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わ、わたくしがその火竜を退治して来ますっ!!

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「あらあら、どういう風の吹き回しでそんなことになったのかしら? ねぇ、ヴァーグ君」

 にこにことアリシアさんが俺に尋ねる。

「ぁ~……アレっすわ。この前、城からの使いが来てたんすよ」
「ええ。知っているわ。事故にでも遭ったら無かったこと・・・・・・にできないかしら? って、思って監視していたもの」

 おー、相変わらず笑顔でにこにこと物騒なこと言うシスターだぜ。

「ヴァーグ君が対応して、その後血相変えてさっさか逃げて行ったから追わなかったけど」

 はっはっは、血相変えて逃げなかったらあの使者共、途中で事故死・・・してたかも? ってことか。命拾いしてよかったなー?

「ああ、あれはですねー。丁度、姫さんがオーガキングと闘って『ヒャッハー!』してたんで、姫さんの最近の日課を教えてあげたんすよ。姫さんここから動かすと、火竜が毎日突撃しに追っ掛けて来んぞー? って、軽~く脅しながら。そしたらもう、ビビッて尻尾巻いて逃げてったんすよ」
「主はそのようなこと、しないと……いや、するだろうか?」

 ぼそりと困った顔で呟くリズリーさん。

「えっ? そ、そんな……アレを見られていたんですか? 恥ずかしい」

 両頬を押さえて恥じらう姫さん。まあ、うん。この場面だけ見ればとっても……非常に可愛らしい美少女だ。『ヒャッハー!』を見られたことに対する恥じらいだが。

「ま、いいんじゃね? 結果オーライっしょ」
「ふふっ、そうね。それじゃあ、お祝いをしましょう♪」
「ハッ、腕によりを掛けて用意致します」

 アリシアさんが微笑み、おっさんが張り切る。

 今日も平和だぜ。

 なぜ、第二王女である姫さんと俺達が火竜退治に出ることになったかというと――――

 ぶっちゃけ、姫さんがお城で虐げられていたからだ。

 姫さんから聞いた話とおっさんから聞いた話を総合して推察すると・・・

 その昔。姫さんは、上に兄三人と姉一人がいる末っ子の、第二王女として普通に王族の扱いを受けながら……多量の魔力を持つ子供として、かなり期待されていたらしい。

 しかし、とあるお茶会でその扱いは一変した。

 姫さんの兄王子二人(第二、第三)がふざけてじゃれ合っていて、勢いそのまま……姫さんとその姉姫がお茶会をしていたテーブルに突っ込んでひっくり返してしまったのだという。

 運悪く出来立ての熱いお茶がティーポットごとぶちまけられ、お茶会は阿鼻叫喚。

 王妃と宮廷医が呼ばれ、至急手当てがなされたという。

 熱いお茶を被った、姉姫が腕に火傷を負った。兄王子達は割れたカップで手足や背中に切り傷を負った。姫さんもまた、顔に熱湯を被って、痛みに泣いていたらしい。

 けれど、姫さんの傷だけ、皆がみている前でみるみるうちに回復したそうだ。

 それを見た王妃が、姫さんには回復魔術の才能があるのだと思って、兄王子と姉姫の傷を治すよう半狂乱で頼んだ。

 しかし、姫さんは他の兄弟達の傷を全く治すことができなかった。

 王妃は、「自分の傷だけ治して兄や姉の傷を治さないとは、なんて薄情な娘なのっ!?」と、ヒステリックに姫さんを強く責め立てたそうだ。

 姫さんは泣きながら、必死で兄弟の傷を治そうとしたというが・・・治なかったんじゃない。治なかったんだ。これは、姫さんの名誉に懸けて言うが、絶対にわざとじゃない。

 だが、「多量の魔力と治癒の才を合わせ持つクセに大事な兄姉の傷を治そうともしない、薄情者め」と国王にも強く叱責されたという。

 この一件以来、姫さんは国王夫妻、そして疵痕の残ってしまった兄王子や姉姫達にも疎まれるようになってしまった。

 こうして、姫さんの理不尽に虐げられる人生が始まってしまった。

 これは事件から大分経った後で判ったとのことだが。姫さんは高い魔力を持つのに、その魔力を体外に放出できないという珍しい体質だった。そんな体質に加え、治癒魔術の才能も持っていた。故に、自己治癒能力が異様に高い。

 けれど、どんなに治癒の才能があっても、姫さんは体外に魔力が放出できないから、他人の傷は治なかったんだ。

 しかし、姫さんは高い魔力を持つ。そして、治癒魔術を使えると思われて・・・・いた。だが、それを自分の為にしか使用しない、『傷を負った兄王子と姉姫を見捨てた悪辣な妹』だと。城の使用人達にも、そう思われて嫌われていたそうだ。

 そんな、自分の傷だけは治せる姫さんを……兄弟と姉は、甚振った。自分達の傷は残ったのに、姫さんだけ綺麗に治ってズルい、と。その報いを受けろ、と。

 酷く理不尽なことを言って、姫さんに暴力を振るい続けた。

 国王も王妃も、使用人達も見ない振り。自業自得だと嗤って姫さんのことを貶めた。耐え兼ねた幼い姫さんが、「酷いことをしないでほしい」と泣きながら訴えれば、「傷が無いのだから、兄や姉のしたことの証拠も無いだろう? この嘘吐きめ」と。

 とんだ思い込みと勘違いにる迫害だ。

 当時、姫さん付きだった護衛騎士は姫さんの扱いに苦言を呈し、近衛の任を解かれて左遷。離れの離宮の番にされたそうだ。

 離宮に追いやられた姫さんは、兄王子と姉姫達に虐げられる日々を送り――――

 数年後のある日。国王に呼ばれた。

「近頃とある山脈に火竜が棲み付き、流通が滞っている。商人達に不便を掛ける故、お前を商人へ嫁がせることとした」

 と、そう言って姫さんを王宮お抱え商人に嫁がせることを宣言した。

 ちなみに、王宮お抱え商人は……あれだ。姫さんとは孫とじいさん程の年の差だ。

 当然、姫さんは嫌がった。

 しかし、これはこの王宮から出られるチャンスだとも思った。

 だから、姫さんは――――

「わ、わたくしがその火竜を退治して来ますっ!!」

 と、口走っちゃったそうだ。

 顔も知らないじーさんに嫁ぐより、火竜と戦って死んだ方がマシ……と、思ったのだとか。なんなら、道中逃げ出すチャンスがあるかも、とか思う辺りは割と強かだ。うん、そういう気概は嫌いじゃないぜ。お姫様がするにしては滅茶苦茶無謀な行動だけどなー?

 国王は、それもいいかと即了承したそうだ。母親も止めなかったそうだ。まあ、クズだな。マジでクソ最低な親だぜ。

 そして、火竜退治のお供として付けられたのが……元々姫さん付きで、姫さんの追いやられた離宮の番をしていた騎士のおっさん。そして、なにやら訳ありシスター・アリシアさん。加えて、魔術学院至上初の平民首席入学者。兼、即日退学をやらかして伝説になった俺という……寄せ集めというか、扱いに困るような連中という感じだ。

 少しの荷物と装備品にそれなりの金子。頑丈な馬車と馬。第二王女の火竜退治に持たされたのは、たったそれだけ。

 見送りは無く、寄せ集めのパーティーは城を発った。

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