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なんでそんな顔をしているんです? 笑ってくださいよ。
しおりを挟む「・・・汚い面だな。どっか消えろよ」
蔑みながら低く言ったわたしへ、大人達はなにか恐ろしいものを見るような視線を向けている。
「どうしたんです? ついさっきまで、彼がわたしを馬鹿にして、暴言を吐いていたときには、皆さん微笑ましいという顔で笑って見ていたじゃないですか? なんでそんな顔をしているんです? 笑ってくださいよ。所詮、子供のすることなのでしょう? 大人になって分別が付けば、直るのでしょう? それまで、長い目で見てほしいのでしょう? まさか、彼がわたしにして来たことは、『笑って許される』のに、わたしが今ちょっと言った言葉を『許さない』、だなんて言わないですよね? 彼にはチャンスを求めるのに? わたしは三年間ずっと、彼にあのようなことを……いえ、もっと酷い態度を取られて来ているのですが? 子供の、照れ隠しの言動は、暴言でも微笑ましいのでしょう? 突き飛ばされて転ばされたり、わざとぶつかられたり、強く腕を引かれたり、髪を引っ張られたりして、何度も何度も怪我をさせられて、学園のみんなの前で罵倒されて、そんなことをするクソ野郎のことを、わたしは心底嫌っているのに。その彼の心情とやらを汲んで、こうして無理矢理お見合いまでさせられているのに。彼と同じ年齢の、子供であるわたしを、差別するのですか? それともまさか、皆さん。わたしが彼に馬鹿にされて、暴言を吐かれて嫌がっている姿を見て、楽しんでいたのですか? それはそれは、嗜虐趣味というとんだ下衆な嗜好をお持ちなことで。楽しかったですか? 面白かったですか? わたしが苦しんでいる姿を、嫌がっている姿を、皆さんで囲んで、寄って集って、嘲笑うのは」
しん、とする席。泣きじゃくる彼。
「ほら、なにか言ってくださいよ。お父様もお母様も、彼の言葉通り、わたしのことをブスだと、不細工だと、地味で可愛くないと思っていたから、笑っていたのですよね? 楽しかったですか? 実の娘が馬鹿にされている姿は」
と、応えを促しても、みんな絶句したまま。
では、確実にこの縁談をぶち壊すために、更に奥の手を披露しよう。
「ちなみにですが、わたし。中等部に入学した頃から、ずっと記録を付けているんです。彼に突き飛ばされたり、わざとぶつかられて怪我をさせられたことを。学園の保健室にも、わたしが怪我をした記録が残っていると思います。わたしを無理矢理婚約させるというのでしたら、教会や学園に、彼の暴力行為を訴えようと思いますので」
暴力や、クソガキに言われた数々の暴言の記録。これを提出すれば、婚約させられたとしても解消に持ち込めるだろう。残念ながら解消にまでは持ち込めなかったとしても、教会に保護してもらえるはずだ。
教会に訴えれば、ことなかれ主義の学園だって動かざるを得ない。
最悪、命の危険を感じると言って大袈裟に騒げばいい。幸い……と言っていいのか、クソガキの家と我が家は、さして爵位や資産の差も無い。政略の意味も大して無いはず。
クソガキとの縁談が破談になっても、クソガキの家に恨まれようとも、わたしは全く困らない。
暴力事件だなんだと騒ぐと、わたしの瑕疵になって、今後の結婚などに支障が出るかもしれないけど・・・わたしは、この暴言クソ野郎と結婚させられて、一生コイツに縛られることの方が、我慢ならない。
そんなわたしの、覚悟を以て宣言した言葉に、大人達は顔を蒼白にした。
「す、すみませんが、今日のところはお開きに……」
絞り出すような震える声で、お見合いの席はあっという間にお開きになった。
・・・並んでた美味しそうな軽食、食べ損ねたっ!? 今日は朝から、なにも食べてないのにっ!
残念に思いながら、俯く両親と馬車へ乗り込む。なにか言いたげな視線を感じるが、わたしが視線を向けると、父も母もなにも言わずに顔を伏せる。
そんな居心地の悪い時間を過ごし、ようやく家に着いたときにはお昼過ぎだった。
予定よりも大分早い帰りと、両親の悪い顔色に、出迎えた使用人達がみんな驚いていた。
お腹が空いたと訴えたら、お昼は食べて来ると思っていたとのことで、昼食は用意していないと言われた。
結局、昼食も食べ損ねた。
慌てて用意してもらったティータイムの軽食を、ガッツリ食べた。ヤケ食いだと思われているのか、なんだかわたしの好きな物がたくさん出て来た。
ヤケ食いというよりは、わたし的にはむしろ、お祝いな感じなんだけどね?
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
まぁ、大人しくしている子が、大人しいままでいるとは限らないですからね。(*`艸´)
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