2 / 10
我らの戦闘に水を差すとは……
しおりを挟むそれから二週間後。ボッコボコの荒野の僻地に郵便屋さんが来た。マジご苦労さんだぜ。
届いた手紙は、第二王女こと姫さん宛。
「おお~い! 姫さんっ、姫さ~んっ!」
両手を振って大声で呼び掛けると、『ヒャッハー!』していた姫さんがこっちを振り向いた。そして、オーガキングやリザードマンの隊長に断って、こちらへ向かって来る。
「どうしましたか?」
のほほんとした口調で俺へ問い掛ける姫さん。
本っ当、アレだよなぁ。姫さん、闘ってるときと素のギャップがすごいわ。ま、姫さんの師匠譲りっちゃ師匠譲りでもあるけど。
「我らの戦闘に水を差すとは……」
と、鋭い視線を向けるのはオーガキング。
「やー、そろそろ休憩した方がいいんじゃね? アンタらはかなり頑丈だけどさ、姫さんはこれでも人間よ? ちゃんと食事と適度な休息が必要不可欠なワケよ。姫さんが身体壊したら責任取れんの? アリシアさんブチ切れちゃうよ?」
「っ! ……これが人間だと? 我らが主と殴り合いができる奴が本当に人間なのかは怪しいものだ。第一、姫にも疲れた様子は見えないが?」
一瞬の動揺を無かったことにして、オーガキングが鼻を鳴らす。
「え~? 知らないの~? これだから人外ってやつは、全く」
やれやれだぜ。
「人間はなー、食事と睡眠、適度な休息を怠ったり過度な苦痛に晒されると、その代わりに寿命が削られて減ってくんだぜ? 無理し続けるとガタが来て弱くもなるしよ。お前らが姫さんを労らないせいで、姫さんが早死にしたらどうすんだよ?」
ただでさえ姫さんは、苦痛に強いというのに・・・
「……致し方なし。休息を認めよう」
と、面白くなさそうに休憩の許可を出すオーガキング。
「どうもー。んじゃ、姫さん。飯食おうぜ」
「はい。お気遣いありがとうございます、ヴァーグさん」
姫さんが被っていた兜を脱ぐと、肩口で切り揃えられた白い髪と煌めく金色の瞳が現れた。相変わらず、『ヒャッハー!』中とのギャップが凄い。
「ははっ、用意したの俺じゃないけどなー」
「ふふっ」
「お前らも適当に休憩すればー?」
「そ、その、わたし達もご一緒しても宜しいでしょうか?」
と、もじもじと俺を伺うのはガタイのいいリザードマン……いや、リザードウーマンの隊長。
「おー、いいぜ。ま、人数増えると一人当たりの取り分が減るから、その辺りは適当に話し合ってくれ。あ、言っとくけど、俺らの分の飯は譲らねぇから」
「え? で、でも、リズリーさん達にはお世話になっていますし……」
「いえ、姫様。兵站は貴重ですからね。少量でも、分けて頂けることに感謝致します」
「あと、血塗れで食卓囲むの禁止なー? うちにはおっかねぇシスターがいるからなー。ばっちい格好で飯食おうとすると、即行で鉄拳制裁かまされんぜ」
けけけと笑うと、
「ハッ、その辺は重々弁えております!」
「わ、我は行かぬぞ!」
「あ、手洗わなきゃ、アリシアさんに叱られちゃう!」
おっかないシスターを思い出したのか、リザードウーマンの隊長ことリズリーさんとオーガキングの顔色が変わる。姫さんは楽しげな笑顔だ。
「おー、んじゃ、まずは汚れ落としてから行くか」
「はい!」
「ほい、クリーン」
と、洗浄の魔術を使って姫さんの全身鎧に付着した……土や雑草に加え、誰ぞの血飛沫や肉片だとかをまるっと浄化する。
「相変わらず便利ですね。ヴァーグ殿、わたしもお願いしても宜しいでしょうか?」
「おー、クリーン」
「我も」
「はいはい、クリーン」
リズリーさんとオーガキングの汚れも落としてやる。
「そんじゃ、行くか」
「はい!」
途中の湧き水で手を洗ってから向かったのは、火竜の棲み付いた火山内の洞窟。
俺らパーティーも、ここに棲み付いている。俺がめっちゃ魔術使って、そしてリズリーさん達が手伝ってくれて住居環境を整えた。普通の洞窟よりは断然暮らし易い。
「あら、お帰りなさい」
慈愛溢れる笑顔で出迎えてくれたのは、おっかないシスターことアリシアさん。
うん。こっちも相変わらず美人さんだ。そして、シンプルな修道服に隠れている……というか、隠せていないダイナマイツなボディを持つセクシーなシスターさんだ。
「ふふっ、今日はちゃんと手を洗って来たのね。偉いわ」
「はい! ヴァーグさんに注意されました」
「ヴァーグ君もお利口さんね」
「はは、どうもー。つか、腹減ったわー」
「ごはんは用意できてるわ。それじゃあ、皆さんで頂きましょう」
「はい!」
「おー」
「感謝します」
と、そそくさとアリシアさんから逃げ出したオーガキング以外の面々で食卓を囲む。
「では、召し上がれ」
太い声で料理を用意したのは、元々姫さんに付けられた護衛のおっさん。戦闘や護衛としての腕はいまいちだが、今じゃ俺らパーティーに欠かせないおさんどんだ。
護衛のおっさんと俺。そして、シスター・アリシア。この三人が、姫さんの火竜退治に当たって付けられたメンバーだ。普通に、一国の姫に付けられるような面子じゃないだろ、これ。許可した奴、絶対頭おかしいぜ。
侍女とか、お世話係も無しとかさ? ちょーヤバくね? 辛うじて、アリシアさんが女性だけど。それでも、パーティーメンバーだから、姫さんのお世話係じゃないし。
とは言え、この面子だからこうして、この火竜の棲み家と化した火山内の洞窟で一緒に暮らしてんだろうけど。
今日も今日とて美味しい食事を食べ、更にデザートまで食べ終えてから、
「あ、そだ。思い出した。ほい、これ姫さん宛の手紙な」
ぽんとテーブルの上に、先程郵便屋さんが命懸けで届けてくれた手紙を乗せる。
「これ、は……」
サッと姫さんの顔色が青ざめる。
「なんか、お城からの手紙だとよ。さすがに、郵便屋さんから手渡しされたら無視するワケにもいかねぇからさ。一応、見せとかなきゃって」
「そう、ですか……」
「姫、わたしが確認しても?」
「はい……」
おっさんの言葉に沈んだ顔で頷く姫さん。
「では、失礼します」
と、ペーパーナイフで手紙の封が切られ……
「ひっ、姫様っ!?」
おっさんが太い声を上げた。
「姫様には、このまま火竜の監視役を命じるとのことです! このまま、火竜がこの火山から出ないよう見張っていろ、と。そう書かれております!」
「ほ、本当ですかっ!?」
嬉しそうに頬を染め、涙を浮かべる姫さん。
「おー、よかったな? 姫さん」
「……はいっ!!」
「あらあら、どういう風の吹き回しでそんなことになったのかしら? ねぇ、ヴァーグ君」
53
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
閉じ込められた幼き聖女様《完結》
アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」
ある若き当主がそう訴えた。
彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい
「今度はあの方が救われる番です」
涙の訴えは聞き入れられた。
全6話
他社でも公開
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います
みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」
ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。
何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。
私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。
パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。
設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる