから』

 船底に、面倒だと言わんばかりのハスキーな声が響く。が、引き下がるワケにはいかない。

 アマラに返事をしてもらわねば困る。

「アクセルさんから質問。アクセルさんがここに契約書を持って来るか、アマラがアクセルさんとこに行くのか、どっちがいいか聞いてほしいってさ? ちなみに、契約書自体はもうできてるから、アマラの都合のいい時間と日時を調整するんだって」

 相変わらず、優秀な商人っ振りというか・・・

「仕事早いよねー」

『・・・ちょっと、待ってなさい』

 考えるようなアマラの返事。

「はいよ」

 少しして、ノックした部屋とは別の部屋のドアがカチャリと開いて、アマラが顔を出した。

「入ンなさい」
「お邪魔しまーす」

※※※※※※※※※※※※※※※

「で、どういうこと?」
「ん? なにが?」
「ブライトの若様に決まってンでしょ」

 にぶい小娘を見下ろす。

「契約書は持って来るだとか言ってたじゃない」
「ああ、なんか、自分の船に入られるのが嫌じゃなければお邪魔しますってことでしょ。他種族を嫌ってる人魚への配慮ってやつ?」

 小娘の言葉に、眉を寄せる。

「アタシ、人魚だなんて名乗ってないわよ」
「そこはほら、あのヒトは商人だからね。他の人魚との取引とかでの情報なんじゃないの? リリもアマラのこと知ってたしさ」

 そうだったっ!? ものすごっく、有り得る!

 アタシや馬鹿姉、百合娘みたいな人魚の方がかなり特殊で少なくて、他の人魚おんな共は基本頭ゆるゆるピンクなお花畑だったわっ!?

 普通に、賄賂わいろに弱いだろうし、口も頭も、ついでに尻も軽い・・・残念な仲間おバカ達。

「はぁぁぁ・・・」

 思わず、深い溜息。

「? どうかした? アマラ」
「・・・いえ、ちょっと…仲間の残念さに、涙が出そうになっただけよ・・・」
「? 人魚が残念なの?」

 きょとんと首を傾げる小娘。

 まあ、そりゃあ小娘には普通の人魚おんな共の残念さは、わからないだろう。
 だって、海上そとの世界に出すのは、基本的には優秀で頭の良い人魚だけだもの。

「リリは可愛いよ?」
「アレはアレで、別の意味で残念でしょ」

 人魚のクセに百合なんだから・・・

「?」
「まあ、アタシに迫って来ないから、あの百合娘には割と好感が持てるんだけどね」
「ああ……なんか、色々と大変なやつ・・・」

 同情するような翡翠の瞳。
 そう言う小娘だって、政略結婚から逃げているんだからお互い様だ。・・・いや、「お互い苦労するね」という視線なのかしら?

 まあいいわ。つつくと薮蛇だろうから・・・

 しかし、買い物か……盲点だったわ。

 おバカ共も買い物くらいするわよね……

 侮れないわね。商人達・・・

「さて、どうするかという質問だったわね?」
「うん」
「行くわ。小娘、付き合いなさい」
「なんでオレ?」

 なんで? そんなの当然、アタシ一人で行きたくないからに決まってるじゃない! …とは言わない。

「アンタあの若様と知り合いでしょうが? それも、家族ぐるみでお付き合いする仲」
「ぁ~…まあ、ね…」

 微妙な顔で頷く小娘。

 あら? なにか、地雷だったかしら?

 小娘…アルは、ヴァンパイアのハーフだ。そしてブライト家は、混ざりモノとして有名な家。

 その辺りは非常に繊細な問題だ。おいそれと、他人が簡単に刺激していいことじゃない。

「・・・なんか、困ることがあるってンなら、ちゃんと言いなさいよ。無理強いはしないから」

 少し考えているようなアルを見下ろす。

「いや…まあ、時間帯かな? 一応、昼間だったら付き合ってもいいよ。夕方や夜…日が落ちてからは、ヴァンパイアや吸血鬼が出入りするだろうからね。かち合うと厄介だからさ」
「わかったわ。じゃあ、明日お昼に出掛けるわよ」
「OK。お昼ね」
「ということで、小娘。暇してるなら、少し付き合いなさい」
「? なにに?」

 にっこりと笑顔で見下ろすと、

「あ、オレ今ちょっと、丁度用事できた」

 なにを察知したのか、あからさまに下手な嘘を言って逃げようとする小娘。

「そう。暇なのね? よかったわ。実際にアンタがドレス着てるとこが見たかったのよ♪」
「あ、いや、アマラ?」

 ガシッと小娘の肩を掴む。

「ふふっ…逃がさないわよ? 小娘」
「の~~~っ!?」

 小娘を、ドレスのある部屋へ移動させる。

 さあ、着せ替え着せ替え♪

__________

 リリとフェンネルは、勿論アルを取り合っています。仕事行けと互いに牽制。アルはそれを、二人共仕事熱心だなぁと思ってます。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

侯爵令嬢は婚約者(仮)がお嫌い

ハシモト
恋愛
ある日、侯爵令嬢シルフィに婚約者(仮)があてがわれた。 仮婚約者の名はネヴィル。公爵家の次男にして跡継ぎの将来有望な美丈夫である。 しかし、シルフィはこの男、ネヴィルが大の苦手なのだ。 シルフィはこの婚約を取り下げるよう、公爵邸に交渉しに行くのだが…。 二人のすれ違い、じれじれなラブストーリー。

処理中です...