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ヴァンパイア編。
19.ローレルの独白。
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娘を思い浮かべると、最初に思うのは・・・光の加減で、金色にも銀色にも見える美しいプラチナプロンド。
それを月色だと喩えたのは、シーフェイドだったか・・・フェンネルには白薔薇に喩えられ、椿には天使のようだと称される娘の容姿。
翡翠の瞳に銀色の瞳孔。色素の薄い、染み一つ無い白磁の白い肌。母親と似ているが、彼女は甘やかな雰囲気を持つ女性的な容貌だった。アレクの方が凜とした雰囲気を纏っており、中性的な印象を持つ。
性格は少々ドライ気味で、割と…かなり男寄りな性格に育ってしまったが、それは仕方がない。スティングに預けたからな・・・ヴァンパイアにしてはまともな感性を持つ、家族想いの優しい娘。
アレクシア・ロゼット・アダマス。
それが、秘匿された娘の名前。名乗ることを許していない本名。普段はアルと称している。
アレク、アレクシア、またはロゼット。これは普段、家族しか呼ぶことのない娘の名前だ。
ロゼット。という名はアレクの母親が付けたが・・・その意味に反し、アレクの半生は楽観的なものではない。
アレクはリュース…母方の血を色濃く受け継いだようで、真祖直系のヴァンパイアとしては異常に能力が低く、血をあまり受けつけられない程に弱かった。
うちの血族は、始祖である真祖がとち狂っていて、数百年程の周期で発作的に子孫を殺して歩く為、うちでは引き取りたくはなかった。
しかしアレクは・・・判っていたことだが、向こうの一族には、死を望まれる程に疎まれていた。母親は、毎日のようにアレクを殺せと言われ続けて精神に変調をきたすようになり・・・俺が育てるしかなくなった。
だから、仕方無く相談したのだ。アレクを、どう育てればいいのかと。子殺しの真祖の片割れ、うちのもう一人の始祖の、『あのヒト』へと。…彼と接触すれば、奴に目を付けられるリスクは当然あったのだが・・・
その結果、アレクは子殺しの始祖に拐《さら》われ、重篤な損傷を負った。
拐われたアレクを取り戻す前に、アレクのその記憶と人格とが損なわれていたことを知った。
子殺しの始祖に、手酷い扱われ方をされたせいで変質したアレク。
漸く取り戻せるというとき、手が届く直前に、またしてもアレクは奴に・・・壊された。奴の血を飲まされた上、致命傷を受けたアレクの呼吸と心臓は、俺の目の前で…止まった。
それを必死で繋いで、どうにか生かすことに成功した。
子殺しの始祖は、アレクを殺したと思っている。そのことを利用して、アレクを徹底的に隠すことにした。スティング一家に預け、生き残らせる為の教育を任せた。
アレクの記憶と、奴から受けた血を、『あのヒト』と、彼の旧い知り合いに封印してもらって。
守る為に、アレクを手放した。
アレクには父親だと認識され、定期的に会ってはいたが、家族としては暮らせていない。
その存在を、秘匿した。
それから、約二百年・・・
とうとう奴が、動き出した。
ヴァンパイアは、真祖に近いモノ程、他生物からの栄養補給を必要としない。魔力や精気を取り込むだけで存在維持ができる個体にとって、食事は嗜好品に過ぎない。
その、栄養補給を必要としない真祖の奴が、アレクの血を飲んでいた。
そして、アレクは、奴の血を与えられた。
それが意味することは・・・考えたくもない。
アレクを奴に、絶対に遭わせるワケには行かない。
だからアレクに、結婚か幽閉かを迫った。
アレクへの選択だが、同時に俺への選択でもある。
手元に置いて守るか、他の誰かに娘を守らせるかの選択。
アレクの婚約者候補の条件は二つ。それは、俺が信用できる相手で、死んでもアレクを守るという気概のある奴。
子殺しの片割れの『あのヒト』に責任を取らせようとも一瞬思いはしたが、それはそれでアレクが一生奴に付け狙われそうなのでやめた。それに、自分よりも若作りな先祖の爺に娘はやりたくないとも思ったし、なにより・・・奴は異常に粘着質でクレイジーなブラコンのサイコ野郎だ。あんなのが義弟として付いて来るなど、アレクがあまりにも可哀想過ぎる。
なので、フェンネル、シーフェイド、レオンハルト、そしてスティングと、とある旧い夢魔。あと、もう一人の六名を提示したが・・・
冗談ではないと一蹴された。今のところのアレクの選んだ選択肢は、自分で身を守るという自衛。
奴はアレクが生きていることを知らない。ならば、アレクがあちこちを放浪している方が、奴と遭遇する確率は低い筈だ。
どうせ奴は俺を殺しに来るだろうから…アレクをうちには近寄らせないことにした。数十年間、奴が活動を停止するまでの期間。
それで、アレクの放浪を選択肢に入れた。
守る為に、また手放すという選択肢。
だが、奴と遭遇しそうになれば…直ちに連れ戻す。
そして、無理矢理にでも結婚か幽閉を実行する。
アレクに恨まれても構わない。それで守れるというのなら、娘を妻にすることも、厭わない。恨まれ、憎まれようとも、俺には家族が生きていることの方が大事だ。
二度と奴に、家族を奪われて堪るか。
その前に、奴を・・・子殺しの始祖を、殺す。
そう、決めた。
__________
ロゼットという名前には、『大切な』、『宝石』、『薔薇』、『薔薇色の人生』という意味があったりします。
それを月色だと喩えたのは、シーフェイドだったか・・・フェンネルには白薔薇に喩えられ、椿には天使のようだと称される娘の容姿。
翡翠の瞳に銀色の瞳孔。色素の薄い、染み一つ無い白磁の白い肌。母親と似ているが、彼女は甘やかな雰囲気を持つ女性的な容貌だった。アレクの方が凜とした雰囲気を纏っており、中性的な印象を持つ。
性格は少々ドライ気味で、割と…かなり男寄りな性格に育ってしまったが、それは仕方がない。スティングに預けたからな・・・ヴァンパイアにしてはまともな感性を持つ、家族想いの優しい娘。
アレクシア・ロゼット・アダマス。
それが、秘匿された娘の名前。名乗ることを許していない本名。普段はアルと称している。
アレク、アレクシア、またはロゼット。これは普段、家族しか呼ぶことのない娘の名前だ。
ロゼット。という名はアレクの母親が付けたが・・・その意味に反し、アレクの半生は楽観的なものではない。
アレクはリュース…母方の血を色濃く受け継いだようで、真祖直系のヴァンパイアとしては異常に能力が低く、血をあまり受けつけられない程に弱かった。
うちの血族は、始祖である真祖がとち狂っていて、数百年程の周期で発作的に子孫を殺して歩く為、うちでは引き取りたくはなかった。
しかしアレクは・・・判っていたことだが、向こうの一族には、死を望まれる程に疎まれていた。母親は、毎日のようにアレクを殺せと言われ続けて精神に変調をきたすようになり・・・俺が育てるしかなくなった。
だから、仕方無く相談したのだ。アレクを、どう育てればいいのかと。子殺しの真祖の片割れ、うちのもう一人の始祖の、『あのヒト』へと。…彼と接触すれば、奴に目を付けられるリスクは当然あったのだが・・・
その結果、アレクは子殺しの始祖に拐《さら》われ、重篤な損傷を負った。
拐われたアレクを取り戻す前に、アレクのその記憶と人格とが損なわれていたことを知った。
子殺しの始祖に、手酷い扱われ方をされたせいで変質したアレク。
漸く取り戻せるというとき、手が届く直前に、またしてもアレクは奴に・・・壊された。奴の血を飲まされた上、致命傷を受けたアレクの呼吸と心臓は、俺の目の前で…止まった。
それを必死で繋いで、どうにか生かすことに成功した。
子殺しの始祖は、アレクを殺したと思っている。そのことを利用して、アレクを徹底的に隠すことにした。スティング一家に預け、生き残らせる為の教育を任せた。
アレクの記憶と、奴から受けた血を、『あのヒト』と、彼の旧い知り合いに封印してもらって。
守る為に、アレクを手放した。
アレクには父親だと認識され、定期的に会ってはいたが、家族としては暮らせていない。
その存在を、秘匿した。
それから、約二百年・・・
とうとう奴が、動き出した。
ヴァンパイアは、真祖に近いモノ程、他生物からの栄養補給を必要としない。魔力や精気を取り込むだけで存在維持ができる個体にとって、食事は嗜好品に過ぎない。
その、栄養補給を必要としない真祖の奴が、アレクの血を飲んでいた。
そして、アレクは、奴の血を与えられた。
それが意味することは・・・考えたくもない。
アレクを奴に、絶対に遭わせるワケには行かない。
だからアレクに、結婚か幽閉かを迫った。
アレクへの選択だが、同時に俺への選択でもある。
手元に置いて守るか、他の誰かに娘を守らせるかの選択。
アレクの婚約者候補の条件は二つ。それは、俺が信用できる相手で、死んでもアレクを守るという気概のある奴。
子殺しの片割れの『あのヒト』に責任を取らせようとも一瞬思いはしたが、それはそれでアレクが一生奴に付け狙われそうなのでやめた。それに、自分よりも若作りな先祖の爺に娘はやりたくないとも思ったし、なにより・・・奴は異常に粘着質でクレイジーなブラコンのサイコ野郎だ。あんなのが義弟として付いて来るなど、アレクがあまりにも可哀想過ぎる。
なので、フェンネル、シーフェイド、レオンハルト、そしてスティングと、とある旧い夢魔。あと、もう一人の六名を提示したが・・・
冗談ではないと一蹴された。今のところのアレクの選んだ選択肢は、自分で身を守るという自衛。
奴はアレクが生きていることを知らない。ならば、アレクがあちこちを放浪している方が、奴と遭遇する確率は低い筈だ。
どうせ奴は俺を殺しに来るだろうから…アレクをうちには近寄らせないことにした。数十年間、奴が活動を停止するまでの期間。
それで、アレクの放浪を選択肢に入れた。
守る為に、また手放すという選択肢。
だが、奴と遭遇しそうになれば…直ちに連れ戻す。
そして、無理矢理にでも結婚か幽閉を実行する。
アレクに恨まれても構わない。それで守れるというのなら、娘を妻にすることも、厭わない。恨まれ、憎まれようとも、俺には家族が生きていることの方が大事だ。
二度と奴に、家族を奪われて堪るか。
その前に、奴を・・・子殺しの始祖を、殺す。
そう、決めた。
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ロゼットという名前には、『大切な』、『宝石』、『薔薇』、『薔薇色の人生』という意味があったりします。
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