25 / 179
ヴァンパイア編。
24.御厨の手伝いするー?
しおりを挟む
鬼百合を名乗る人魚が慌ただしく去ってから数日。
怪我が全快してからのアルは、眠そうでもなく、怠そうにもしていない。船酔いも特にはしない性質らしい。それはいいことだが・・・
「雪君暇ー」
こうして、食堂に来てだらだらしている。
「船旅がこんなに暇だとは思わなかった」
退屈そうな呟きを、
「ま、アル君はお客さんだからねー」
微妙に皮肉る。
「暇なら、掃除でもしてればー?」
「カイルが、僕の仕事を盗る気っ?だってさ」
カイルか…ま、アイツは掃除好きだからな。
「ンじゃ、御厨の手伝いするー?」
「どんなの?」
「アル君はなにができるー?」
「ん~・・・一応、料理はできなくもないかな? 普通のじゃなくて、野戦料理が多いけどさ」
上品そうな顔でしれっと野戦料理と来やがったか。つくづくコイツは、お嬢様らしくない奴だ。
まあ、それ以前に、全く女らしくもない…というか、自分は、アルを男か女かで認識したこともなかったが・・・むしろコイツ、そこらの野郎共より漢らしいのはガキの頃からだったしな。
「なに? 動物の丸焼きとか?」
「そうだねー。あと、茸鍋とか?」
「茸? 見分け方判ンのか? アル」
茸は食べられる種類より、食べられない種類の方が圧倒的に多い。食べられない茸は、無論毒茸だ。
幾ら自分達が人間よりもかなり丈夫にできているとはいえ、毒の程度に因っては死ぬ。毒物の見分けは、できるに越したことはない。
「一応はねー? って言っても、オレは毒効かないから、猛毒食っても平気だし。ちゃんと見分けできてたかは不明。いや、何度かレオが当たっていたような・・・?」
首を傾げるアル。
なんて恐ろしい奴だ。自分が毒が効かないからと、毒物を兄貴に食わせるとは・・・
「・・・お前に茸の見分けは、絶対ぇさせん。つか、レオンさん、よく無事だったな…」
いや、待て。確か今、何度かっつったか? あのヒト、アルには過保護だとは思っていたが・・・まさか、毒料理を何度も食う程とはな……
昔はあの過保護さを不思議に思っていたが・・・シスコン、とやらか?
「まあね。レオも、ある程度は毒物に耐性付けてるから。あと、ここ海だし。茸無いじゃん」
どこかの島に上陸する機会は偶にある。アルがそれまでこの船にいるのかはわからないが、そこで食料の調達をするようなこともあるかもしれない。だが、コイツに食料調達を任せるのはよそう。他の奴が危険だ。
「・・・他は?」
「保存食作るの上手いよ? 干物とか」
「ああ、あれか…」
トマトを、一瞬でドライトマトにしていたやつ。
「あと、野菜とか果物を長持ちさせるのも得意」
「マジかっ? よし、やれっ!」
「いいよ」
アルを厨房の方へ通し、食料保管庫へ入れる。
「さあ、やれ」
「ほいよ」
アルが人差し指を空中へ向けると、
「液体化」
ドッと空中に水が湧き出、そのまま宙をふよふよと漂う。アルの得意な水分の操作だ。ガキの頃よりも規模がでかくなっている。
「相変わらず、便利な能力だな…」
水分を含んだ空気…水蒸気さえ有れば、どこにでも真水が出せるのだという。砂漠や乾燥地帯では難しいらしいが。水に困らないのは有り難いことだ。
船上に於いての真水の確保は、常に死活問題となる。水も腐敗するからだ。そして当然、腐敗した水は飲めない。下手すりゃ、死ぬ。
船乗りが酒をよく飲んでいるイメージがあるのは、水の代わりに、腐敗し難い液体の酒を飲んで水分補給をしているという側面もある。
一応、アマラにも海水から真水の精製はできる。だから、真水の確保に困窮したことは無い。だがしかし、あの野郎…「日光はお肌の大敵なのよっ!」だとかのたまって基本昼は船底から出て来ねぇし。無視されても呼び続けると、しまいにゃ音も遮断しやがる。
この船に乗ってからは真水に困窮したことはしないが、昼間などには困ったことがある。
真水の確保・・・アルがいる間は、アマラじゃなくてコイツに頼むのもありだな。
「まあね。じゃあ、長持ちさせたい食品を水ン中突っ込んで。芋とか、水分を抜いた方がいいのは入れないでね」
コイツ、なかなかわかっている。
芋や玉葱など一部の野菜は、ある程度乾燥させて水分を抜いた方が長持ちもするし、味もよくなる。干からびると当然、味は落ちるがな?
「おう、わかった」
ぽいぽいと、野菜や果物を宙を漂う水球の中へ放り込む。水の中から落ちることもなく、ふよふよと揺れる野菜と果物は不思議な光景だ。
「これで終わり?」
「ああ」
「んじゃ、水分浸透」
アルが人差し指をくるくる回すと、水球がぐぐっと一回り…二回り程も小さくなった。そして、心なしか野菜や果物の張りがよくなったような気がする。
野菜や果物が水を吸っているのだろうか?
「ほい、終わり。雪君、取り出して」
とぷんと水球へ手を突っ込み、アルが野菜を取り出す。
「おう♪」
取り出した野菜や果物は、まるで採れたてのような艶と張りで、さっきまで萎びかけていたことが嘘のように瑞々しい。
更には、水が全く付着していない。野菜や果物を拭く手間が省けた。野菜や果物は、濡れていると早く傷むのだ。
「助かったぜ、アル」
船旅をするにあたり、生鮮食品の保存は大変ネックだ。無論、腐らせないようある程度の工夫はしているが、これはそんなレベルじゃない。
「どういたしまして」
アルが軽く手を振ると、宙を漂っていた水球がパッと霧散。どことなく気温が下がった気がする。
「で、他なんかすることある?」
暇だというなら、これからもアルに頼むとしよう。生鮮食品の保存が大分楽になる。
怪我が全快してからのアルは、眠そうでもなく、怠そうにもしていない。船酔いも特にはしない性質らしい。それはいいことだが・・・
「雪君暇ー」
こうして、食堂に来てだらだらしている。
「船旅がこんなに暇だとは思わなかった」
退屈そうな呟きを、
「ま、アル君はお客さんだからねー」
微妙に皮肉る。
「暇なら、掃除でもしてればー?」
「カイルが、僕の仕事を盗る気っ?だってさ」
カイルか…ま、アイツは掃除好きだからな。
「ンじゃ、御厨の手伝いするー?」
「どんなの?」
「アル君はなにができるー?」
「ん~・・・一応、料理はできなくもないかな? 普通のじゃなくて、野戦料理が多いけどさ」
上品そうな顔でしれっと野戦料理と来やがったか。つくづくコイツは、お嬢様らしくない奴だ。
まあ、それ以前に、全く女らしくもない…というか、自分は、アルを男か女かで認識したこともなかったが・・・むしろコイツ、そこらの野郎共より漢らしいのはガキの頃からだったしな。
「なに? 動物の丸焼きとか?」
「そうだねー。あと、茸鍋とか?」
「茸? 見分け方判ンのか? アル」
茸は食べられる種類より、食べられない種類の方が圧倒的に多い。食べられない茸は、無論毒茸だ。
幾ら自分達が人間よりもかなり丈夫にできているとはいえ、毒の程度に因っては死ぬ。毒物の見分けは、できるに越したことはない。
「一応はねー? って言っても、オレは毒効かないから、猛毒食っても平気だし。ちゃんと見分けできてたかは不明。いや、何度かレオが当たっていたような・・・?」
首を傾げるアル。
なんて恐ろしい奴だ。自分が毒が効かないからと、毒物を兄貴に食わせるとは・・・
「・・・お前に茸の見分けは、絶対ぇさせん。つか、レオンさん、よく無事だったな…」
いや、待て。確か今、何度かっつったか? あのヒト、アルには過保護だとは思っていたが・・・まさか、毒料理を何度も食う程とはな……
昔はあの過保護さを不思議に思っていたが・・・シスコン、とやらか?
「まあね。レオも、ある程度は毒物に耐性付けてるから。あと、ここ海だし。茸無いじゃん」
どこかの島に上陸する機会は偶にある。アルがそれまでこの船にいるのかはわからないが、そこで食料の調達をするようなこともあるかもしれない。だが、コイツに食料調達を任せるのはよそう。他の奴が危険だ。
「・・・他は?」
「保存食作るの上手いよ? 干物とか」
「ああ、あれか…」
トマトを、一瞬でドライトマトにしていたやつ。
「あと、野菜とか果物を長持ちさせるのも得意」
「マジかっ? よし、やれっ!」
「いいよ」
アルを厨房の方へ通し、食料保管庫へ入れる。
「さあ、やれ」
「ほいよ」
アルが人差し指を空中へ向けると、
「液体化」
ドッと空中に水が湧き出、そのまま宙をふよふよと漂う。アルの得意な水分の操作だ。ガキの頃よりも規模がでかくなっている。
「相変わらず、便利な能力だな…」
水分を含んだ空気…水蒸気さえ有れば、どこにでも真水が出せるのだという。砂漠や乾燥地帯では難しいらしいが。水に困らないのは有り難いことだ。
船上に於いての真水の確保は、常に死活問題となる。水も腐敗するからだ。そして当然、腐敗した水は飲めない。下手すりゃ、死ぬ。
船乗りが酒をよく飲んでいるイメージがあるのは、水の代わりに、腐敗し難い液体の酒を飲んで水分補給をしているという側面もある。
一応、アマラにも海水から真水の精製はできる。だから、真水の確保に困窮したことは無い。だがしかし、あの野郎…「日光はお肌の大敵なのよっ!」だとかのたまって基本昼は船底から出て来ねぇし。無視されても呼び続けると、しまいにゃ音も遮断しやがる。
この船に乗ってからは真水に困窮したことはしないが、昼間などには困ったことがある。
真水の確保・・・アルがいる間は、アマラじゃなくてコイツに頼むのもありだな。
「まあね。じゃあ、長持ちさせたい食品を水ン中突っ込んで。芋とか、水分を抜いた方がいいのは入れないでね」
コイツ、なかなかわかっている。
芋や玉葱など一部の野菜は、ある程度乾燥させて水分を抜いた方が長持ちもするし、味もよくなる。干からびると当然、味は落ちるがな?
「おう、わかった」
ぽいぽいと、野菜や果物を宙を漂う水球の中へ放り込む。水の中から落ちることもなく、ふよふよと揺れる野菜と果物は不思議な光景だ。
「これで終わり?」
「ああ」
「んじゃ、水分浸透」
アルが人差し指をくるくる回すと、水球がぐぐっと一回り…二回り程も小さくなった。そして、心なしか野菜や果物の張りがよくなったような気がする。
野菜や果物が水を吸っているのだろうか?
「ほい、終わり。雪君、取り出して」
とぷんと水球へ手を突っ込み、アルが野菜を取り出す。
「おう♪」
取り出した野菜や果物は、まるで採れたてのような艶と張りで、さっきまで萎びかけていたことが嘘のように瑞々しい。
更には、水が全く付着していない。野菜や果物を拭く手間が省けた。野菜や果物は、濡れていると早く傷むのだ。
「助かったぜ、アル」
船旅をするにあたり、生鮮食品の保存は大変ネックだ。無論、腐らせないようある程度の工夫はしているが、これはそんなレベルじゃない。
「どういたしまして」
アルが軽く手を振ると、宙を漂っていた水球がパッと霧散。どことなく気温が下がった気がする。
「で、他なんかすることある?」
暇だというなら、これからもアルに頼むとしよう。生鮮食品の保存が大分楽になる。
0
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう
なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。
だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。
バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。
※他サイトでも掲載しています
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
侯爵令嬢は婚約者(仮)がお嫌い
ハシモト
恋愛
ある日、侯爵令嬢シルフィに婚約者(仮)があてがわれた。
仮婚約者の名はネヴィル。公爵家の次男にして跡継ぎの将来有望な美丈夫である。
しかし、シルフィはこの男、ネヴィルが大の苦手なのだ。
シルフィはこの婚約を取り下げるよう、公爵邸に交渉しに行くのだが…。
二人のすれ違い、じれじれなラブストーリー。
魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。
imu
ファンタジー
花の都 ヨシュクラダンカ王国
美しい花々が咲き乱れ、一年を通して穏やかな気候、観光地としても人気であり、人々の活気に溢れるこの国は、世界で人口の3%程しかいない魔力保持者が多いと言われている場所でもある。
___さて、このお話は、そんな国で魔術師として仕事も、恋も、自分なりに精一杯頑張る、1人の少女のお話です。
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる