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いろんな意味で初記録伝説を作ってやったぜ☆
しおりを挟む見送りは無く、寄せ集めのパーティーは城を発った。
最初は大変だったぜ。
姫さんは長いこと虐待されてたからか、些細な物音にも常にびくびくおどおどして、こっちが話し掛けても怖がってたし。護衛のおっさんは、そんな姫を見て俺にガルガルしてた。でも、めげずに話し掛け続けていたら、徐々に怖がられなくなって行った。
姫さんは十四歳という年齢よりも大分小柄で細っこくて、二つ三つ程幼く見えた。なんつーか、あれなんだよなー。自分よりも小さい女の子が常に怯えてる姿とか、そういうのは好きじゃない。
姫さん折角、ちょー可愛いのにさ? 怯えた表情より、笑ってる顔が見たいじゃん? 男としては。あと、姫さんめっちゃ警戒心の強い小動物っぽかったし。俺、リスとか好きなんだよなー。ちなみに、同じ齧歯類でも鼠は普通に大嫌いだけど。
近所のちびっこにしてたように頭を撫でようとして、ぎゅっとして身を固くしたの見たときとかちょー居た堪れなかったぜ。なんつーの? ああ、この子は日常的に暴力を振るわれてる子なんだなぁ……ってのが、察せられてさ?
俺、そういうのマジで大っ嫌い。姫さんは、可愛くてマジの王女様でお姫様なのさ? 本当なら、もっと大事にされて然るべきなのに……って。ちなみに、目の前で腕を上に上げるような仕種を見ると身を固くしてぎゅってなるから、ほっぺたを撫でることにした。
女の子のほっぺたはすべすべで柔らかい。おっさんにはガルガルされるけど、一瞬ビクッとした後姫さんが恥ずかしそうに……でも、とっても嬉しそうな顔で笑うから。なんか癖になっちゃったかも。
ああ、この子はあんまり人に頭を撫でられたことが無いんだ……ってのが判った。なんつーか、アレだよなー? こ~んな可愛くて性格だって悪くない、素直でいい子が家族に虐げられるって、マジ理不尽な世の中だよなぁ……
アリシアさんは、そんな姫さんをずっとにこにこ見てたけど。
俺がじりじり距離を詰めて行くのに対し、穏やかに、常ににこやかに微笑んでいる美女アリシアさんに、姫さんは徐々に警戒するのをやめて――――アリシアさんに懐いた。女同士ってのもあるんだろうけどさ?
まあ、なんつーか・・・それが、姫さんが『ヒャッハー!』するようになった主な原因なんだが。
そして、段々俺にビクっとして身を固くすることも少なくなって来た頃。
「そ、その……アリシアさんとヴァーグさん、は……ど、どうしてわたく……じゃなくて、わたし。わたし、に、こうして付いて来てくださったんですか?」
と、姫さんが質問して来た。
ちなみに、姫さんの一人称は旅をするのに、自分は上流階級の人間であると宣伝しているようなものだって、アリシアさんが一人称を変えるように言った。ぎこちなく、ちょこちょこ言い直すのがまた可愛らしい。
「んあ? 聞いてなかったっすか?」
「え、ええ。その、わたく……じゃなくて、わたしもいっぱいいっぱいだったので……」
「そっかー。それならしょうがないわなー。俺はねー、魔術学院に平民初で首席合格したワケよ」
「そ、それはすごいですね!」
きらきら見上げる眼差しが眩しいわー。
「あっはっは、ま、ちょいとばかりやらかして、入学初日に退学食らったけどなー? いろんな意味で初記録伝説を作ってやったぜ☆」
「ええっ!? そ、それは笑い事ではないのでは?」
「全くですな」
「ふふっ、ヴァーグ君はどんなおいたをしちゃったのかしら?」
「あ~……なんつーか、王族や貴族の生徒に『平民のクセに首席はおかしい。不正しただろ』っつって言い掛かりの突き上げ食らってー。んで、『だったら証明してやんよ。俺の最大攻撃魔術止められるもんなら止めてみろよ』って、売り言葉に買い言葉で啖呵切って……結果、旧校舎を全壊させちゃいましたっ☆」
「ええっ!? こ、校舎壊しちゃったんですかっ!? け、怪我人はっ?」
おお、姫さんが慌ててる。びっくりした顔も可愛いぜ。
「あ~、怪我人はゼロっす。被害は全壊っつか、崩壊した旧校舎だけっすから」
「あらあら、ヴァーグ君ったらやんちゃしたわね~」
にこにこ笑うアリシアさんに、
「とても、やんちゃで済むどころの騒ぎではないと思うのだが?」
呆れたようなおっさんのツッコミが入る。
「ってワケで、初日で退学させられたんすよ。ま、『平民のちんけな魔術なんぞ簡単に発動阻止してやる』だとか、『やれるもんならやってみろ。平民風情が』って言ったのが王子サマだったんで。『俺、王族にやれって命令されたのでちょー全力でがんばりましたー』ってのをゴリ押しして、どうにか旧校舎の修繕……っつか、建て替え費を免れたんで。ま、色々ガタ来てて、建て替えが検討されてたってのも大きかったようっすけどねー」
うん。この、弁償を免れるのに人生で一番一生懸命んなったかもしれない。まだ十代半ばくらいの若い身空で莫大な借金持ちとか、ガチで勘弁だしさ?
「……ぁ、兄が、すみませんでした」
サッと顔の青ざめた姫さんが謝る。
「ああ、全然お気になさらずー。姫さんな~んも悪くないっしょ。つか、数十名からいた講師陣の誰も俺の魔術止めらんなかったからなー。むしろ、通わなくてよかったかもって、その場で思ったし」
マジで、俺の使った魔術の系統すらも特定できてる奴自体少なかったし。講師陣の中でも数名くらいかなー? 俺の使った魔術が風の魔術で音波を発生させ、対象の固有振動数に干渉し、自壊を招く……ってことを理解できてたのは。
実はこれ、発動してても他人が途中で止めようと思えば割と簡単に止められるのにさ? マジで誰も止めなかったんだよなー?
ぶっちゃけ、風魔術で対象物の固有振動数に合わせた音波を作り出してして自壊を促すんだから、発動しても固有振動数を割り出して照射すんのにちょびっと時間掛かるし。その間に、真空層で魔術の対象物を音波から遮断すればいいだけだし? そしたら無傷で止められたのに。
ま、自壊の音波が出始めて、本格発動してから止めると……共鳴振動を起こすと、その対象となった物体は、多少脆くなったり内部に損傷や欠陥を負ったりするけどさ?
ちなみに、校舎は全壊どころか、自壊して砂に変わった。そして、校舎の固有振動数のみに干渉した為、無論人体には全く影響無し。まあ、校舎が砂んなって崩れてくとこ見て、失神した学院関係者や生徒は除くが。
というワケで、めっちゃ怒られてその場で即刻退学食らった以外は、割とお咎め無しっぽい感じに持ってった。それに関してはちょー頑張ったぜ、俺。
「ふふっ、ヴァーグ君ったら自信家さんねぇ」
「えー? そうっすか? 一応俺、特殊属性以外の魔術は大体使えるしー。元々魔術は誰に教わるワケでもなく扱えたんで、困ることも特に無いんすよー」
俺って、割とオールラウンダーなんだよなー。ちょっと自慢。ま、面倒事はごめんだからほぼほぼ他言しないけど。パーティー組む上では、自分の能力はある程度話さなきゃだし。
「・・・君は、もしかしなくても所謂天才なのだろうか?」
――――――――――――
ヴァーグ君は、『旧校舎を全壊させたガチやべぇ平民首席』、『入学式にやらかして初日で退学になった伝説の平民首席』『王族を実力で黙らせた平民猛者』として、一部で有名人になってます。(*`艸´)
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