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ヴァンパイア編。
65.フェンネル様が非常に不憫に思えて来ました…
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「?」
「どうしました? リリアナイト様」
ペンを止めたわたくしに秘書が問い掛けます。
「フェンネル様がこちらへ向かっています。お迎えの準備をしてください」
「只今」
それから、十分程後。
執務室のドアがノックされました。
「リリアナイト。あなたへ面会を希望します」
「どうぞ、お入りくださいフェンネル様」
「仕事中失礼します」
執務室へ入って来たのは、冷たい表情の殿方。
ミルクティー色の髪に、灰色の浮かぶセピア色の瞳、ノンフレームの眼鏡を掛け、貴公子然とした風貌の見目麗しい・・・アレク様のお兄様。
アレク様とは似ておりませんが、アレク様の実のお兄様だそうです。異母間の、ですが。
「ええ。今丁度、重要な書類を執筆中でしたが、全くお気になさらないでくださいませ?フェンネル様なら、いつでも歓迎致しますわ。お茶でも如何でしょうか?」
にこりと微笑みますが、フェンネル様の険しいお顔は変わりません。苛立っておいでのようです。
「結構です。お茶なんかより、いい加減に、僕をあなたの船から降ろして頂けませんか?」
やはり、その件ですか。
「フェンネル様。わたくし共のおもてなしに、なにか不備がありましたでしょうか? 不備や不満がおありでしたら、遠慮無く仰ってくださいませ。すぐに改善致しますわ」
「不備はありませんが、不満ならば大いにありますね。僕は船を出たいのですが?」
「まあ…フェンネル様のご不満なら、是非とも解消して差し上げたいのですが、大変心苦しいことに、それは叶えて差し上げられません」
「・・・白々しいですね、リリアナイト。父上の命令なのでしょう? 僕をあなたの船へ軟禁するのが」
フェンネル様の仰る通りですが、それを認めるワケには行きません。
そして、フェンネル様をアレク様の下へ行かせてなるものですかっ!!!
アレク様は、フェンネル様を苦手とされていらっしゃいますからね。
フェンネル様に押されると、非常に困ったお顔をされるのです。
そして…アレク様は、レオンハルトさんへ助けを求めるのです! アレク様の困ったお顔も大変麗しいのですがっ…アレク様がレオンハルトさんを頼るのは、とても悔しいのですっ!?
ですから、アレク様はリリがお守り致します!
リリは、アレク様には笑顔でいてほしいのです!
ですから、ローレル様。リリは、全力でフェンネル様と闘いますともっ!? ですが、ローレル様の援護射撃は有り難く活用させて頂きますわ。
「・・・フェンネル様」
「なんですか? リリアナイト」
「実は、レオンハルトさんからのお手紙です」
抽出しから封筒を取り出して、フェンネル様へそっと差し出します。
「ハルトから? そんな物は欲しくありません」
「そうですか。では、わたくしが頂いても宜しいのですか? フェンネル様」
「なぜあなたが、ハルトの手紙を欲しがるのですか? リリアナイト」
「アレク様からのお手紙が入っているとか」
言い終える前に、
「それを早く言いなさいっ!? リリアナイト!」
目の色を変えたフェンネル様にバッと手紙が引ったくるように奪い取られます。
フェンネル様へのアレク様からのお手紙は、レオンハルトさん経由で渡されることが多いそうなので、全く疑われてはいないようですね。
そして、フェンネル様が真剣なお顔でそっと封筒を開いて、丁寧に便箋を開き・・・
「…ロゼット・・・」
冷たい表情のそのお顔が、険しくなりました。
「アレク様はなんと書いていらしたのですか? 宜しければお聞かせください、フェンネル様」
内容が気になります。
「…いいでしょう。リリアナイト、見なさい」
お手紙を、広げて見せてくれました。
それは、確かにアレク様の字でした。
アレク様愛用のインク、アレク様の筆跡です。
アレク様の香水の匂いも致します。
しかし・・・『仕事中』『格好いい』『二割増し』『兄さん』『仕事』『頑張れ』『アルより』・・・という、走り書きのような紙の切れ端が、脅迫状のように便箋へと適当に貼り付けられていました。
「なんてことでしょう・・・」
低いテノールが、呟きました。
「見ましたか…リリアナイト」
確かに、これは酷いです。
「ええ。これは、その・・・」
アレク様は普段香水は付けませんし、脅迫状テイストで、文体も内容なども適当。いえ、脅迫状の方がまだ手が込んでいます。ローレル様…色々と残念且つ杜撰過ぎではないでしょうか?
「・・・仕事をしている兄さんは、格好いい。二割増しで。だから、仕事を頑張れ。アルより・・・ロゼットが僕の仕事を労って、応援してくれていますよっ!!」
パァっと、フェンネル様のお顔が蕩けました。
「え?」
なんでしょう? 聞き間違い、ですか?
「ロゼットが、僕を格好いいだなんてっ! ああっ…こんな手紙に書いて寄越すだなんて、ロゼットはいじらしいとは思いませんかっ? なんて愛らしいっ…」
「・・・」
・・・なんでしょうね?
フェンネル様が非常に不憫に思えて来ました…
ですが、リリは闘いますとも!
この不憫なフェンネル様と!
「・・・フェンネル様」
「なんでしょう? リリアナイト」
「お仕事をなされては如何でしょう? 折角、アレク様が格好いいと仰っていますもの」
「ええ。片付けて来ます。では、失礼」
フェンネル様が、上機嫌で部屋へ戻りました。
あんな雑なやらせ手紙一枚で、引き留められてしまうとは・・・冷血の君と称される普段のフェンネル様からは、とても信じられません。
抽出しの中には、ローレル様からお預かりした手紙がまだ入っています。
・・・あれも、雑なやらせ手紙でしょうか?
アレク様、リリは頑張りますっ!
「どうしました? リリアナイト様」
ペンを止めたわたくしに秘書が問い掛けます。
「フェンネル様がこちらへ向かっています。お迎えの準備をしてください」
「只今」
それから、十分程後。
執務室のドアがノックされました。
「リリアナイト。あなたへ面会を希望します」
「どうぞ、お入りくださいフェンネル様」
「仕事中失礼します」
執務室へ入って来たのは、冷たい表情の殿方。
ミルクティー色の髪に、灰色の浮かぶセピア色の瞳、ノンフレームの眼鏡を掛け、貴公子然とした風貌の見目麗しい・・・アレク様のお兄様。
アレク様とは似ておりませんが、アレク様の実のお兄様だそうです。異母間の、ですが。
「ええ。今丁度、重要な書類を執筆中でしたが、全くお気になさらないでくださいませ?フェンネル様なら、いつでも歓迎致しますわ。お茶でも如何でしょうか?」
にこりと微笑みますが、フェンネル様の険しいお顔は変わりません。苛立っておいでのようです。
「結構です。お茶なんかより、いい加減に、僕をあなたの船から降ろして頂けませんか?」
やはり、その件ですか。
「フェンネル様。わたくし共のおもてなしに、なにか不備がありましたでしょうか? 不備や不満がおありでしたら、遠慮無く仰ってくださいませ。すぐに改善致しますわ」
「不備はありませんが、不満ならば大いにありますね。僕は船を出たいのですが?」
「まあ…フェンネル様のご不満なら、是非とも解消して差し上げたいのですが、大変心苦しいことに、それは叶えて差し上げられません」
「・・・白々しいですね、リリアナイト。父上の命令なのでしょう? 僕をあなたの船へ軟禁するのが」
フェンネル様の仰る通りですが、それを認めるワケには行きません。
そして、フェンネル様をアレク様の下へ行かせてなるものですかっ!!!
アレク様は、フェンネル様を苦手とされていらっしゃいますからね。
フェンネル様に押されると、非常に困ったお顔をされるのです。
そして…アレク様は、レオンハルトさんへ助けを求めるのです! アレク様の困ったお顔も大変麗しいのですがっ…アレク様がレオンハルトさんを頼るのは、とても悔しいのですっ!?
ですから、アレク様はリリがお守り致します!
リリは、アレク様には笑顔でいてほしいのです!
ですから、ローレル様。リリは、全力でフェンネル様と闘いますともっ!? ですが、ローレル様の援護射撃は有り難く活用させて頂きますわ。
「・・・フェンネル様」
「なんですか? リリアナイト」
「実は、レオンハルトさんからのお手紙です」
抽出しから封筒を取り出して、フェンネル様へそっと差し出します。
「ハルトから? そんな物は欲しくありません」
「そうですか。では、わたくしが頂いても宜しいのですか? フェンネル様」
「なぜあなたが、ハルトの手紙を欲しがるのですか? リリアナイト」
「アレク様からのお手紙が入っているとか」
言い終える前に、
「それを早く言いなさいっ!? リリアナイト!」
目の色を変えたフェンネル様にバッと手紙が引ったくるように奪い取られます。
フェンネル様へのアレク様からのお手紙は、レオンハルトさん経由で渡されることが多いそうなので、全く疑われてはいないようですね。
そして、フェンネル様が真剣なお顔でそっと封筒を開いて、丁寧に便箋を開き・・・
「…ロゼット・・・」
冷たい表情のそのお顔が、険しくなりました。
「アレク様はなんと書いていらしたのですか? 宜しければお聞かせください、フェンネル様」
内容が気になります。
「…いいでしょう。リリアナイト、見なさい」
お手紙を、広げて見せてくれました。
それは、確かにアレク様の字でした。
アレク様愛用のインク、アレク様の筆跡です。
アレク様の香水の匂いも致します。
しかし・・・『仕事中』『格好いい』『二割増し』『兄さん』『仕事』『頑張れ』『アルより』・・・という、走り書きのような紙の切れ端が、脅迫状のように便箋へと適当に貼り付けられていました。
「なんてことでしょう・・・」
低いテノールが、呟きました。
「見ましたか…リリアナイト」
確かに、これは酷いです。
「ええ。これは、その・・・」
アレク様は普段香水は付けませんし、脅迫状テイストで、文体も内容なども適当。いえ、脅迫状の方がまだ手が込んでいます。ローレル様…色々と残念且つ杜撰過ぎではないでしょうか?
「・・・仕事をしている兄さんは、格好いい。二割増しで。だから、仕事を頑張れ。アルより・・・ロゼットが僕の仕事を労って、応援してくれていますよっ!!」
パァっと、フェンネル様のお顔が蕩けました。
「え?」
なんでしょう? 聞き間違い、ですか?
「ロゼットが、僕を格好いいだなんてっ! ああっ…こんな手紙に書いて寄越すだなんて、ロゼットはいじらしいとは思いませんかっ? なんて愛らしいっ…」
「・・・」
・・・なんでしょうね?
フェンネル様が非常に不憫に思えて来ました…
ですが、リリは闘いますとも!
この不憫なフェンネル様と!
「・・・フェンネル様」
「なんでしょう? リリアナイト」
「お仕事をなされては如何でしょう? 折角、アレク様が格好いいと仰っていますもの」
「ええ。片付けて来ます。では、失礼」
フェンネル様が、上機嫌で部屋へ戻りました。
あんな雑なやらせ手紙一枚で、引き留められてしまうとは・・・冷血の君と称される普段のフェンネル様からは、とても信じられません。
抽出しの中には、ローレル様からお預かりした手紙がまだ入っています。
・・・あれも、雑なやらせ手紙でしょうか?
アレク様、リリは頑張りますっ!
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